第12話


 やっぱり、キャシーは私の着ているお洋服を強請った。


 嫌な予感は当たった……。


 お母様はこのお洋服は取られても大丈夫って言っていたけど、せっかくお母様がくれたお洋服はキャシーに取られたく無い。


 だから、簡単にはあげない。


「このおようふくは、わたしのたいせつなものなの。だから、このおようふくはあげられない」


「えぇ〜、そのかわいいおようふくは、おねえさまより、キャシーのほうが、にあうとおもうの」


 私が断っても、当然キャシーは諦めるつもりは無い。欲しい物は全て自分の物になるまで諦めない。まあ、私の物だけだと思うけど。


「それでも、このおようふくは、わたしのたいせつなものだからあげないわ」


 すると、一瞬私の事を睨んだと思ったら、悲しそうな顔をして泣き出した。


「ぐすっ、おねえさま、なんで、いじわる、する、の?」


 始まった。キャシーの演技、嘘泣き。これにすぐ反応したのは残っていた使用人達。これから使用人達がする反応も予想出来る。


「キャシーお嬢様!」


「キャシーお嬢様、大丈夫ですか!?」


「キャシーお嬢様、セシリアに何かされたのですか!?」


 まるで私が何かした様な言い方。それもこの一年で慣れたけど……。


 だけど、お母様のお顔は凄く怖くなった。怒っている顔では無く、むしろ無表情。それが堪らなく怖いのはなんでだろうと思う。


『……この家は、馬鹿ばっかりなのかしら? ねぇ、そう思うでしょう?』


 お母様は誰かに問いかけた様だ。多分側にいる精霊さんに問いかけたのだろう。


 ふわっと風が吹いた様な気がした。多分お母様の言葉に同意している精霊さんがおこした風だと思う。


 お母様と精霊さんが怒っている中で、お母様達の存在を感じられない人間達……キャシーや使用人達はそんな怒りが分かっておらず更に怒りを買うことになる。


「セシリア! キャシーお嬢様を泣かせましたね!?」


「そうやってキャシーお嬢様に意地悪をしないと気が済まないのかしら!?」

 

「なんて性格が悪いのかしら!?」


「みんなおねえさまをわるくいわないで。キャシーが、おねえさまのおようふく、かわいいからほしいって、いったのがわるいの……」


 そう言ってキャシーはまたほろほろと泣く。お母様は冷めた視線でキャシーのことを見ている。本当に嘘泣きが得意なキャシー。私は全然可哀想には思えないけど……。


「キャシーお嬢様! なんて心がお優しいのかしら……」


「それに比べて……」


「姉なのに妹に優しくしないなんてねぇ〜」


 今度は冷めた視線を私にしてくる使用人達。今まではこの視線が怖かったけど、お母様が側にいるからちっとも怖くない。それに精霊さんが守ってくれているしね!


「さぁ! キャシーお嬢様がその服を欲しいって言っているんだ。さっさとキャシーお嬢様に譲りなさい!」


「その服はお前じゃ無くてキャシーお嬢様の方が似合うわ!」


「それと、悪い子にはお仕置きが必要ね……」


 そう言うとニタニタと使用人達は笑った。




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