武者小路さんの秘密
「へえー! 武者小路さんの家って、すっごく立派なんだね」
アタシは武者小路さんのご招待を受け、今、この人の家の前に到着したところだ。
「ねえ、お願いだから、合奏練習が終わる時間まで、ここで大人しくしてて頂戴ね」
「大丈夫だよ。もう一回学校に帰るなんて面倒くさいことしないよ」
「わからないでしょ! 忘れ物したの思い出すとか、あるかも知れないし」
「あっ!!!」
「え? ひょっとして忘れ物?」
「ウッソ〜。へへっ、ねえ、ちょっと驚いた?」
「…………あなたは小学生なの?」
「ん? ナニ言ってんの? アタシ達同級生じゃない?」
「…………もういいわ。早く中に入りましょう。まったく。あなたって黙ってればカワイイのに」
武者小路さんの家はすっごく大きかった。旧家って言うのかな? なんか蔵みたいなのがいっぱいあるし。
部屋は…… まあ、普通かな。意外と女の子っぽい部屋だ。モモコの部屋によく似ている。
「じゃあ、早速DVDを見るわよ」
「え、なに?エッチなやつ? ……もう冗談だって。そんなあきれた顔して、アタシのこと見ないでよ」
「ハァー…… これは去年、うちの高校の吹奏楽部が出場した、吹奏楽コンクールのDVDよ。あなたもこれを見れば、きっとうちの吹奏楽部の素晴らしさがわかるはずよ」
そう言ってDVDの用意を始める武者小路さん。どうでもいいけど、デッカいテレビだな。ウチの居間にあるテレビよりデカいよ。そのDVDも演奏会の会場で買ったみたいだし。やっぱり武者小路さんの家ってお金持ちなんだな。
「あなたもさっき言ってたように、特にトランペットの
さっきトランペットのソロのとこを吹いてた人は、
入学式の日も校舎の前で吹いてたけど、めちゃくちゃ上手かったからな。
「へえー。武者小路さんは、その先輩のことが好きなんだね」
何気なくアタシがそう言うと、
「ななな何を言ってるの?
と、激しく動揺する武者小路さん。ナニ
準備が出来たようなので、アタシ達は早速DVD鑑賞に入る。
「まずは最初に、木管楽器の演奏が静かに始まるの」
「あっ! この人、
「ほら、ここから徐々に低音パートが加わって行って——」
「あっ! 剛堂先輩発見! 先輩ってばデッカいから、すぐにわかるよね。いやー、ちっこいアタシからすると、羨ましい限りだよ」
「さあ、ここからいよいよ金管楽器が登場して——」
「あっ! 今、サチさんがアップになった! サチさんってば今、ちょっとカメラ目線じゃなかった? なんだよ、あのチャッカリ者」
「……あなた本当に小学生なの? 修学旅行のDVD見てるんじゃないのよ? 真面目に鑑賞する気があるのかしら?」
「なんだよ、自分だってアタシに話しかけてくるくせに」
「わ、私の場合は愛情が深すぎて、つい説明したくなるだけよ!」
「いるいる、そういう人」
「…………屈辱だわ」
「ナニ言ってんだか。ねえ、この曲、さっき音楽室で演奏してた曲でしょ? 他のはないの?」
仕方ないわねえ、と言いながら別のDVDを用意する武者小路さん。言葉とは裏腹に、ちょっと嬉しそうだ。
「これは去年、デパートの屋上であった演奏会を録画したものよ。私が個人的に録画したものだから、ちょっと手ブレとかあるけど我慢して下さいね」
へえー、この人よっぽどウチの学校の吹奏楽部が好きなんだ。そんなことを思いながら、DVDを見たところ……
「ねえ…… これって
「ししし仕方ないでしょ! 私、トランペットをやってるんだから、上手な人を参考にしようと思っただけよ! こ、これはもうやめましょう。そうだ、一昨年のコンクールのDVDもあるの。それを見ましょう!」
そう言って、慌てた様子で、またDVDが収納されている本棚をまさぐる武者小路さん。それにしても、この人、ウチの学校の吹奏楽部、どんだけ好きなんだよ。
「ねえ。武者小路さんって、いつからウチの学校の吹部のファンになったの?」
気になったのでアタシが尋ねると——
「まあ! あなた、少しはまともな質問もできるじゃない!」
「どういう意味よ、それ? 失礼な人だな、まったく」
「いいわ。どうしてもというのなら話してあげなくもないわ」
「あっ、別にそこまで興味ないからやっぱりいいや」
「ちゃんと聞きなさいよ!」
「まったく面倒くさいなあ……」
武者小路さんの話によると、話の始まりは彼女が中学1年生だった頃に
「その話、長くなりそう? いや、なんでもないから続けて下さい……」
彼女の中学の先輩が出場するアンサンブルコンテスト、通称アンコンを見に行った時、当時中学3年生だった
ちなみに、
「その金管5重奏がね…… あ! えっと、あなた、金管5重奏っておわかりになる?」
「なんだよ、バカにすんなよ! これでもアタシ、元吹奏楽部員なんだからね! チューバでしょ、トランペットが二人で、それからトロンボーンと…… あれ? あとなんだっけ?」
「……ホルンね」
「そうそう、ホルンだ。いやー、ホルンって金管なのか木管なのか微妙なとこあるじゃない。金管楽器のくせに木管5重奏とかにも入っちゃってさ」
「あなたがバカなのをホルンのせいにしないで下さる?」
「ちぇ、なんだよもう……」
それでまあ、そのすごかった人達が全国大会まで進んで、全国でも金賞を取ったんだと。
「へえー。アタシそこまで詳しくないんだけど、金管楽器でアンコン出る人達って、8人参加の8重奏とかが多いイメージだったんだけどな」
アタシが口を閉じる暇も与えず——
「そこですのよ!」
「うわ、びっくりした!」
「
「それって、どこかの音楽教室に通ってたとか…… いえ、なんでもないです……」
その後、
「それで、私は先輩と、いえ先輩方と同じ高校に進学しようと固く決意したのよ。そして、今日、いよいよ先輩方と初めてお会いできる記念すべき日になるはずだったのに…… あなたのせいで…… あなたのせいで!!!」
「ごめんって。謝るから。ちょっと怖いって!」
なんで『先輩』ではなく『先輩方』なのか。彼女の話によると、アンコンで全国金賞を取った5人のうち、もう一人のトランペット奏者を除く4人も、そのまま高等部に進学したんだって。
「それから、
「え? そんな有名な通り名があるの?」
「いいえ。僭越ながら、すべての日本人を代表して、私が命名させていただいたのよ!」
この人、さっきからアタシのことバカだって連呼してるけど、この人だって相当バカだと思うけどな。
ちなみに、入学式の日に話をした
「あら、お喋りが過ぎたようね。そうそう、一昨年の吹奏楽コンクールのDVDでしたわね。えっと、地方大会と支部大会があって……」
そう言いながら、再びDVDが入った本棚をまさぐる武者小路さん。
その時、本棚の後ろから、薄い本が落ちてきて——
「なにコレ、マンガ? えっと…… あっ、わかった! これってエロマンガだよね!」
「い、いい、いいい……」
「ん? どうしたの武者小路さん?」
「いやああああーーーーーーーー!!!!!!」
武者小路さんは絶叫し、顔を手で
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