第3話


 目の前に居るお母様を見て固まった。だってお母様は一年前に亡くなったはずなのに……。


「おかあさま、なの……?」


『えぇ、本当のお母様よ』


 お母様は私を優しく見つめる。お母様の懐かしい私と同じ緑の瞳には私を思う愛が込められている様でした。


 その眼差しに幼い私は思いが溢れました。


「っおかあさま!!」


 思わず私はお母様に抱き着きました。そしてお母様もしっかりと私のことを抱きしめ返してくれた。


 そこにはちゃんとがあった。


「うぅ……おかあさまっ! ヒック、ヒック、おかあさま!」


『セシリー。わたくしの可愛いセシリー』


 泣きじゃくる私のことをお母様は私が落ち着くまでずっと抱きしめて頭を優しく撫でてくれた。




 次第に落ち着いてくると思っていた疑問をお母様に聞いてみる。


「おかあさま、どうしてここにいるの? おとうさまはもうおかあさまにはあえないっていわれたのに……」


『セシリー、お母様は見えなくなっただけでずっとセシリーの側に居たわよ』


「そうなの?」


『ええ。セシリーは精霊さんは分かるかしら?』


「わかる!」


 精霊とはこのヴェルデ王国の信仰対象である。いや、世界の信仰と言っても過言では無い。精霊は国を豊かにしてくれる存在。目には見えない存在だが、確かに存在する。精霊が沢山いる国では作物が豊かに育ち、災害なども滅多に起きない。ゆえにこの国では精霊が神の様に崇められている。


 そして稀に精霊が見える人が生まれる。その者のことを精霊の愛し子と呼ぶ。


 精霊の愛し子をモデルにした話はこの国では有名で、幼い頃に必ず絵本などで精霊の存在を知る。


『ふふっ、セシリーはいい子ね』


 久しぶりに褒められたことが嬉しくて自然と笑顔になる。


『セシリー、お母様はね、精霊になったのよ』


「おかあさま、せいれいさん?」


『そう、精霊』


 幼い私はお母様が精霊になった事に驚くよりも絵本の中でだけの精霊と言う存在が自分のお母様だということがとても嬉しかった。


「おかあさますごい!」


『あら、ありがとう』


「それならおとうさまにあいにいこうよ! きっとおかあさまがもどってきたから、もとのやさしいおとうさまになってくれる!」


『……セシリー』


 すると、お母様のお顔が悲しそうに歪んだ。


「おかあさま……?」


『セシリー。お父様はもう、優しいお父様には戻らないと思うわ……』


「……なんで?」


『お父様はお母様と結婚する前からあの女のことを好きだから』


「……」


 お母様が言うことが幼い私にも少しだけ分かった。多分あの女とはお義母様のことだと思った。


『セシリー、これから貴方には信じがたいことを言うわ。でも、幼くてもちゃんと教えておきたいの……。じゃないと貴方はあの男のせいで心に傷がついてしまうもの……』


 一体これから言うことは何なのか幼い私にはさっぱり検討もつかない。


『実はね、セシリーがお父様だと思っている人はお父様じゃないの……』


「えっ……、おとうさまじゃないの?」


『ええ、本当のお父様は今ここに居るわ』


 そうお母様に言われ、周りをキョロキョロするが真っ暗な部屋が見えるだけ。誰も見えない。


「おかあさま、いないよ?」


『いいえ、居るわ。貴方、そろそろ姿を見せてあげて頂戴』


 お母様はすぐ隣へ声をかけた様だった。すると、ふわふわと光が集まっていき見えたのは綺麗な男の人だった。



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