第八話
街道を二頭引きの馬車と複数の馬に騎乗した護衛の者が、ゆっくりと遊覧する速度でを道を進んでいた。
馬車は派手さはないが、重厚感があるにも関わらず、丁寧で綺麗な細工が施されいる為か、威圧感をあまり感じさせないデザインになっていたが。威圧感とは違う意味で近寄り難い雰囲気が出ていた。
それは、神社や教会などの場所で感じる、
その馬車を取り囲むのは、一糸乱れぬ
まず、
女騎士達の統制された動きと同じで、装いも統制されていた。
プレートアーマー、ガントレット、ブーツ、
そして、女騎士達の部隊の象徴である
それは、太陽の光を背に受ける騎士の姿だった。
女騎士達が護衛している馬車の中では、一人の少女と一人の女性が向かい合って座っていた。
進行方向に向かって座っているのは、少女だった。
年齢は、十六歳前後、
容姿は異世界ファンタジーのお姫様と言えば。そう……、
現実はそうではなかった。デフォルト設定なのは、金髪と美少女だけだった。瞳はダークカラーで、自己主張が苦手な、お
彼女が着用している衣服は、教会のシスター服に似ているが、デザインが全く異なっていた。真っ白な純白のドレスに、金の刺繍が施されている。
教会のシスターの
進行方向に背を向けて座っている女性は、馬車を護衛する女騎士達と基本的な部分は、同じ格好をしている。
違いがあるとすれば、金の刺繍が入った白いマントを羽織っている事と、
顔立ちは、それなりに年齢を重ねた事により、妖艶な大人の女性の色香を漂わせていた。
それに加えて、腰まで伸びた長い黒髪が、より一層、落ち着いた女性を演出させていた。
巫女の少女は、服をパタパタと遊ばせながら、興味本位で向かい合っている女性に問いかけた。
「テュールは知っていますか? この頃、とても凶悪な女性の野党が出没するという噂を」
巫女の少女に問いかけられた、テュールは。呆れた表情をした後。
「……、……。存じ上げております。しかし、どこで、その噂を……。ルーシュ様」
「あのね、それわね。
テュールは眉間にできたシワを押さえながら、大きくて深いため息をついた。
その姿を見ていた、ルーシュは。
「テュール、あまり眉間にシワを作ると、見た目の老けが早くなるそうですよ」
ルーシュに向かって、テュールは身体を近づけると。ルーシュの両頬を力いっぱい、横に引っ張るのだった。
「ご、ごめんーーーにゃーーーさーーーぃ」
そして、新たな物語へと
一定の速度で走っていた馬車が、徐々に、その速度を落としていくと。
馬車の扉がノックされる。
テュールは小窓を開けると。馬車の右側を護衛している女騎士が馬から身を乗り出しながら、小窓に近づき。
「例の者かと……」
「分かりました、停止を……。あと、
「了解しました」
テュールと女騎士の会話が終わると。
馬車はゆっくりと速度を落としていき、停止した。
馬車の行く手を遮る様に、うつ伏せに倒れている女性の姿があった。
倒れている女性の姿は、腰まで伸びたキューティクルが完全に失われたパサパサの黒髪に、学校指定のスポーツジャージを着ており、右下の腰の部分のネームタグには。
『
馬車からテュールが扉を開けて、地面に右足を触れた瞬間。
馬車の行く先に倒れていた女性が、むくりと立ち上がりながらジャージに付着した砂をはたき落としながら。
「ジョーカーを引いちゃった」
そう呟きながら、見せる
テュールが馬車を降り、起き上がる女性の姿を見る。
女とは噂で聞いていたが……。まさか、少女とは。それも、ルーシュ様と同じぐらいの年齢……。
テュールは少し複雑な表情をした後。目を一旦閉じ、じわりと目を開けた時には、獲物を狩る鋭い目に変わっていた。
テュールは少女に向かって、一歩、一歩、地面を踏みしめながら近づく。
テュールが、前方の二名の女騎士の近くを通り過ぎる時に。
「貴方達、もう少し後ろに下がりなさい。そして、いつでも、この場からルーシュ様を連れて逃げる準備をしておきなさい」
「分かりました、テュール様。ご
テュールは、その言葉に対して、優しい笑顔で答えるのであった。
二人の女騎士が下がったのを確認すると。
テュールは少女に対して問いかけた。
「あなたが、噂の女、野党なのですか?」
「…………」
テュールは、その問いに対して、少女が沈黙と同時に見せる困った表情が見て取れた。
この少女……、もしかして……。言葉が通じていない?
テュールは、再度、確認する。
「あなたが、噂の女、野党なのですか?」
「…………、…………」
再度、同じ問いに対しても。少女は先程と同じで、沈黙と困った表情をした。
その瞬間、テュールの表情が一瞬、曇る。
テュールの心の中では、言葉が通じてほしいかった。それは、この少女との戦闘は絶対に避けたかったからだ。
言葉が通じるなら、交渉をして戦闘を避けるという手段が行えた。テュールにとっては金品など、どうでもよかったからだ。
最優先すべき事は、馬車の中の
この状況で、戦闘が開始されれば守るべき者を護るどころか、巻き込む事になるからだった。
テュールにとって……、少女は……、手加減できる相手でなかったからだ。
それ程の実力が少女にはあった。
そして……。
この状況を心思わしくない人物が、もう一人いた。
それは、学校指定のスポーツジャージを身に纏い、腰まで伸びたパサパサの黒髪を靡かせ、目の前に対峙しいる女性の言葉が理解できないでいる。摩志常だった。
最悪だ……、ジョーカーよ、ジョーカー。
調子乗って、高級な感じの馬車を狙ったのが運の尽きだったわね。
失敗したわ……。
まさか、あんな、面倒臭そうなヤツが乗ってるとは……、思ってもみなかったわ。
失敗したわ……。
言葉が通じたら、ごめんないって言って、退散したいんだけど。何か言った方が、ややこしそうな感じになりそうだし。
こうなれば、戦闘のどさくさに紛れて、逃げちゃおう。
摩志常は、対峙している女性の正面に身体をもっていき、呼吸を整え始める。
それに、反応する様に、テュールも鞘から剣を抜くと。バックラーを前に突きだしながら、少し半身の体勢に構える。
向かい合い、対峙している、二人の間に、渦を巻く様に徐々に大気が吸い込まれていく。
摩志常が息を止めた瞬間に、二人の姿が消える。
そして、四度の大気を斬り裂く音がした後。
二人は互いに背を向け合い、対峙していた位置を入れ替わる様に、姿を現した。
姿を現した、摩志常の身体には――三箇所の傷口が開いていた。
右腕、左首筋、そして、左太もも。
そして、同じ様に姿を現したテュールは――左頬の一部の肉が
スピードでは、テュールに分があり。パワーでは、摩志常に分があった。
二人は、同時に振り返ると。
「――バゲモノね……」
「――ジョーカーだわ……」
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