第22話「授業崩壊~荒ぶるクラスメイト~」

「今日はペア模擬戦の練習の時間です~。面倒なので隣の席の生徒とペア組んで戦ってください~。あ、リリィさんはひとり余ってるようですが魔法に関して大した自信があるようなのでひとりで戦ってください~。はい、それでは自由に戦闘してくださいね~」


 シガヤ先生はいきなりの授業放棄である。


 いかにもやる気がないといった感じで木陰に置いてあったバカンス用の屋外用チェアーに腰を下ろす。そして、懐からサングラスを取り出してかけると、そのまま仰向けになり寝てしまった。


「……本当にどうしようもない教師ですわね」


 リリィは肩を竦めるが――そこへ背後から魔法が飛んできた。

 しかし、リリィほどの魔力の持ち主となると自動魔法障壁を展開できる。

 着弾する前に魔法障壁が発動して、後方で爆発を起こした。


「あら? わたくしに背後から魔法を撃つとは……どうやら生き急いでいる……否、死に急いでいる方がいらっしゃるのかしら?」


 リリィが振り向き、俺たちも攻撃した生徒を注視する。こちらに手を向けていたのはクラスのリーダー格の不良貴族少女……確か、ラビって奴だったかな。


 戦いを制すにはまず情報を制すということで、実は昨夜、クラスメイトの顔画像と簡単なプロフィールつき名簿を師匠から魔法で転送してもらったのだ。

 このラビは六大貴族のうち四番目の家格を誇るダート家の長女だ。


「あんたたちさぁ、マジ気にいらないんだけど! 貴族をバカにしやがって! おまえなんかズタボロにして命乞いさせてやるから!」

「そうだぜ! 舐めやがって! 昨日のようにはいかねぇからな!」


 その横には麗閃一刀流のロイルもいる。

 どうやらこいつらはペアのようだ。


「そうだそうだ! みんなであの三人やっつけちまおうぜ!」

「先生も自由に戦っていいって言ってたしね!」


 クラスメイトたちが悪い意味で一致団結し始めた。

 俺たち三人に向かって全員が敵意を持って、それぞれの戦闘スタイルに入る。


「あわわわわっ! ど、どうしようっ……!」

「ふん、本っ当に弱い者ほど群れますわね……」


 カナタは顔を真っ青にしながら慌て、リリィはバカにしたように笑う。


 あまりクラスメイト相手に禍根を残すのはよくないと思うのだが……こうなると戦いは不可避か。


「まずはあの遅刻令嬢からやっちまおうぜ!」

「雑魚から倒すのが戦場の定石らしいしな!」

「いなくなっちゃえ! どんくさい落ちこぼれ女!」


 ほんと騎士道精神の欠片もない奴らだ。


 もっとも、実際に戦場では脆い部分から攻めるという定石はあってはいるのだが――完全に今のカナタの実力を見誤っている。


「さっさと学校やめなさいよ! ポンコツ! 家からも見捨てられてるくせに!」

「いちいち言動がむかつくのよ! 善人ぶってさ!」

「そんな変な男とつるむよりも俺と遊んだほうが楽しいぜぇ!」


 罵詈雑言を浴びせながら、生徒たちはカナタに向かって魔法を放ってくる。


「わーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」


 目をぐるぐる回してカナタはパニックに陥っている。このまま為すすべもなく魔法が着弾するとクラスメイトたちも思ったろうが―――カナタの周囲に魔法障壁が自動展開して、次々と着弾する魔法を消し飛ばしていった。


「…………はぁ?」

「え? なんで、あんたがそんな魔法障壁使えんのよ!」

「あのリリィという女が守ってるんじゃないか?」


 クラスメイトたちは自分たちの魔法攻撃がまったく通用しないことに唖然としている。中には見当はずれのことを言っているものもいた。


「ふん、これほど魔力に満ち溢れているカナタのことがわからないなんて。あなたたちの無能っぷりには呆れるばかりですわね」


 リリィは肩を竦めると、蔑みの視線をクラスメイトたちに向けた。

 確かに、これから戦う相手の魔力量すら感知できないようじゃ本当に魔導士失格レベルではある。


 カナタも師匠に言われたとおり魔力を抑えるように意識しているので魔力解放直後のようなオーラこそ放ってないが、基礎魔力値は格段に跳ね上がっている。


 そこに気づくことができたクラスメイトが誰ひとりいないというのは嘆かわしい。

 ……さすがにシガヤ先生は気づいていたんじゃないかと思うが――。


「……まったくやってられないですね~。もう転職考えましょうかね~」


 そのシガヤ先生はホワイトチェアーに深く背中を預けながら、ブツブツと愚痴っていた。


 いつの間にかホワイトテーブルまで出現していて、その上にはフルーツたっぷりのトロピカルジュースが置かれている。


 なにげに物質転送や創造系の魔法を使っていることから魔法の腕はかなりのものだが、敵意も悪意もやる気も感じられない。


 そんな中、クラスメイトたちはヒートアップしていた。


「なにか小細工やってるに違いねぇ!」

「そうよ! あの無能ポンコツ遅刻令嬢があたしたちの魔法を防げるわけないわ!」

「生意気なのよ! 劣等生のくせに!」


 目の前の現実を認められないクラスメイトたちは、さらにカナタに向かって魔法を放ってきた。今度は、さっきよりも威力が強い。完全にカナタを殲滅する気だ。


「きゃあーーーーーーーーーーーーーーー!?」


 さすがにカナタは恐怖を感じたようで悲鳴を上げてしゃがみこむが……今度の攻撃魔法も周囲に自動展開した魔法障壁によって防ぎきっていた。


「……あ、あれ……?」


 両手で頭を抱えて地面に伏せていたカナタは自分が魔法を自動展開したことにも気がつかず、不思議そうに辺りを見回す。


「うそだろ……!?」

「ありえない! なんであたしたちの魔法を受けて傷ひとつついてないの!?」

「なにかインチキやってんだろ!?」


 自分たちの使える最強魔法を使ったのだろう。

 それらをすべて完膚なきまでに防がれて、クラスメイトたちは唖然としていた。


「わかったぜ! 魔法障壁を自動展開するレアアイテムでも持ってんだろ! なら、俺が剣術でズタズタにしてやる!」


 勝手に判断して納得したロイルが模造剣――ではなく、真剣を手に取った。

 あいつ……授業で本物の剣を使うつもりか!?


「ったく、なに考えているんだ、本当に」


 こちらはみんな丸腰だが、俺には格闘術がある。

 ロイルを止めるべく、進行方向上に立ちふさがった。


「おおっと! ちょうどいいところに来やがった! まずはてめぇからだ! 昨日はよくも俺に恥をかかせてくれたなぁ!」


 ロイルは狂気に満ちた瞳で、俺に向かって剣を振り下ろした。


「ん……? なんだ、その剣。呪いがかかってるぞ?」


 軽くかわしながら、指摘する。


「なんだとてめぇ!? うちの家宝『凶乱の剣(きょうらんのつるぎ)』にケチをつけやがって!」


 もう名前からして呪いの武器っぽい。というか、実際にそうだ。

 メチャクチャ呪われている。

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