第九話
女騎士達は、二人の女の戦う姿を見て発狂しそうになるのを――無理やり抑え込んでいた。
女騎士達が、発狂しそうになる
一つ目は。
テュールの美しい顔の左頬の一部の肉が
二つ目は。
女騎士達が知っている中で、最強と言える存在であるテュールを凌駕する。少女の存在だった。
女騎士達が発狂しそうな状況の中、二人だけは違っていた。
テュールは、左頬の抉れた部分からチョロチョロと
顔を狙ってきた、あの少女の右手をバックラーで弾き飛ばそうとした、が。弾き飛ばすどころか……、逆に力任せに押し込んできて、無理やり左頬の肉を抉り取っていくなんて……。
本当に、バケモノね。でも、スピードは私の方が
摩志常は、右手に掴んだ、肉片を見つめながら。
顔の頬肉、抉り取られながも、間合いを詰めてくるって……。どんな神経してんのよ! さらに、ご丁寧に……、右腕、左首筋、そして、左太もも、に贈り物をくれるし。
本当に、ババ引いたわね……。
おっと、アホなことを考えるな、ワタシ。
スピードは完全に負けているわね。最悪、腕か足のどちらか一本と交換に力任せに、あの女騎士の命を現世から引き千切ってやるわ。
二人は、第二ラウンドに向けての死合展開を決定し終える。
テュールは穴の空いた頬で。
「だいように、あいざれし、わがみにぃ、じぁいを――
テュールの抉られて失った頬の肉を埋めようと、周囲の肉が急激にうねりだし始め、十秒も経たないうちに抉られた部分が再生された。
摩志常は、その女騎士の頬の部分が再生されていくのを見ながら……。
流石は――異世界。
どんな方法で肉体の再生速度を高めているのか? 分からないけど、医者要らず……、とは言えないみたいね。
やっぱり……。
テュールの顔は美しい状態に戻っていたが。肉を抉られた時よりも顔色が悪くなっており。さらに、胸の動きがよく分かるほど、荒い呼吸をしていた。
想定よりも体力を奪われてしまった。かと言って、このまま、失血死するわけにはいかない。
それは……、あの少女も同じか。
摩志常の三箇所の開いた、傷口が綺麗になくなっていた。しかし、額からは大量の粘り気のある汗が流れ出ていた。
体力、あまり残ってないな。
まぁ、向こうさんも、同じか。
しかし、あの肉体の再生速度は、人間離れしてるわねぇ。ワタシも人のことを言えないけど。
二人の疲労がピークに達していたのは、明白だった。そんな二人が出す答えは、一つしかなかった。
短期決戦である。
そして、どちらも自分を勝利に、導いてくれる鍵を握りしめていた。
テュールは、スピード。
摩志常は、パワー。
握りしめている勝利の鍵を最初に使ったのは、摩志常だった。
「ワタシの肉体を炎で鍛えるあげろ――
摩志常の白い肌が日焼けをした様に真っ赤に染まっていく、全身を真っ赤に染め終えると。次は最初に真っ赤に染まり始めた部分から、徐々に
摩志常の肌が褐色になった姿を見て、テュールは驚き、ある者の名を呟かせた。
「
それならばこの少女の強さ、も、理解できた。だが、どうしてもテュールには、腑に落ちないところがあった。
テュール自身、ダーク・エルフという存在はあくまでも、
それは、耳の形状にあった。
女騎士が、摩志常の肌が褐色になった姿を見て動揺している間に、摩志常はチャンスとばかりに、突撃をするのであった。
摩志常は、先程の女騎士の顔を狙った時と同じ動き、そして、同じ軌道で右手を伸ばしていく。
高い音でありながら、とても澄んだ金属音が周辺に響く。その
テュールの振り下ろした剣と摩志常のすくい上げた拳との衝突音であった。
「さきっと違って、剣が――通らない!」
「良かったー。斬れて――ない!」
下からアッパーカットの体勢で摩志常は、女騎士の斬撃を受け止めていた。
テュールは、斬撃を素手の拳で受け止めている少女を見ながら。
「そういうことなのね……。これなら、本当に
テュールは、受け止められている剣の力をいっきに抜くと、少女の体勢が勢いよく前方方向に崩れる。その瞬間にスピードで勝っているテュールは、少女の背後に回り込むと。
地震と思わせる程の地響きと、大量の
摩志常と戦闘を開始する前に話し掛けていた、女騎士に。
「今のうちに、ルーシュ様を連れて先に、『ソラビオン神殿』に向かいなさい」
「テュール様は……」
「私には……、まだ……、しないといけないことがありますから」
そう女騎士に伝え終えると、テュールのバックラーが自分の役目を終えたと伝える様に、粉々に砕け散った。
そのバックラーの砕け散る音で、八名の女騎士達は、テュールの言葉の意味を深く理解した。
「ソラビオン神殿に急ぐぞ! では、テュール様、お先に失礼致します」
女騎士達は、テュールに向かって敬礼をすると。綺麗な統制された動きを見せながら、ソラビオン神殿に続く街道を走り去っていく。
テュールは、女騎士達と馬車が去っていくのを見送ると。
少女の倒れている場所へと近づいて行く。そこには、人の形の跡がくっきりと残っているだけだった。
「助かりました……。二度とあの少女とは会いたくありませんね。しかし、世界は狭い、必ずどこかで。また、出会うことになるでしょうね」
絶対に負けることが許されない戦いを終えた、テュールだったが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます