第六話
「…………」
木の上から鋭い視線を一点に向けている、
しかし、キリッとした目元が徐々に垂れていき、タレ目状態に戻っていくと。さらに、もう一段階、タレ目、度が増す。
その表情をしている摩志常は。某有名、白黒? いや、黒白? 色をした動物園の人気者に瓜二つと言っていい程だった。
「…………」
岩肌にぽっかりと穴が空いていたのだ。
木の上から鋭い視線を一点に向けた、摩志常が原因で岩肌に穴が空いたのではない。
摩志常が、野党を追いかけながら森中を蹂躙しながら駆け巡るって見つけた、野党達のアジトだ。
野党のアジトには、光学迷彩の様な技術が施されており。一見すると、岩肌にしか見えない状態になっていたのだ。
野党達を泳がせて追跡した時に、自分の目で確認しているから間違いない。
ただ、摩志常が某有名、白黒? いや、黒白 色をした動物園の人気者に瓜二つと言っていい程の表情をしている理由は……。
「ふぇーーー。昨日の今日でアジトを捨てて逃げるって。どんだけ、良い判断してんのよ、あの野党共。まぁ、第一、目的である、ヤドカリさん大作戦は無事に成功かな。でも、第二、目的である、金品強奪は失敗に終わちゃったわね。金品はあるに越したことないのだけれども、今の状態の私……。言葉全然話せないから、そこまで必要に迫られる事ないしね。それじゃ、私の新しいお家を見学させて頂きましょうか」
摩志常は、重力に従う様に木から、地面に向かって落ちて行く。
そして、着地と同時に、新体操選手が最後に見せるポージングをしながら。
「摩志常選手! 十点満点です!」
完全にお遊び感覚で、物事を進める。摩志常だった。
洞窟の前まで来ると、数回、深呼吸をして。
「ごめんくださーーーい! 誰かーーー? いらっしゃいませんかーーー?」
洞窟の中に、声を響かせる。
「…………」
それを数回、繰り返したが。洞窟の中からの返答はなかった。
「お宅、拝見といきますか!」
足取り軽く、スキップ、しながら、野党のアジトの洞窟の中に入って行く摩志常。
薄暗く、ジメッとした野党のアジトを数メートル程、足を進めていくと……、足を止める。
その場所は、太陽光が少なくなり、逆に闇が増し始める境目である。
摩志常は、瞑想する様に、両目を閉じる。
数分、時が経つと。目を開けて、闇の中に姿を溶け込ませていく。
闇の中を探索しながら、摩志常は。
入り口の光学迷彩が解除されていたのを見た瞬間から、野党達は逃げたんだろうな、とは、予想できていたが。
一応、用心の為に、大声で叫んだんだけど。返答はなかった。
まぁ、言葉が通じているかという疑問点はあったけど。それでも、誰かいれば、あれだけ大きな声で叫んだら、反応の一つや二つは返ってくる筈だしね。
完全に野党達は、アジトを放棄したと考えてもいいのだけれども……。
野党達が使っていたアジトなら敵が侵入して来た場合の対処として、中に罠の一つや二つが仕掛けられている可能性もある。
「やっぱり……、野党逃亡
その為に、摩志常はアジトに入る前に立ち止まって、目を閉じ、暗闇に目を慣らしていたのだ。
日常という安全の中で明かりは、素晴らしく便利で安心をくれるのだが。
殺るか殺られるかといった戦闘時には、諸刃の剣となる事をよく知っているからである。
「しかし、あれよね。 私がプレイしているゲームとか、読んでいる小説とかもだけど。絶対に、
息を吐く様に、文句を吐き出しながら、摩志常は、野党達のアジトの調査を始めるのであった。
摩志常は、洞窟の壁に触れ。
「ふぅーん、野党達が自力で掘った洞窟ではなく、天然の洞窟ね。それをそのまま、アジトに使用してたってところかな」と呟きながら、周囲を見渡す。
摩志常は、罠は仕掛けられていないと判断したのだが。保険を掛けた。
地面に落ちている拳大の石ころを拾い、進むべき方向の闇に向かって投げ込む。
カ、ツッッッーーーンンンーーー。
投げ込んだ洞窟の奥の方で、石ころと地面が接触した音が洞窟内に反響した。
摩志常は、自分の豊満な巨乳を包み込む様に、腕組みをしながら、そのままじっと黙り込む。
そこまで、奥行きはなさそうね。分かれ道もあるけど、二つだけかな? どちらの道も最後は広い開けた様な空間になってるみたいだし。
どちらに行っても正解で不正解かな。
では、正解と不正解を目指して進みますか。
暗闇の中を進んで行くと、摩志常が予想通りに二つの分かれ道が、出現した。
どっちにしようかな? どちらに行っても正解で、どちらに行っても不正解だからねぇ。
取り敢えずは、左に行っておきますか、基本だしね。
「正解かな。しかし、汚いなぁー。こんな状態で、よく生活できるもんだよ。まったく……」
その時、黒いアイツが高速の羽音をさせながら、摩志常に向かって、突進していく。
「…………。ぇ……、この世界にも存在しているの、アイツって」
そう言いながら冷静に、その高速で飛翔してくる黒いアイツをサッと素手で捕まえるのだった。
黒いアイツは、細長い綺麗な摩志常の指と指の間から、黒いアイツの足がはみ出している。黒いアイツは逃げ出そうと、高速で産毛の生えた細長い足を動かしていた。
摩志常は、自分の手の中で猛烈に足を動かしている。黒いアイツの姿を見ながら。
「これってすごくない! 異世界で私の住んでいた世界と、同じ共通する生物がいるって事は……。もしかしたら、私の世界に存在する黒いアイツは、異世界からの転移生物なのかな? それとも、私の住んでいた世界から、この異世界に転移したのかな? あれ……、何か考えているうちに……。卵が先か? 鶏が先か? みたいな考え方になってきたわね……」
摩志常がそんな事を考えているうちに、黒いアイツは握り潰されていた。
「しかし、人間もこのぐらい生命力が強いといいんだけどなぁ……。ぁあ! 私、書いてみようかしら小説! タイトルは、『転生したら、黒光りするアイツでした』って感じのやつ! イケそうじゃない!」
黒いアイツの事をいろいろ考えながらも。
摩志常が握り潰している、黒いアイツは。まだ、足をピク、ピク、と痙攣させながらも、動いていた。
「
黒いアイツは、灰へと姿を変えていく。
それを両手で、パンパンと、はたき落とすと。
「次は、不正解の方に行ってみましょうか。何があるか楽しみだ」
不正解の方は、大小合わせて、十個の鉄製の檻が置かれていた。
人の気配が微かに残っているだが、人は残っていなかった。
まぁ……、人らしい……、物体は……、残ってはいたが……。
「はぁーーー。私がこれを掃除する事になるのね……。そう考えたら、さっきの部屋の方が百万倍マシだわ」
摩志常は、ボヤきながら。ぐわぁーーーーーと、吐き出せるだけ、ため息を吐き出した。
そして、一つの物体を凝視した。
黒いアイツが真正面から飛んできても、顔色一つ変えずに、掴み、握り潰す程の胆力の持ち主が。物凄い、険悪な顔をしながら、凝視ている物は。
黒い布が掛かった、鉄製の檻だった。
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