第十八話
少女は、寂しそうな瞳をしながら、逃げ去るようにその場所を離れていく。
高い鳴き声が耳の中の
少女は、不安そうな表情をしなが振り返る。
高架下にある明らかに人の視覚に入りにくい、まさに隠れ家のような場所に、四角形の箱に小さな命が一つ入れられていた。
そこには、小さな命を優しく包み込み、体温を下げさえないためのブランケットが、均一に四角形の箱の中に詰め込まれていた。
その箱の中には、ブランケットだけではなく。その命を支える大事な物の二つが用意されいた。水と食料だ。
今は時代の変化が大きく便利グッズが多く販売されている。市販のペットボトルを利用した、ボトル給水器に、ペットフードを入れる器も付いている設置場所を最小限に考えられたペット用品が置かれいた。
ブランケットやペット用品は、寂しそうな瞳をしながら逃げ去ったるようにその場を離れていく、少女が自分のお小遣いで購入した物だった。
その四角い箱の中で、小さな、小さな、四つの足で一生懸命、自分の命が地球の重力に潰されまいと震えながら立ち、生きていると誇示するように小さな頭を天に向け訴えるのだった。
…………。
少女の夢は獣医になることだった。
その夢を叶えるためには、それなりに才能と努力が必要だった。幸運なことに少女は、才能と努力を持ち合わせていた。
さらに、幸運なことにある学園に、特待生として迎え入れられることになったのだ。
その学園の大学部には、少女の夢である獣医になるために学ぶ必要のある学部、獣医学部があった。
その学園は、私学のため高額な学費が掛かってしまう。少女の家庭環境から考えれば、私立ではなく公立を選ぶべきと少女は分かっていた。頑張って勉学に励むことにし、公立のレベルの高い高等学校に進学し。そして、国立の大学に入学すると少女は計画していた。
そんな頭のいい娘だった。
そんなとき。
ちょうど少女が小学六年生に学年が上がってすぐの出来事だった。
帰りの道の十字路のド真ん中で、影の薄い女性がウロ、ウロ、と
少女はためらい一瞬、影の薄い女性から視線を外した瞬間だった。
「ひぃ」
っと。少女はちょっとしたホラー映画に出てくる主人公が幽霊に遭遇したときのワンシーンを再現していた。
虚無をした瞳の影の薄い女性が、少女の目の前に現れていたのだ。
影の薄い女性は、じーっと押し黙ったまま少女の瞳を見つめたあと、青紫色した唇を開くと。
「す、すみません……。『
その声は透明すぎて少女の耳に届く前に消えてしまう程にか細い声で尋ねてきた。
少女は白昼夢でも見ているのではないのか? と思った。
道を尋ねてきた影の薄い女性の右手には、スマートフォンを持ち。
「三十メートル先を右折です」
合成音声が影の薄い女性に指示を出していた。
その奇妙ともいえる光景に、少女はお驚き絶句してしまった。
「ぁ、あのー……」
と、言いながら影の薄い女性は、少女に瞳に訴えかけるように手を振る。
少女はハッと意識を取り戻すと。
「わ、わたし。ご、ごあんないします。か、彼は誰時学園まで」
少女が影の薄い女性に、話し掛けているときも。スマートフォンは、「三十メートル先を右折です」と懸命に指示を出していた。
…………、…………。
影の薄い女性を学園に案内している最中、少女はいろいろな話を彼女にした。
自分の将来の夢などいろいろと。
少女が第一印象で感じた感覚よりも、とても話しやすい女性だった。
話し掛けてると。ちゃんと会話相手と視線を一度合わせ、聞きますよと言葉ではなく姿勢で表し。そして、あえてほんの僅かに視線を逸らす。視線を少し逸らすことで相手に対して、とても話しやすい雰囲気を創り出していた。
少女は自分でも驚く程、口が軽く動いていた。
友達や教師、血の繋がりった、弟。それどころか、育ての親である両親にも話したことがない話を初め出会った人物に。少女は親密な人物に相談するように話していた。
「
「あり」「目的地に到着しました!」…………、…………。「ありがとう」
影の薄い女性は……、いつの間にか影の濃い女性になっており、スマートフォンを握りしめた手を震わしていた。顔を赤くしながら。
…………、…………。
案内された女性は、右手に持っていたスマートフォンを左肩に掛けていたトートバッグにしまい込むと。
「案内をしてくれた、お礼です。私とあたなの出会いは、"
そう言葉にして私に二つの物を渡し、女性は私に一礼をし学園の中に入っていた。左肩に掛けたトートバッグの中から、「目的地に到着しました!」という合成音声が聞こえたあとに。「分かってるわよ!」とトートバッグに向って話し掛けていた。
案内した女性はお礼として、私にA4サイズのパンフレットと名刺を渡してきた。パンフレットの表紙には、彼は誰時学園が正門から校舎を写したものが印刷されていた。そして……、渡された名刺には、『
そのパンフレットと名刺をもらった瞬間から、少女の運命は大きく動き始める。
少女は帰宅すると、パンフレットを読み始める。少女は読書好きなために、そのパンフレットを読むことに対して抵抗を感じなかった。
読書を好まない人間からすると、絶対に読まないであろう厚みがあった。
少女は表紙を
少女はそのとき、プロの写真家の凄さを知った。
そのまま目線を右側に移動させると、二ページ目には目次があった。幼等部、小等部、中等部、高等部、大学部と大きな文字で印字され、その下に何ページ目にその各部について詳細に記載されているかを示すページ数が印字されているというシンプルな目次だった。
少女は、中等部、高等部は見る必要がなかった。興味がないわけではない。ただし、現実と示し合わせれば読む必要はないと判断した。
大学部のページを開き各学部を読んでいく。
少女は、"獣医学部"、の文字で目が止まった。獣医学部について詳細に記載されている内容を隅々まで読んだ。
自分の夢である獣医師に必要な知識を学ぶ場所と想像するだけで、より一層、その夢が膨らんでいった。
少女は来年から中学生になる。公立の中学生と同じ中学生でも私立の
目次にページを戻し、中等部のページを開くと……。
少女にとって幸運なことが記載されていた。
そこには、"中等部特待生制度"、が本年度から導入されると記載されていた。
学費免除とその後の成績しだいでは、高等部、大学部にも特待生推薦され学費免除をする。という内容が記載されていたのだ。
その記載されている内容の下には、新理事長のコメントがこう書かれていた。時代と共にこの学園の門を大きく開く必要があり。そして、"強く学ぶ意志のある者の背中を押し、私は手を引く"、と。
その言葉に少女は、地の底から背中を押され、天に舞い上がるために手を引かれた。
少女は、
しかし、現実は無慈悲だった。
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