恋の予感!?
今日の3、4限目は芸術科目の選択授業だそうだ。
アタシは美術を選択していた。ナジ高落ちて、音楽はスッパリ諦めるつもりだったアタシは、入学前に提出した希望書に『美術選択』と書いた記憶が
仲良くなったヤヨイ、サツキ、カンナ、ヨッシーの4人は、みんな音楽を選択していたようで、4人連れ立って音楽室に向かった。
そんなわけで、今、アタシは一人寂しく美術室に向かっている。
ちぇ、やっぱりアタシも音楽を選択しとけばよかったな。
アタシが一人で廊下を歩いていると、アタシを見た男子達がヒソヒソ話をしてやがる。
ふっ、今回はいつまで続くかな。確か中学に入学した時は3日ぐらいだったか。4日目以降、男子は誰もアタシと目を合わさなくなったな。
まあ、昨日の自己紹介やらヨッシーとのバカトークやらのおかげで、クラスの男子はすでにアタシとの接触を避けているようだから、これは記録更新を狙えそうだ。
「クックック」
不敵な笑いを浮かべて美術室に到着すると、美術室前の廊下に中学からの部活仲間モモコがいた。
「あれ。モモコ、美術選択したの?」
アタシが尋ねると、
「音楽」
と面倒くさそうに答えるモモコ。
「ひょっとして、アタシに会いに来てくれたの?」
「え? ナツ、美術選択したの?」
……ちょっとイラっとしたがまあいい。今日のところは許してやるよ。そうだ、ちょうどいい——
「なあモモコ。頼みたいことがあるんだけど——」
「ごめん、ムリ、忙しい」
即答かよ。
じゃあ、なんでここにいるのか尋ねてみると、なんでも、国立大学進学クラスのカッコイイ男子が美術を選択しているそうで、ソイツを見に来たのだとスッゲー面倒くさそうに教えてくれた。
その男子が普段授業を受けているそのナントカ進学クラスは、なんとなく敷居が高いため近寄りにくいんだと。その点、選択授業はクラス合同で行われるんで、今がまさに出会いのチャンスだとほざいてやがりますこと。我が親友よ、どうでもいい情報ありがとう。
言うまでもないけど、アタシもモモコも一般クラスという名のその他大勢クラスに所属している。
モモコのヤツ、ホントにその手の情報をつかむのだけは早いな。
あとでサチさんに、モモコは非協力的だと言いつけておこう。
そうこうしているうちに、ようやく噂のモテ男子が、大勢の女子に囲まれてご登場なされたようだ。でも、なんかちょっと困った顔してるな。案外、性格はそんなに悪くないのかも。
美術室前の廊下にボサーっと突っ立てるアタシを見つけたモテ男子は、なぜか驚きの表情を浮かべ、そして——
「おいナツ! お前、ナツじゃないか!」
「え? アンタ誰?」
「ひでえなあ、オマエ。俺だよ、ルイだよ!」
そう言って、右手で自分の前髪をかき上げ、オデコ丸出しにするという醜態を自ら晒す変な男は……
「えっ! オマエ、ルイなの?! うわっ、なにオマエ、髪伸ばしたの? 色気づいてんじゃねえよ。気持ちワルっ」
アタシがそう言うと、
「お前、相変わらずだな」
と言って笑うモテ男改めルイ。
——キーン、コーン、カーン、コーン
3限目の開始を告げるチャイムが鳴った。
「時間がないな。とりあえず教室に入ろうぜ。また後でな」
そう言ってモテ男改めルイは颯爽と美術室に入って行った。
アタシも教室に入ろうとしたところ、後ろからモモコに肩をつかまれた。
「私達親友だよね? なんかナツ、私に相談があったんだよね? 親友の私が、全力でナツに協力させてもらうよ、なんでも言って。だから、ね!」
まったく、わかりやすいヤツだ…… でも、なんだかちょっと面白くなってきた。さっきは許してやろうと思ったけど、早速気が変わっちゃった、エヘ。
「なんでも言って言いの? じゃあ、とりあえず早く音楽室行け。遅刻すんぞ?」
ハッ、とした顔つきのモモコが全速力で音楽室に向かう。
おい、モモコよ。廊下は走っちゃいけないんだぞ? オマエ、小学生か?
