第四話

 少し日も落ち始めた、森の中の開けた場所に、摩志常の姿があった。

 この場所は、野盗を追い掛けながら森の中を駆け回っていた時に、偶然にも見つけた場所だった。

 近くには、綺麗な池もあり水源の確保もでき、キャンプをする場所としては最高である。

 そんな場所で、摩志常は巨大なキャスター付きのキャリーケースの一つを開けて、書店で本を探している時にする、指先で本のタイトルをなぞる動きをしていた。


「あれ? ないなぁー。ちゃんと入れたのに」


 摩志常の巨大なキャスター付きのキャリーケースの中身は、大量の本が入っていたのだ。


「あった、あった。これ、これ。『女子高生JKでも、できる。簡単、ソロキャンプソロキャン』」 


 摩志常は見つけ出した本を読むために、自分の背負ってきた。身の丈以上のリュックサックを背もたれにしながら、パラパラと本を捲りながら一通り目を通した後。最初の一ページ目を読み始めた。

 真剣に熟読しているのだろう、頭が無意識に上下に動いていた。

 摩志常はパタンと本を一度を閉じ、地面に置くと。自分の背もたれにしていた、リュックサックの中身を漁りだした。

 もそもそとリュックサックと数分格闘していると中から、縦、横、が約六十センチ程度で厚みが十センチ程度の簡素なデザインの箱を取り出してきた。


「では……、開封の儀を」


 摩志常がリックサックから取り出した箱は、未開封、新品なのである。

 摩志常は、いつも、新しい物を開ける時には、この言葉を口にしてから開封する。

 開封の儀式が無事終了し、箱を開けると、一番上に乗っている取扱説明書を手に取って読み始める。


 えーと……、なに、なに。

 この度は、ご購入いただき、ありがとうございます。

 いえ、いえ、こちらこそ。

 取扱説明書にかかれている注意事項をよくお読みのうえ、正しい方法でご使用下さい。

 確かに、正しい方法で使用しないと危ないものね。

 解説書および取扱説明書は大切に保管してください。

 説明書、保管できる様なファイルって、持ってきてたかしら。

 などと、摩志常は、いろいろ考えながら、説明書を隅々まで読んでいく。

 説明書をスーッと自分の横に置くと。

 摩志常は箱に入っているパーツを取り出し、手際よく組み立てていく。


「よし、よし、焚き火台はこれで完成っと。『JKでも、できる。簡単、ソロキャン』に、オススメ商品で紹介されていただけのことはあるわね」


 そう言いながら、地面に置いたおいた。

 その、『JKでも、できる。簡単、ソロキャン』に手を伸ばし、再度、読み始める。


 この中央の窪みに、木炭を置いていくのね。

 摩志常は、本と、にらめっこしながら、リックサックから箱と一緒に出しておいた木炭を記事の説明通りに置いていく。


 えーっと、コツは……。

 着火剤を中心に置き、ふむふむ。周りに高く積み上げていくのね、なるほど、なるほど。そして、木炭で上の部分に蓋をするのね。そうすると、着火剤の火が木炭に移りやすくなると、ほぉー。 

 この作業をしてると、子供の時に積み木で家を作っていた時のことを思い出してくるわね。

 そう言いながら、焚き火台を手際よく組み立てていくのと、同様に木炭を積み上げていった。


「では、着火します!」


 瞳をキラキラとさせたる、摩志常のその手に持っている物体からは、青白い炎が吹き出していた。

 その青白い炎を出した、ガストーチを着火剤へと、徐々に、徐々に、近づけていく。

 青白い炎が着火剤に引火し、勢いよく燃え始める。

 上品な扇子を両手でゆっくりと広げていく。一気に広げてしまうと、扇子を痛めてしまうためである。

 そこまで、扇子を丁寧に扱っている筈なのに、それで、火の調整を行うという愚行をしているあたりが、摩志常らしい。


「綺麗に、木炭に引火して、安定して燃えてるわね」

 

 焚き火台の火が安定したのを確認すると。

 摩志常は、リュックサックから縦長のケトルを取り出したし、次に二リットルの水の入ったペットボトルも取り出した。

 ケトルに水を注ぎ入れ、焚き火台をの上に置きく。


「では、では、準備もできたことですし! 何を食べるか……、重要な選択に……、なりますな」


 もう一つの巨大なキャスター付きのキャリーケースを開くと、ギュギュッに詰め込まれたある物が溢れ出てきた。

 そ、それは……、インスタントラーメンだった。

 

「日本万歳よねぇー。こんな美味しいものが、お湯を注ぐだけで食べれるんだから」


 テンション高めの摩志常は、自分が持ち込んだ大量のインスタントラーメンの中から、今、自分が何を選ぶべきか。という名の迷宮から抜け、ある一つの宝に手に入れた。

 それは、誰もが知っている有名企業のインスタントラーメンであった。


「やっぱり! 最初は、基本よね!」


 それは、白を基調としたシンプルな容器デザインに、上下にはラーメン鉢によくデザインされている模様があり、中央には、大胆に商品名のロゴが大きく印字されていた。

 そのインスタントラーメンを摩志常は、両手で大切に持ちながら、焚き火台の網の上に置いたケトルから蒸気が出るのを微笑みながら眺めているのであった。

 その短くも長い時間の中で。摩志常は……、今日、異世界で起こした出来事を思い出すのであった……。

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