第十六話

 お・す・わ・りをさせられているのは、白毛のサモエドだけだった。

 赤毛のサモエドは、摩志常の腹を満たすという条件により、許しを得て。さっそく、キッチンで調理を開始していた。

 一方で……。

 一匹、ポツリと残された、白毛のサモエド事。マーナガルムの目は、泳ぎに、泳ぎまくっていた。

 マーナガルムの視線の先には、美麗な股の間から自分が贈った黒い布が丸見えだった。

 それは摩志常が、大胆にしゃがみ込んでいる為。黒いスカートが無造作に大きく広がり、隠すべき箇所が隠せずにフルオープン状態になっているだけでなく。

 目の前に二つの大きな乙女のシンボルをこれ見よがしに、突き出しながら。

 悪戯いたずらな笑みをし、摩志常が。


「どーぅし、た、の? マーナガルムぅー。私のど・こ・を、み・て・る・の、か・し・ら」


 からかわれた仕返しに。摩志常は女としての最強武器肉体を駆使して、からかい返していた。

 その効果は抜群で! 座り込んでいるマーナガルムは、前屈みになりながら、モジモジと身体を動かしていた。

 マーナガルムも、色仕掛けという反撃は想定外だった。

 そして!

 今、男としての生理現象で膨張した、本能と理性の間でマーナガルムは戦っていた。

 

 そんな二人を部屋の扉、付近から見つめる者がいた。

 

 二人がその黒く大きな影に気が付いた瞬間、二人の頭頂部に強い衝撃が。

 二人は、あまりの痛さに頭を両手で押さえながら、絨毯じゅうたんに顔を埋める。

 マーナガルムが、絨毯に顔を埋めた状態から視線だけを影の持ち主に向けると。


「『エン』姉さん!」


 名前が部屋中に、こだまする。

 すると、キッチンで調理していた、ハティスコルの手が止まる。

 兄さん? エン姉さんが来たぐらいで大袈裟な声を出して。と呆れた表情をしながら。流し台で手を綺麗にし、近くに置いてあるタオルで手を拭きながら部屋に行くと……。

 男女、二人が頭頂部を両手で押さえながら、絨毯に顔を埋めているコミカルな姿に。

 その二人の近くに、農作業着姿のブラウンカラーのベリーショートヘアーの女性が仁王立ちをしていた。

 この状況が把握できない、ハティスコルは。状況説明を要求する。


「兄さんと摩志常ちゃん。二人共、どうしたの……? それにエン姉さんも……?」


 状況説明に対して、エン姉さんと呼ばれる人物が飄然ひょうぜんな、しぐさをハティスコルに見せながら。


「気にしないで、悪ノリしていた二人に、お灸をすえただけだから」

 

 飄然ひょうぜんな、しぐさと、返答された言葉から。兄さんと摩志常ちゃんが、自分がキッチンに移動した後に。アホな事をしていたところをエン姉さんに見られた結果が、現状なのだろうと察した。

 そして、現状収拾をハティスコルはする。というよりも、やらざるを得ない。


「兄さんも、いつまでも絨毯に顔を埋めてないで、立って。摩志常ちゃんは、兄さんよりも速く立って! パンティー下着が丸見え状態だから!」


 

 マーナガルムと摩志常は、ハティスコルの言われたとおりに立ち上げる。

 

 立ち上がった二人の前には、エン姉さんと呼ばれる人物が、立ちはだかってた。

 マーナガルムは、摩志常の色仕掛けをされた時よりも、目が泳ぎに、泳ぎまくっていた。親に隠していたエロ本が見つかった時に見せる、男子の動揺した姿だ。

 摩志常は、そのあまりの迫力に生唾を飲み込んだ後。


「デカすぎ!」

 

 摩志常の口から出た、「デカすぎ!」という言葉には。二つの意味が込められていた。

 一つ目は、胸の大きさだった。

 いったい、測定した場合。なに、カップ! として判定されるのだろう。と、女である摩志常さえ興味を示してしまう程の大きさだった。

 二つ目は、身長の高さだった。

 エンの身長は、軽く二メートルを超えていた。

 摩志常は、両方の驚きから、「デカすぎ!」という言葉が口から飛び出たのだ。


 エンは、摩志常の口から飛び出した、「デカすぎ!」という言葉に、芝居じみた反応する。

 二メートルの身長にふさわしい、長い右手を自分の顔にもっていき。てのひらで頬をれながら、左手で右肘を支え、アピールポーズをしながら。

 高角度、上から目線で。


「あら? 褒めるところはそこだけかしら?」

 

 エンは、男を誘う女の濡れた声で、摩志常にある言葉を要求した。


 摩志常は、顔を下に向け、そろそろと視線だけをエンに向ける。必殺技、【タレ目殺し】を発動させながら。猫撫ねこなで声で。


「お綺麗です、エンお姉さま!」

 

 摩志常のその言葉に、嘘偽うそいつわりはない。

 エンは、見目麗しい顔の造形をしている。流石は、マーナガルムとハティスコルと同じ遺伝子の所有者だ。

 

 エンは、強引に要求した言葉を口にした摩志常に、長い両腕を近づけていく。

 右腕を右頬に、左腕を左頬に。頬の感触を、じっくりと長い大きな指でテイスティング。

 指差から若干の肉の盛り上がりを感じると。


「あなた、おてんばさんなのね」


 摩志常は、照れたような微笑をしながら、頭を掻き始める。


 その愛らしい姿を見た、エンは摩志常の身体をギューっと抱きしめながら。

 弟達に目線を送り。


「これ、連れて帰っていい?」


 その弟達の返答は。

 マーナガルムは、左右の腕で大きなバツマークを作り、ダメと返答し。

 ハティスコルは、左右の指で小さなバツマークを作り、ダメと返答した。


「お持ち帰りは、不可か!」

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