第10話「弟子で相棒!~剣術を教える代わりに放課後の楽しみ方を教えてほしい~」

☆ ☆ ☆


 俺は、今、保健室にいる。それはなぜか? 

 授業が終わるまでカナタは走ることができず、途中で倒れてしまったからだ。


「ご、ごめんね……ヤナギくん……」

「いや、俺こそ……巻きこんでしまってすまない……」


 倒れたカナタを介抱するべく、俺は勝手に授業を抜け出したのだった。シガヤ先生もクラスメイトも、特に俺たちに関してなにか言ってくることはなかった。


 もう、ほんと、俺たちふたり孤立状態である。

 まぁ、それならそれでいいかという気もする。


「……ううん、わたしずっと学園でひとりだったから、ヤナギくんが転校してきてくれてよかったって思う……」

「でも、俺は悪目立ちしすぎだからな。平穏な学園生活を送れなくなるかもしれないぞ? 思いっきりクラスメイトや先生から嫌われてるからな……」


 庶民は貴族に歓迎されないとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。


 俺としては、できればみんなと仲よくしたいと思っていたのだが――これじゃ学園に通って青春を送るという当初の目標は難しくなりそうだ。


「……わたしも、周りから嫌われていたから……遅刻魔の問題児だし、魔法も剣術もダメダメというかビリだし、コミュニケーション能力も低いし……」


「そんな卑下することはないぞ。俺に使ってくれた回復魔法の精密さはすごかった。それに、剣術ならいくらでも上達できる。さっきも言ったが、俺が教えてもいいぞ。希望があれば、だが」


 魔力に関しては先天的なものが大きい。

 だが、剣術に関してはいくらでも伸びる余地がある。


「ヤナギくん本当に剣術を教えてくれる? わたし、かなり弱いけど……」

「ああ。俺でよければな。まぁ、それなりにキツいから無理にとは言わんが……」

「ううん、ぜひ教えてほしい。あたし無能すぎて家でも剣術の家庭教師をつけてもらえなかったの……お姉ちゃんとかはつけてもらえてたんだけど……」


 大貴族ともなれば学園で教わる以外に魔法や剣術、学問の家庭教師がいてもおかしくはないか。


 まぁ、この学園のレベルの低さを見るにろくな家庭教師がついているとも思えないが。大方、貴族の子弟だからといってあまり激しい鍛練をしていなかったのだろう。


 俺の場合は、師匠に何度も半殺しにされながら強くなったのだ。なお、師匠の口癖は『稽古で半殺しにしておかないと実戦で全殺しされかねないからな』だ。


 物騒な人だが、その教育方針のおかげで俺は戦場で生き残ることができたのだから感謝しかない。


「わかった。じゃ、弟子にしてやる。これからしっかり半殺しにしてやるからな!」

「ふぇえっ!?」


 しまった! つい師匠の口癖が移ってしまった……。


「いや、ごめん。これからしっかり稽古してやるから。でも、いきなりは無理だから、少しずつ強くなればいいんじゃないか。体力や筋肉もつけないといけないし」

「ありがとう、わたし、がんばるよっ」

「おう。でも、まずは休んだほうがいいな」


 名門貴族でも魔法も剣術もビリだと精神的にキツかっただろう。

 むしろ、名門貴族だったからこそ、逆にキツかったかもしれない。


「俺はこの学園で青春を送るのが目標なんだ。俺は魔法と剣術については詳しいが青春っていのうがよくわからなくてな。剣術を教える代わりに色々と教えてほしい」


 戦地での休暇の過ごし方と言えば、寝るか、温泉に入るかぐらいだ。同年代の人間がどんなふうに青春を送っているかなんて、想像もできないぐらいだ。

 都市部に行くことがあっても軍務のためだったからな。


「……わ、わたしも、青春をちゃんと送れてる自信ないけど……」

「師匠が言ってたが学園生活の醍醐味は『放課後』らしい。つまり、授業が終わったあとの時間ってことだよな。その楽しみ方とか、よかったら教えてほしい」

「放課後? うーん、わたし友達いないから遊びに行くことないし……でも、たまにクレープ屋さんとかひとりで行くけど……」

「クレープ屋?」


 初めて聞く名称だ。

 俺は田舎育ちな上にずっと最前線で戦い続けていたので都会の流行に疎い。


「クレープ屋さん知らない?」

「ああ、見たことも聞いたこともない」


 戦ったあとの御馳走といえば、肉である。あと米。

 全力で戦ったあとは、とにかく腹が減る。


 肉ならとりあえず焼けば食えるし、米は持ち運びも便利だし、炊飯も割とすぐにできる。お握りにすれば携帯食になるし。


「じゃ、さっそく今日の放課後行ってみよっか。今日は動物病院も休みの日なんだ」

「おお、それはありがたい。これで学生らしい青春を送る第一歩を達成できるな……って、体調は大丈夫なのか?」

「うん、もう大丈夫そうかな……」


 このまま学園で単独生活を送っていたら青春というものを味わうことができなかっただろう。そういう意味で、カナタと同じクラスに転校できて良かった。


「カナタと一緒のクラスで本当によかった! これからも相棒としてよろしくな! たとえ火の中、水の中! どんな危機でも助けあい、死ぬときは一緒だ!」


 俺は思ったそのままを口にする。

 すると――。


「ふえっ!? そ、それって、ど、どういう――」


 カナタは顔を真っ赤にして慌てていた。

 ……しまった! つい戦場にいるときのクセで気軽に冗談を言ってしまった。


 俺たち最前線の戦士はペアを組んで戦うことになった奴に向かって、そう言うのが慣わしだったのだ。


「……そ、それって……え、えっと…………こ、告白…………」

「ああ、ごめん! 今の冗談だ! ごめんごめん!」


 カナタが困った様子だったので、慌てて謝罪した。


「え? 冗談?」

「ああ、戦場で……い、いやっ! 田舎で一緒に遊ぶときにこうやって冗談を言うのが習慣だったからな!」

「………む~っ……」


 カナタはほっぺたを膨らませて、不満げだった。

 怒るとカナタって、こんな顔するんだな……。

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