恋に鈍感……

 アタシと、それからなぜか一緒についてきたルイが音楽室に到着したちょうどその時、3限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。


 アタシは教室の窓からヨッシー達を探そうとしたところ——


 アタシを、いやルイを見つけたモモコが駆け寄ってきた。


「やだナツってば、親友の私に会いに来てくれたの?」

「えっとヨッシー…… いや吉田さん達を探してるんだけど」


「ちょっと何よ! アンタさっき、私に頼みたいことがあるって言ったでしょ!」

「いいんだ、モモコ。アンタは忙しいそうだからね。あっ、ヨッシー発見。おーい、ヨッシー!」


「ちょっと、ナツったら!」


 ここでヨッシー達同じクラスの4人組が来てくれたので、ついでにモモコも交えて、アタシがさっき考えてたことを話してみた。


「流石ナツ! バカなのに頭いいね!」

 そう言ってヨッシーは早速、近くにいた生徒達に声をかけようとしたところ——


「待ってヨッシー! 私が! 私が中心になって活躍するから! 私に活躍させなさいよ! ねえ、見ててよね。しっかり見ててよね!」

 誰に向かって言ってんだよ? アタシはこっちだよ。ルイの方ばっかり見やがって。


 それにしても、モモコのヤツもうヨッシー呼びしてるんだ。流石、口から…… もうこれ飽きたしいいや。


「じゃあ、あとは私達でやっとくから、ナツは彼氏サンと帰っていいよ」

 ニコニコしながらアタシに言葉を向けるヨッシー。


「ナニ言ってんの? 彼氏ってコイツのこと? もう違うよ。コイツはアタシの元野球チームの同期だよ」


「そうなの? でもその人、ナツと話したそうにしてるよ?」

「そうなの?」

 今度はアタシがルイに尋ねる。


「え。 いや、話したいっていうか、なんていうか……」

 またモジモジしやがって。アタシはアンズじゃないんだ。ティッシュなんて持ってないからな。ウンコ行くんなら自分のティッシュ使えよ。


「ハイハイ。ナツがいたら熱くなりすぎてきっと上手くいかないから早くお帰りよ。ひょっとして、さっきの授業でも自己紹介で失敗しなかった?」


「うっ…… ヨッシーさん、なぜそれを?」

「昨日の自己紹介が上手くいったのは、サチ先輩が書いてくれたメモを読んだからだよ。じゃあ、あとは任せてね!」

 そう言ってヨッシーは人混みの中に突入して行った。


「アタシがいたら足引っ張るみたいだから帰ろうか?」

「お、おう」

 こうして、アタシとルイは美術室に帰ることになった。



「なあナツ。ちょっとこの辺で話そうぜ」

 廊下で立ち止まるルイ。


「え、なんで? 美術室に帰ってから話せばいいじゃん」

「いや、まあ、そりゃそうなんだけど」


「ははーん? さては、アタシのことが気になるんだな?」

「い、いやっ、そ、そういうことじゃないって言うか。いや、まあ、なくはないって言うか……」


「アタシが教室で、オマエのチンコが小さいって言いふらすんじゃないかって気になってんだろ?」

「は?」


「安心しろよ、アタシだってこれでも成長したんだよ。みんなの前でオマエの秘密をバラすようなことしないよ」

「なに言ってんだナツ? なんだよ、俺の…… そのなんとかが小さいって話?」

 まったくルイってば、恥ずかしがり屋さんなんだから。


「ほら、小学校4年生のとき、合宿でお風呂に入ったじゃん。あのときみんなが、ルイのチンコ見て小せえなあって言ってたじゃんか」

「いつの話してんだよ! あれは監督とか先輩しか周りにいなかったからだよ! 年齢的に小さかっただけだよ!」


「そうなの? じゃあ、今は大きいの?」

「ハァ…… お前の頭の中は相変わらず小学生みたいだな。そうじゃなくて、なんか美術室だと女子が周りに寄って来て話しずらいんだよ」

 いいじゃん別にモテるんだから。ナニ言ってんだろ、コイツ?


 そこへ、ルイを探しに来たのであろう、アタシ達を遠巻きに見ている女子達の声が聞こえてきた。


「うわっ、美男美女って感じ」

「あの子が相手じゃ、アンタ絶対無理だよ」

「あーあ。彼女持ちだったんだ」

 言いたいことをヌカすだけヌカして、去って行きやがる女子達。


「あー、そう言うことか。アタシと一緒だと誤解されるよね」

 なんかルイのファン達に誤解を与えちゃって、悪いことしたかな。


「そういうことじゃねえよ! 別に俺、彼女とか作る気ねえし。逆にオマエとそういう風に見られた方が、かえっていいって言うか……」


「おうおう、モテる男は余裕だな」

「なに言ってんだよ。ナツだって今、『美女』とか『勝てない』って言われたじゃねえか」

 ハァー…… まったくコイツは。アタシのことが全然わかってないようだな。仕方ない。ここはキッチリ教えておいてやるか。


「オマエ、アタシと長年の付き合いだってのにわかんないのかよ? アタシにはいつものパターンがあるんだよ」

「なんだよパターンって」


「アタシ、小さい頃から近所のおばちゃん達に『かわいい子だねえ』ってよく言われたんだよ。でも1分後には『かわった子だねえ』に変わるんだよ。今はまだみんな、アタシとのことをよく知らないだけだよ」


「……なあ、お前の人生それでいいのかよ?」

「アタシの人生はこれがいいんだよ!」


「相変わらず男前だな、ナツは」

「何言ってんだよ、男前はオマエだろ? アタシはオマエの顔見慣れてるから、別に何とも思わないけどさ——」


「何とも思わないのかよ……」


「人の話は最後まで聞けよ! アタシは話を途中でやめたら、今何言ってたか、わかんなくなるんだよ!」

「それ、自分がバカだって大声で叫んでるのと一緒だよ……」


「えっと、なんだっけ? そうそう、何とも思わないけど、さっきのモモコ、ちょっと面白かったな。オマエの顔見た瞬間、態度豹変させちゃってさ、プププ。いやー、モモコってば乙女だねえ」


「おい、いいのかよ? なんか俺のせいで、その子、ナツの仕事やらされたような気がするんだけど」

「ハア? なに言ってんだオマエ? オマエはアタシをかすのが仕事だろ? 」


「それは野球やってた時の話だろ?」


 リトル時代、アタシは同学年の中ではチームで一番足が速かった。年上のサチさんより速かったぐらいだ。

 だから打順はいつも1番。そして小技の上手いルイはいつも2番打者だった。

 アタシの仕事は塁に出ること。ルイの仕事はアタシを次の塁に進めることだったのだ。


「お前の人生はアタシをかすためにあるんだよ。だから、さっきのもファインプレーだよ」


「人生って大袈裟だな…… でもナツをかすか…… それもいいかもしれないな。いや、そういう人生も面白いかもな」


「お、おい。オマエ、な、なに言ってんだよ!」

「ナ、ナツこそ、なに驚いてんだよ。さっきみたいに聞き流せよ!」


「私をイかしてもいいって…… オマエもしかして、アタシを殺そうとしてたのか?」

「ハァ…… もういいよ。でもまあ、ナツが全然変わってなくて嬉しいよ」


「ハア? オマエ、ケンカ売ってんのかよ! アタシは高校生になってお淑やかになったんだよ、このボケ!」


 まったく、コイツはホントにアタシのことわかってないな。

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