野球場での攻防 前編

 今日は1学期の期末テストを目前に控えた日曜日


 アタシたち、東高吹奏楽は県営野球場の近くにある複合商業施設? なんかよくわかんないんだけど、とにかくソコでの演奏を頼まれたそうで、今日はみんなで合奏をすることになっていた。

 期末テストが近づいているんだけど、今は盛大に忘れることにしよう。


 アタシたちと楽器を乗せたバスは野球場併設の駐車場で停車。

 そのナントカ施設には大型車の駐車場がないとのこと。だから野球場の駐車場を使わないといけないそうだ。

 アタシたちはここから楽器を持って、そのナントカ施設まで歩かないといけない。はっきり言ってメンドくさい。



 アタシがバスから降りると——


 野球場から大きな歓声が聞こえてきた。


 ああ、もう甲子園を目指した高校野球の県予選が始まってるんだ。


 ウチの高校には野球部がないので、アタシの頭の中からは甲子園の文字がすっぽりと抜け落ちていた。

 これでもアタシは元野球少女なんだけど、そういえば最近、野球とは縁のない生活を送っているな。


 そんなことを考えていたところ、なにやら遠くの方で男子のヤンチャな会話が聞こえてきた。

 あれはたぶん、ルイの声だ。

 アタシより先にバスから降りてたんだな。



「おい! お前、ルイじゃないか! 久しぶりだな。今、何やってんだ?」

「見ての通り、吹奏楽部員をやってますよ」


 駐車場にいた他校の野球部員が、ルイに話しかけていた。

 ルイが中学生だった頃所属していた、野球チームの先輩なんだろう。


 あれ? 待てよ。ということは、アタシにとっても先輩じゃないか。

 誰だろう?


 そう思って、アタシがルイの元へ急いで駆け寄ると……


「あああっっっ!!! この人、チンコ専門病院だ!!!」

 そうだ、コイツはアタシが小学生のとき、サチさんたちと鋭利な小枝でチンコをメッタ突きにしてやった、元エロガキだ!


「げえええ!!! お、お前、ナツじゃねえか!!!」

 怯えた表情を浮かべるチンコ専門病院先輩。


「おいナツ…… やめてあげろよ……」

 ルイはそう言ったのだが——


「サチさーーーん!!! ここにチンコ専門病院先輩がいますよーーー!!!」

 アタシは楽しくなって、大声で叫んだ。


「ぐえええ!!! サ、サチまでいるのかよ!? お、おいルイ、じゃあまたな!」

 そう言うと、チンコ専門病院先輩は、野球場目掛けてダッシュした。


「なにぃぃぃーーー!!! チンコ専門病院がいるのか!!!」

 満面の笑みを浮かべたサチさんが駆け寄って来たのだが……


「でも、もう走って逃げて行っちゃいましたよ」

 アタシがそう答えると、


「チェッ、惜しいことをしたな。なんだよ、せっかく昔のチームメートに会えるっていうのに。チンコ専門病院のヤツ、変わっちまったな」

と、名残惜しそうにチンコ専門病院先輩の後姿を見送るサチさん。


 苦笑いを浮かべたルイが、サチさんに向かって口を開く。

「……あの先輩は、中学のときからサチさんに関わらないようにしてましたよ? サチさんのこと、『チンコ血まみれ悪魔』って言ってましたから。それに、ナツもサチさんも、単に『チンコ専門病院』って言いたいだけでしょ?」


「「 その通りだが、なにか? 」」

 アタシとサチさんの心がシンクロした瞬間であった。


 アタシたちの楽しげな会話に惹かれたのか、モモコがこちらにやって来て、

「へえー、あの人が噂のチンコ専門病院先輩なのね。私、初めて見たよ」

と、興味深そうに感想を述べているではないか。


 ああ、我が親友モモコよ。やっぱりアンタもチンコ専門病院って言いたかったんだな。

 わかるよ。やっぱりアンタはアタシのマブダチだよ。


 アタシがそんなことを考えていると、サチさんも、

「うむ。やっぱりモモコはあたしの後輩だ。お前は昔から話のわかるヤツだったよ。いやぁ、それにしても中学時代に、チンコ専門病院の話をさんざん後輩たちに聞かせてきた甲斐があったな」

と、ご機嫌な様子で感想を述べた。


 そして——


 アタシとサチさん、モモコ、そしてルイまでが、近くにいたアンズの顔を眺めた。話の流れ的に、なんとなくサチさんのもう一人の後輩、アンズの顔を見たのだろう。


「な、何でみんな、私を見てるんですか!? そ、そんな顔で見つめられても、私は言いませんから! 絶対に言いませんからね!!!」

 そう言うと、アンズは頬を赤く染めて逃げて行った……

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