第十九話
私は、マーナガルムと乾杯をした後。
エン姉さん特製の
ハティスコルの料理が来るまでの暇つぶしがてら、マーナガルムに聞いた。
「ねぇー、マーナガルムって物知りさん?」
私がマーナガルムに、そう尋ねると。
マーナガルムも私と同じでワインで口を潤してから。
「そうだねー。それなりに長く生きてるから物知りさん! ではあるかな。でも、つい最近の事は話の内容によっては、俺は正しい答えを摩志常ちゃんに返してあげる事はできないかもしれないけど? それでも、かまわないなら」
「たぶん、大丈夫だと思うわ。知りたいのは、ある人物について」
あのレベルの強さの人間をマーナガルムが知らない筈がないと、私は確信しての質問だった。
そして……。
その質問に対してマーナガルムは、私を見る目を細めながら。
「…………。それは、摩志常ちゃんを打ち負かした。じ、ん、ぶ、つ、の、こと、だね」
「あたりー! 性別は女性、年齢は二十代後半、黒い長い髪、金の刺繍がされた白いマントを身に着けたわ。それと、太陽を背にした騎士の
マーナガルムの顔が意味ありげな笑みをしながら。
うん、うん、と何やら自分の中で納得できたのだろう、頭が上下に動いた後。
唇が開いていく。
「相手が悪かったね、摩志常ちゃん! それは、『ソラビオンの巫女』を護衛する『
私の心臓は尋常じゃないぐらいに、激しく鼓動しているのが分かる。
身体中に流れる大量の血液が興奮しているのを教えてくれるからだ。
"ソラビオンの巫女"、"
そして……、
本当に、この世界に来て正解だった。
パチン! と指を弾く音で意識が引き戻される。
「ヤバい顔になっているよ、摩志常ちゃん」
一瞬、ハティスコルと思わせてしまう爽やかな声と、今までに私に見せた事のない顔を私にしていた。
優美な大人のマーナガルムが、私に真面目な顔を見せていた。
そのマーナガルムが私に見せる表情は、私の心の欲望を分かっているうえでの警告だった。
このままでは、君は必ず死ぬと。
せっかく、この世界に来たのだから、もう少し楽しんでからでも遅くはないと。
そんな彼なりの優しさなの現れなのだろう。
私は、
私を心配してくれた礼を含めてだ。
注いだワインをグイっと一気に飲み干した、マーナガルムは。いつものチャラい雰囲気に戻っていた。
私の意図をワインと一緒に飲み込んでくれた。
いい男だぞ! と口から出そうになったが、無理矢理に飲み込んでやった。
その言葉を言えば、"でしょー、惚れちゃった? "とか言いそうで、ムカつくから絶対に言わない。
「摩志常ちゃんも、落ち着いたみたいだし。話の続き、負けた相手の名前は、『テュール・ヴォルケン』。二つ名は、『
私はテーブルに身を乗り出しながら。
「
マーナガルムは、あまりにも私の声の大きさに両手で耳を塞いでいた。
そして、テーブルに置いてある二つのワイングラスの中身は私の身を乗り出した衝撃で揺れ、グラス本体は私の声に共鳴していた。
…………。十六年、生きてきたけど。あ! 違う……、ぇーっと墓場で……、二年経過しているから……。十八年か! 生きてきたけど。
二つ名って。
むぅフフフ、楽しくなってきたわねぇ。
私の二つ名が知れ渡るまで。マーナガルムの言う通りに、本当に、この世界を楽しんでみようかしら。
「おまたせ致しました!」
ハティスコルの声と共に。水を運んできてくれたウェイトレスが、
ウェイトレスは、水を用意してくれた時と同じ様に「前を失礼致します」と声を私達に掛けると。手際よくテーブルセッティングしていく。
こ、このウエイトレス、で、できる! などと思っているうちに。
テーブルセッティングが終了し、軽く礼を私達にした後。キッチンにカート押しながら帰っていった。
次は、ハティスコルが、「前を失礼致します」と声を掛けると。運んできたカートの上に乗せてある、スープが入ったスープ皿を私とマーナガルムの前に置いていく。
テーブルから一歩後ろに下がり、一礼した後。
「どうぞ、お召し上がり下さい」
私とマーナガルムの前に、スープ皿が置かれた。
野菜をベースにした、ペースト状のスープだ。
私は、「いただきます」と言って。
セッティングされているスプーンで、スープを
「美味!」
それだけしか言葉にできない私だが、その言葉を聞いた。マーナガルムとハティスコルは、にこやかに微笑んでいた。
にこやかな笑みをしていた二人のうち一人の、料理を作った者は、ほっとした顔をしながら。
「僕も、そう言ってもらえると、嬉しいよ。摩志常ちゃん」
その時には……、私は悪い癖が無意識にでていた!
悪い癖は、だいたい本人は無自覚なので、お許しください。
それは、この料理の味について、猛烈に脳が知りたいというだけの欲求に。
私の知り得る情報と味覚をフルに活動させながら、この料理の味の秘密に迫った。
「すごい……、野菜の甘みが濃い……。どうしてかしら……、良質な野菜を使用しているから? でも、野菜だけの甘みには限界がある。野菜をペースト状にしているから、舌に野菜の味が絡んでいる時間が長いからも……あるけど。それだけじゃ……、この濃い味は野菜だけでは絶対にでないわ!」
私は、今、無自覚で。この行動を、しています。
皆さんは、お行儀が悪いので、絶対に真似しないで下さい。約束ですよ!
私は、スプーンで皿の中のスープをかき混ぜながら探した。
「やっぱり……、入ってない……。でも、微かに動物性の味がする……。それもとても澄んだ味だわ」
私の悪い癖の【美食家モード】を発動している姿を見た、二人は顔を見合わせた後。
ハティスコルは、摩志常に。ヒントを出した。
「ソース!」
!
「なるほど、フォンか! フォンに使われている野菜を使っているから、それで動物性の味が微かするのね! それも、
「嬉しいねぇー! 褒めてくれるなんて。料理人、冥利に尽きるよ」
不思議な事に、話している内容な大人顔負けの話しているのに対して。摩志常の印象は、どこか子供っぽく素直に見えた……、というよりも見える。
それは。
ハティスコルが、摩志常の行為を好意として、受け止められる事ができる人物であったからだ。
摩志常がこの内容に話をすると……。
大抵の料理人は、顔は笑っているが心の中では、不機嫌なのである。
摩志常の好意を、評論家気取りをするな! という行為で受け止める人物が多いからだ。
穏やかな水面に、ハティスコルは小石を投げ入れる。
「あくまでも僕としては、美味しいって、一生懸命、食べてくれている姿を見るもの好きだけど。一つ、一つ、工夫している事を分かってくれて、言葉にして褒めれくれるのも嬉しいもんだよ。摩志常ちゃん」
そこには普段の摩志常の知る姿はなかった。
可愛らしい赤らめた顔をしている少女を見た二人は、鼻から熱い液体が出てきそうになっていた。
「興味、深いね」
「このギャップが、いいんだよ」
そんな会話している二人に、警戒心MAXの小動物が、視線の雨あられを降らしていた。
「ぐうぅぅぅぅぅーーーーー!!!!!」
二人に威圧的態度を、している最中。また、彼らを楽しめる要因を生む摩志常であった。
ふぅ、ふぅ、という耳障りな笑い声を二人分聞きながら、摩志常は。小動物、威嚇形相をしたが、効果は薄かった。
「そのお腹の音からして、体調は大丈夫、そうだね……。兄さん、メインを出してもいいかな?」
「そうだね。エン姉さん特製ブドウジュースも飲んだし。スープも綺麗に全部、胃の中に収まっているしね。あの音がお腹から出せるって事は、胃、万全な状態の証拠だろうしね」
行儀悪く! 摩志常は、テーブルに両肘をつきながら、手に顎を乗せながら。少し悔しそうな顔を見せながら。
「みんな……、私の身体の事を気にしてくれたんだ……」
ワイングラスの中のワインを酸素と混ぜるように、クルッと踊らせ。
偽貴族マーナガルムが。
「心配してもらえるのは、女の子の特権だよ! そして……、君は、その特権の持ち主なんだから」
偽貴族の偽キザ台詞は、私の心に
私の薄い反応に首を傾けていたが。本人は、私にあの台詞で好印象を与えたと思っていたようだ。
アホだ! そんな安いセリフで、私の心が靡くとでも思っているのか? 今、傾けている首をより、急角度にしてやろうかしら。
そんな事を知ってか知らでか。と言いたいが、知ってだろう。
言うまでもなく、
「摩志常ちゃんの身体の強さは理解していたけど、保険は必要だからね。流石に、七日間、飲まず食わずの身体に食事は危険だからね。兄さんの指示でね」
この男はこの男で油断できない、本物の女
誰かさんと違って、さり気なく事をなしていくからだ。
「ぐうぅぅぅぅぅーーーーー!!!!!」
私のお腹は、お前達の話などどうでもいいから、飯を食わせろと抗議をした。
お腹の抗議に賛同する様に、私は!
「大盛りでお願いします!」
「承りました、お客様! それと、兄さん。セガラ王から
マーナガルムの喜怒哀楽から哀だけが、顔に出しながら。
ジト目でハティスコルを睨みつけている。
ハティスコルは、小さく息を吐くと。
「…………。にぃさん……」
「そうだなぁー。一ヶ月後でいいのなら、謁見できるよぉー」
「…………。あまり、ふざけていると……」
「分かっているよ。一週間以内にこっちから、連絡を入れるって伝えておいて」
「ぐうぅぅぅぅぅーーーーー!!!!!」
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