第21話「傍若無人な精霊お嬢様」

☆ ☆ ☆


「え~……そういうわけで、突然ですが~……皆さんに、お知らせがあります~……また転校生です~……あの糞学園長……いえ、学園長先生たっての希望で~……うちのクラスに入ることになりました~…………ちっ」


 午後、最初の授業。

 シガヤ先生は露骨に不機嫌なオーラを出しながら、リリィを紹介した。


「あなた喧嘩売ってらっしゃるの?」


 そんな先生を、リリィはジト目で睨みつける。


「いえ~、そういうわけではないですが~……ちょっと今日は体調が悪いだけですので~」

「ふん、これだから愚民は。まあ、いいですわ。わたくしは、リリィ・フェアリールード。愚民どもは気安くわたくしに近づかないでくださいね♪ 特にゲスな目で見ている穢らわしいオスども」


 リリィは満面の笑みで、いきなりクラスメイトを罵倒していた。


「はぁ? なんだこの女! 顔がかわいいからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

「フェアリールード? そんな貴族聞いたことないわよ! あなたニセ貴族でしょ!」


 リリィに見惚れてた男子は激昂し、その美貌に敵意を抱いていた女子たちも罵声を飛ばす。……この学園って上級貴族の子弟が通っているのに口が悪すぎるよな……。


「貴族も庶民もわたくしにとっては等しく愚民ですわ。人間なんて一皮むけばどれも同じ穢らしきもの。というわけで、あなたたちはアウトオブ眼中ですから、わたくしに気安く話しかけないでくださいね? あ、ヤナギ・カゲモリとカナタ・ミツミは特別にわたくしとの会話を許可いたしますわ」


 話が俺たちに飛び火して、クラスメイトたちから敵意に満ちた視線を向けられる。


「あわわわわ……」


 リリィの発言とクラスメイトからの視線にカナタは真っ青になっていた。

 まぁ、もう……どうにでもなれ。これでさらにクラスメイトと仲よくすることは不可能になった気がするが、こうなったら仕方ない。


「それでは、創造(クリエイト)」


 リリィが呟くと、俺たちの席の後ろに置かれていた椅子と机が宮殿にでもありそうな金銀財宝がふんだんに使われた豪奢な椅子へと変貌した。


「これでわたくしに相応しい椅子と机になりましたわ♪」


 リリィはいきなりチート級の魔法を行使していた。


「なっ――!? なんだよ、その魔法! ありえねぇ!?」

「ちょ!? えぇえ!? マジ意味わかんないんだけど!」


 ざわつくクラスメイトを無視し、リリィは見た目だけは上品な笑顔を浮かべて創造されたばかりの豪華絢爛な椅子に魔法で移動した。


「あの~……勝手に椅子と机をバージョンアップするのは禁止なんですが~……」


 リリィの魔法技術力の高さに驚いたのか、若干引き気味になりながらシガヤ先生が注意する。


「そういうケチくさいことばかり言って生徒の自主性を奪うのは教育によろしくないのではなくて?」

「しかし~、規則は規則ですから~……」

「そんな規則、生徒手帳に書いてないでしょう?」


 真新しい生徒手帳を取り出して、リリィは左右に振る。

 俺も一応、校則は読んだが、特にそんな規則はなかった。


 そりゃあ、椅子と机を魔力で豪華絢爛なものにバージョンアップする生徒なんて普通はいないだろう。

 というか、物質変化の魔法なんて生徒レベルで使えるわけがない。


「……はぁ~……じゃ~、もう、そのままでいいです~……」


 シガヤ先生は説得することを諦めたらしい。ある意味、賢明な判断かもしれない。リリィのフリーダムさはまともに取り合うだけ時間の無駄だろう。


「ったく、なんなんだようちのクラス……」

「問題児ばっかりよね……」


 ヒソヒソとクラスメイトが陰口を叩くが――。


「ちょっと。聞こえてますわよ?」


 リリィは聞き逃さなかった。


「問題なのは徒党を組んで弱者を虐げてばかりいるあななたち貴族でしょう? もう少し貴族がマシなら世界は住みやすかったと思いますわよ? あ、弱い者ほど群れるって言いますわね?」


「なんだてめぇ! 喧嘩売ってんのか!?」

「じゃ、あんた貴族じゃないってことでしょ!? 帰れよ庶民!」


 リリィは火に油を注いでいくタイプだった。隣の席のカナタは「あわわわわわ!」と慌てているが、当のリリィはどこ吹く風。涼しい表情をしている。


「ふん、あなたたちのような愚物ばかりのさばるから世界を滅ぼさなければなくなってしまうんですのよ」


 って、それ言っちゃいけない核心部分じゃないか!?

 慌てる俺だが、


「は? なに言ってんだ? この女」

「こいつただの頭おかしい女じゃん!」


 幸いなことにリリィの危険思想に気がつく者はいなかった。


「あら~……?」


 ……いや、シガヤ先生だけは怪訝な表情をしているが……。

 シガヤ先生あたりなら暗黒黎明窟の噂について知っている可能性も高い。


「……とにかくさっさと授業を始めてくださらない? 授業を受けることは学生の権利なのですから」


 さすがに不用意な発言をしすぎたと思ったのか、リリィは促した。


「……おいおいリリィさんの素性については調べさせていただきますね~? それでは~、授業を開始します~」


 シガヤ先生はリリィを一瞥したもののすぐに視線を外して、授業を開始した。


 授業内容は、王国史。

 文字通り、王国の歴史について学ぶ魔法とは関係のない授業だ。


「……勝者の側からしか語られない歴史ほど愚かなものはありませんわね。これだから、人類は」


 リリィから嘆息混じりの呟きが漏れるが、今回は声量が小さいので授業の進行が止まるほどではなかった。シガヤ先生としてもいちいち相手にすると面倒なのでスルーすることにしたのだろう。


 そのあとは特に問題なく授業は進行していき(リリィは突っ込むことにも飽きたのか、ぼーっとしながら聞き流しているといった感じだったが)、本日の模擬戦の時間となった。さすがに魔法学園だけあって実技は毎日あるのだ。


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