♢♢♢♢♢♢
3限目、美術の授業が始まった。
「美術は選択授業なので、きっとみなさん同士、知らない人も多いでしょう」
というありがたくない、おじいちゃんっぽい先生のご配慮により自己紹介をすることになった。
週に1回しかない授業なんだから、別にみんな知り合いにならなくてもいいと思うんだけど……
1、6、8組の生徒が集まっているそうで、自己紹介は1組の人から始まった。アタシは6組なんで、アタシの順番は真ん中の方でまわってくるようだ。苗字が
そんなどうでもいいことを考えていたら、どうやら自己紹介の順番は、ルイにまわってきたようだ。
「チワッス!!! 自分は北中から来ました、1組の谷山
そうなのだ。コイツはアタシの元野球仲間だったりするのだ。リトルでもシニアでもキャプテンだったんだよな。しっかりした挨拶しちゃって。
アタシは中2の途中で戦力外通告を受けてシニアを辞めたから、ルイに会うのは1年半振りぐらいになるのかな。
「でも、中学3年の夏に足を怪我して、野球は辞めました」
「えええっっっ!!! あっ、す、すいません! 大きい声出しちゃって……」
ヤバイ…… ビックリして叫んじゃった。
ルイの顔を見ると…… なんだよ、ちょっと寂しそうに笑いやがって……
「えっと、そこの席の相田さんとは小学生の頃から、一緒の野球チームでプレーしてました。まだ怪我が完全に治ってないので、高校では文科系の部活で頑張りたいと思ってます。よろしくお願いします!」
なんだよルイのやつ…… 野球辞めてたのかよ……
夏に怪我したって言ってたけど、最後の大会は出られたのかな……
夏に怪我したって言ってたけど、アタシがナツだから夏に怪我したのかな…… そんなわけあるかよ。
あんなに野球が好きだったのに可哀想だな。でも、アタシだって野球が大好きだったんだから……
ダメだ。なんか頭の中が混乱してきた。そうだ、アタシは今、サチさんからの密命を帯びたエージェントなんだ。よし、今はミッションに集中だ! 汚れ役だ、汚れ役! くぅー、アタシってばカッコいい! 次のミッションもコンプリートだ!
あれ…… アタシなんで頭混乱してたんだっけ? まあ、アタシ今、カッコいいからいいや。
「それじゃあ、次、6組に行きましょうか。では相田さん、お願いします」
「ハイッ!!! みなさんこんにちは! アタシの名前は相田夏子って言います。入学式の日に吹奏楽部に入部しました! 今、新入生勧誘係をやってます。みなさんの中に吹奏楽に興味のある方は————」
「あ、相田さん、もうその辺で…… その辺にしておきましょう。十分あなたの熱意は伝わりましたから。いやー、とても熱意を持って吹奏楽に励んでいるんですね。立派だと思いますよ」
あっ、しまった。ついルイの自己紹介に影響されて、ちょっと、いや、だいぶ熱くなっちゃったみたいだ
あっ、男子達がアタシと目を合わそうとしない。ふふっ、やはり記録更新だな。
「立派だとは思うのですが——」
ん? 先生の話がまだ続いている。
「——吹奏楽に興味のある人は音楽を選択する人が多いように思うのですが…… いえ、もちろん美術を選択した人の中にも何人かはいると思いますよ?」
あっ、そう言われてみれば…… いや、むしろ元吹奏楽部員探索ミッション的に考えれば、楽器経験がある人は、確かに音楽を選択する人が多いと思うから…… そうだ! きっと楽器経験者は、今、音楽室にいっぱいいるはずだ! 狙い目じゃないか!
「アザーす!!! 先生の言う通りです! 3限目が終わったら、ダッシュで音楽室に行ってみます!!!」
「い、いや、別にそういうつもりで言ったのではないのですが…… ま、まあ若いんだからいろいろやってみなさい。じゃあ、次の人——」
自己紹介が早く終わったので、おじいちゃん先生は時間より少し早めにアタシ達を解放してくれた。
アタシは速攻でルイの元へ行き、
「さっきは色気づいて気持ちワルっ、とか言ってゴメンな。オマエが怪我して野球辞めたなんて知らなかったんだよ」
と素直に謝った。
「別にいいよ……」
「じゃあ!」
「おい、それだけかよ!」
「ワルい、アタシ、用事があるんだ!」
音楽室にダッシュ ! したら、よく知らない先生に注意されたので、早歩きでちょっとダッシュ!
「待てよ!」
ルイが追いかけてきた。
「オマエ足怪我したって行ってたじゃねえか。大丈夫なのかよ?」
アタシは早歩きしながらルイに尋ねる。
「これぐらいなら大丈夫だよ。それにしても、相変わらず、
「オマエ、そんなこと言ってたら、あっという間に高校生活終わっちまうぞ?」
「一昨日、入学式があったばっかりだろ!」
アタシは当然のこととして、たぶんルイも普段はもっと上品な喋り方をするんだと思う。でも、やっぱりこうやって元野球仲間同士で喋ると、つい小学生の頃のやんちゃな喋り方になっちゃうんだよね。
「ああ、もう。とりあえず俺も音楽室までついてくから、話はその後だ」
「
「え? あ、ああ、うん。ま、まあ、そうなるのかな……」
「なんだよオマエ、モジモジして? ウンコしたいのか?」
「お前、ホントそういうトコ、小学生の頃から全然変わんねえなあ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます