第二十三話
閉塞感を圧縮した空間に少女は立っていた。
この状況を変える変えないは、少女の力、次第で大きく変化をもたらす。
二十メートル超える高さから大勢の視線と熱気。そして……、罵詈雑言が飛び交う。
この状況の中心点である少女は危うい美しさを放っていた。
少女は今からこの場所で決闘する。
ただ、一つ言えることは。強烈な違和感のある服装を少女はしていた。緑色よりも深い、深緑の牧場で作業する人が着る作業着姿だった。
強烈な違和感は、服装だけではなかった。
眩しい太陽の光を吸収し、より濃い黒い長い髪が上昇気流で美しく舞い上がると。少女の顔が見えるその表情は、この状況を楽しんでいる子どものように無邪気で可愛らしいかった。
少女の顎が三十五度傾けると。
大きな球体状の水晶が上空に浮遊しており、その球体状の水晶に、一人の人物の姿が鮮明に投影されていた。
その人物は長い黒髪を熱気という風に靡かせながら、無邪気に可愛らしい表情を、している自分自身。
そして。
次に大きな球体状の水晶にある人物が投影される。と、観客席から大声援が闘技場を響き揺るがせる。
投影せられている人物は、男性特有のガッチリとした体躯で。太陽光に照らされ、色素の薄い髪が銀色に見える。
ガッチリとした体躯をより見栄え良くする高身長に、本人も自覚していることだろう。その
「「「「カーライルさまぁーーーーー!!!!!」」」」」
女性たちの黄色い声援が、カーライルという人物に降り注ぐ。
「たしかに」
と、口にしながら少女は、その黄色い声援に納得するように頭を上下に動かしていた。
すると上下に運動していた頭がピタリと止まると。少女はより頭の回転の働きを手助けするように、頭皮に適度な刺激を与えるマッサージをしながら。
「遺伝子ってやっぱり、おもしろいわねぇー」
と、呟いていた。
自分以外全員敵のド真ん中で、そんな緊張感という言葉の一欠片も感じさせない少女の堂々とした態度に。
「
キュートな声援が送られていたている少女こと摩志常は。
「頑張ってくださぁーーーーーい!!!!!」
その返事に気をよくしたプリシエは、また、キュートな声で声援をした。
すると私の目の前に立っている男こと、『カーライル王子様』が悔しそうな顔を一瞬した。この王子様は、
今のところは、王子様がシスコンということは右か左かどちらでもいいので置いておいて。私に関係があるとすれば、倒さなくてはいけない相手というだけのことだ。
次第に闘技場の観客たちのボルテージが高まってきたところで。
ラッパを持った一人の男性が闘技場に設置されている壇上に立つと。
最初に右側に用意されている貴賓席に一礼をした。
右側の貴賓席には、マーナガルムとハティスコルが座っている。が一つだけ席が空いている。エンお姉様は私用のために欠席とのこと。マーナガルムが、控室で待機しているときに、エンお姉様からの伝言を預かってきたから伝えておくねと言ってきた。伝言の内容は、「遊びでも全力で!」だった。
意味は分からなくでもないので、ありがたく頂戴した。
次は、左側に用意されている貴賓席に男性は一礼をした。
左側の貴賓席には、セガラ王とプリシエ。と、あと……、知らん人物が三人座っていた。三人とも性別は女性だった。セガラ王の両隣に気品のある女性が座っていた。右側の女性の横は空席でその隣の席には二十歳前後の女性が座っていた。
なるほど、なるほど。
セガラ王の左側、女性の隣の席で、プリシエが興奮しているのか。ソワソワとしながら椅子を揺らしながら座っていた。
ふぅーん。
王族だからなのか? 獣人族だからなのか? 一夫多妻制というヤツだ。男なら女にモテることは、男冥利に尽きる。
私も前の世界ではかなりモテモテだった。実際の意味ではモテモテではなかったが、なかなかに楽しいクレイジーなヤツらが集まって来ていた。基本、男女問わずに私を殺そうとしてきたヤツらだったけど。あれはあれで、アトラクション感覚で楽しいかったな。と思い出に浸っているうちに。
ブオォォォォーーーーー!!!!!
闘技場にラッパが鳴り響いた。
左脇腹に強い衝撃!
摩志常の繊細で美しい体躯は軽々と浮き地面と水平に低空飛行しながら、そのまま無造作に置かれている巨大な岩石に叩きつけられた。
摩志常を蹴り飛ばした人物の力の強さを示すように、岩石が粉々に砕かれながら。それが崩れて摩志常の身体を覆い隠していく。
そのあまりの衝撃音とその衝撃的な光景に闘技場の観客たちは、一瞬、言葉を失ったあと……。
「「「「「ウォーーーーー!!!!!」」」」」
地響きをする歓声が湧き上がった。
湧き上がる大歓声に答えるように、開始のラッパ音とほぼ同時に摩志常のガラ空きだった左脇腹に。大きく円を描くような横蹴りを入れた、カーライルが両手を太陽に向けながら観客たちの大声援に答えていた。
そのカーライルのポージング姿に、観客たちは先程よりも大歓声を上げていた。
ただし……。
その大歓声の中に、この状況を静観している人物たちが三人いた。
一人はマーナガルム、もう一つはハティスコル、最後の一人はセガラ王。
それとは別に両隣の二人の女性と二十歳前後の一人の女性は三人と同じように静観しているのだが……、表情には笑みを浮かべていた。
それとはさらに違い観客たちの歓声を掻き分けるように叫んでいる人物がいた。
「ま……。ま、
と、貴賓席から闘技場内に今にでも飛び込んでいく勢いのプリシエの声だった。
その声も大歓声の中では無意味だった。
闘技場内を包み込む、カーライルに送られる声援の中では。
ある人物を除いて……。
岩石の崩れてできた山の頂点から一つの石が
大歓声を上げている観客の中に、そんな些細なことに気づく者は誰一人としていなかった。
一番、最初に気づいたのは、一番、近くにいる人物。カーライルだった。
恐る、恐る、カーライルの視線が闘技場で声援を自分に送っている観客たちから、岩石の崩れてできた山に視線を向けていく。
急に不可思議な行動をしたカーライルの姿を見た観客たちは、熱狂に包まれていた身体から。なぜか次第に熱を奪われていく感覚に戸惑いを隠しきれなかった。
観客たちもカーライルと同じように、岩石の崩れてできた山を凝視するのだった。
そのとき!
まさに死者が現世に復活したかのように瓦礫の山から左腕が突き破りながら飛び出し、次に右腕が突き破りながら飛び出してきた。
何を思ってその行動をとったのか? 本人にしか分からないが。
飛び出した両腕で、瓦礫をどかすのではなく、瓦礫を掴み力を込めながら身体を前に向かって前進させるために腕を曲げていく。
すると
頭部が全て瓦礫から抜け出すと、あとは器用に蛇のようにクネクネと身体を動かしながら瓦礫の中から抜け出てきた。
あまりにも異質な光景に闘技場にいる、ある二人の人物の以外。観客たちや
…………、…………。
闘技場の静寂とは反対に
「ねぇー、兄さん。質問なんだけど……? 摩志常ちゃん、あの方法で脱出する意味ってある……?」
「たぶんだけど……。前の世界で、"ホラーエイガ"という娯楽の一つで"テレビ"っていう映像を映し出す道具の中から出てくる"バケモノ"を表現しているんだと思うよ」
「え!? あっちの世界って、娯楽のためにバケモノを召喚するの?」
「俺もその話を摩志常ちゃんから聞いて、異世界の文化って理解するの難しいなぁーって思った」
「珍しいねぇー。僕も、今、その言葉を兄さんの口から聞いて同意見って思ったよ」
「俺さ、その話を聞いたとき。ぁあぁー、摩志常ちゃんの性格が捻くれるわけだって納得できたからねぇー……」
「過激だねぇー、異世界って……。僕、摩志常ちゃんの住んでいた世界で生きていける気がしないんだけど……」
「俺も……」
と。マーナガルムとハティスコルだけが。摩志常が行った脱出マジックに違う意味でインパクトを受けているのだった。
…………、…………。
カーライルは、眉を
自分の全身に被った岩石の破片と砂埃を
摩志常は地面に倒れ込んでいるカーライルに。
「せっかちさんねぇー。時間はいくらでもあるのに」
唇を噛み締めながら、自分がどうして!? こんなにも簡単に仰向けに倒され、天を眺めながら。年端も行かぬ少女に、
カーライルは摩志常が岩石の破片や砂埃を払拭し始めてた無防備な状態に、一気に間合いを詰め、蹴り飛ばしたとりよりも、より力を込めた右拳でストレートパンチを摩志常の顔面にめり込ませようとしたときだった。
摩志常は、右拳のストレートパンチの受け止めるのではなく、カーライルの右腕の袖口を左手で掴むとそれを自分に向って引っ張り込む。カーライルの身体が自分の身体と密着させる十分な距離まで引っ張り込むと。カーライルの高級そうな服の右襟元を右手で鷲掴みにすると。その場で自分の腰をカーライルの腹部に乗せるように密着させると、クルッとその場で反転した。
カーライルの身体がフワッと足が地面から離れたのを感じた、次の瞬間には背中から全身にかけて強烈な痛みが走る。
カーライルは摩志常に綺麗な一本背負いをされたのだった。
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