第11話


『なんて、愚かな女。私の娘に手を上げるなんて……』


 お母様がそう言うと勢いよく私に近づいていたお義母様は叫び声を上げた。


「キャー!」


 その声に驚きながらも見ていたら、お義母様は何も無いところですてーんっと派手に転んでいた。


「ケイト!」


「おかあさま!」


「奥様!」


 お義父様もキャシーも使用人達もお義母様が突然派手に転んだことに驚く。もちろん、私も驚いている。


 そんな中お母様だけは鋭い視線をお義母様に向けていた。


『まったく、自分の都合が悪くなると手を上げるなんて大人じゃ無いわね。癇癪を起こした子供だわ。それに、子供に手を挙げるなんて最低よ。ましてや私の娘に手を上げるなんてね……。死にたいのかしら?』


 お母様の怒りは収まらない。それが私のために怒ってくれていると思うとなんか嬉しい。心の中が私を守ってくれる存在が居ることに安心感が満たされる。


 そんな嬉しさが私の心の中にある中で、お義母様達はギャーギャーと騒々しい。


「痛い! 痛いわ!」


「ケイト、大丈夫か?」


「おかあさま、だいじょうぶ?」


 お義父様とキャシーは心配そうにお義母様を見ている。


 使用人達も慌ただしくお義母様に近寄る。しかし、そんな使用人達のことをギロリとお義母様は睨む。


「もう、誰よ!! ここを掃除した者は!」


 その言葉に使用人達は凍りついた。


「どうして床が濡れてるの!? 誰なの! ここを掃除した者は出て来なさい!」


 さらに癇癪を起こした様に騒ぐお義母様。確かにお義母様が転んだ床は不自然に濡れている。まるで転ばせるかの様に濡らしたみたいに。


「誰なの!? 早く出て来なさいよ! わたしを転ばせるなんてクビよ! クビ!」


 その言葉に青褪める使用人達。


『うわぁ〜なんて心が狭いのかしら? 自分の不注意なのにね〜』


 お母様はクスクス笑い始めた。


(おかあさま)


『なぁに、セシリー』


(おかあさま、なにかしたの?)


『ふふっ、お母様じゃないわ。セシリーの側にいた精霊さんよ』


 お義母様を転ばせたのはまだ目に見えない精霊さんだとお母様は言う。


 これまで意地悪されていたし、私の事を叩こうとしたお義母様が派手にすてーんっと転んだのはスカッとした。


(せいれいさん、まもってくれて、ありがとう)


 精霊さんに心の中でお礼を言う。


 すると、お義父様に起こされ椅子に座ってギャーギャーと騒いでいたお義母様はまたすてーんっと転んだ。椅子が壊れた様だった。


「痛い! もうなんなのよ! なんで椅子が壊れるの!」


 もう、お義母様の機嫌は最悪。これは朝食を食べられないと判断したお義父様は部屋に戻るように言う。


「キャシー、セシリア、部屋に戻りなさい。朝食を食べたいなら侍女に頼みなさい。ケイト部屋に戻ろう?」


「そうですわね。貴方、ここの掃除を怠った使用人はクビにしてくださいまし!」


「ああ、分かった」


 そう言ってお義父様とお義母様は食堂から出て行った。


 残されたのは私とキャシー、使用人達だけだった。


 ここに居ても朝食は食べられないし、多分頼んでも部屋へは持ってきてはくれないだろう……。


 お腹が空くけど、諦めて自分の部屋へ戻ろうとすると、まだ残っていたキャシーが近づいてきた。


 なんだか嫌な予感がする……。


「おねえさま、そのおようふく、かわいいね」


「……キャシー、ありがとう」


「ねぇ、おねえさま、そのおようふく、わたしにちょうだい?」


 ほら、やっぱり……。




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