第十九話

 痛かったとても痛かった。やめてほしい、痛いからやてほしい。と伝えた。

 それは相手に伝わらなかった。

 一生懸命に伝えたが相手には、それが伝わっていなかった。

 それどころか、笑みを返してきた。

 一瞬のためらいもなく、何度も、なんども、身体を痛めつけられる苦痛と恐怖の繰り返された。

 このままでは、死んでしまうと思った。

 それと同時に、激しい憎しみが湧き出してきた。


「グゥルルルル」


 小さな、小さな、足で立ちながら精一杯の相手を睨みつけながら威嚇した。


 威嚇した相手は恐怖を感じるどろこか。笑っていた。

 

 身体に大きな衝撃が走る。

 身体が軽々と浮きあげると、地面に叩きつけながらながら転がる。そして、身体が地面に対して横に倒れ込み口からは激しく胃の中で消化されなかった内容物が勝手に飛び出してきた。


「うわぁー、汚い!」「凄く! 飛んだわねぇー」「私も次はもっと強く蹴ってみようかしら!」


 先の言葉から三人の少女たちは、高い残虐性を持った者なのがよく分かる。

 特に圧倒的な権力の差が生じた場合、弱者に対して残虐行為を増していく。彼女たちは生まれたときから、そんな環境で育てられた。

 まさに、残虐のエリート教育を受けた娘だ。


 三人の少女たちは実験をするように犬と戯れた。

 

 身体の切り傷から温かい液体が流れ、それに伴い痛みから体温が上昇していく。切り傷と違い地面と激しき接触した箇所は、軟部組織なんぶそしきが損傷をうけ腫れがっていた。

 仔犬はかすれた息が口から漏れる。 

 

 三人の少女たちは、にやりと仔犬に笑みを見せたると実験は終了した。

 

 死ぬのが怖かった、生きたかった。

 力が欲しかった。

 こいつらを殺してもでも、生きたいと思った。

 でも、それは叶わなかった。

 仔犬は自分が殺されなければいけない、理由は何一つ分からなかった。

 しまいには息もたえだえの鳴き声すら出せなくなった。

 子犬の瞳には失望の色が、黄色、青、グレーの色だった。もっと、たくさんの色を仔犬はその瞳で見たかった。

 生命の危機に肉体は、ますます過敏になっていく。生命の危機を仔犬に知らせるために。それが仔犬を無理矢理にでも起き上がるように働きかけてる。

 やがて、ゆっくりと身体を起こすと。小さな、小さな、足で、一歩、一歩、前に、前に、と進んでいく。

 一歩、一歩、前に進んでいくと。仔犬の五感は一つずつ落としていく。

 仔犬は霧の中を彷徨うように視界は霞んで見える。瞬きをしたが、ぼやけた世界はもとの世界には戻らなかった。

 

 あの人間と同じ人間なのか……? 仔犬の湧き上がってくるこの感情に戸惑っていた。あの優しくしてくれた少女の顔を頭の中に浮かんでくると、憎しみが強くなっていく。あの優しくしてくれた少女の顔を頭の中に浮かべば、浮かぶほどに。憎しみは、強く、強く、肥大化していった。

 

 死んだ……。三人の少女を睨みつけながら、仔犬は死んだ。

 

 その仔犬の死んだ姿を見た三人の少女たちには、一欠片の罪悪感は存在しない。ありを踏む殺すのと仔犬を殺すということは、三人の少女たちには同義だったからだ。


 ………………。


 少女はひざを震わしいその場で崩れ込んでしまうのを踏ん張っていた。

 おかしなことに、少女の脈拍、呼吸は一定を保っていた。

 仔犬に群がるうじはえ、そして臭気しゅうき

 そんな状態の仔犬に、少女は微笑みながら挨拶をした。


「あいにきたよ」


 少女は仔犬の横たわっている腹部を優しく撫でた。

 完全に体温がない身体に、グニャ、グニャ、と腐った肉。そこを埋めるように集まる蛆、その下にある骨をいつも仔犬を撫でているように気持ちよさそうに少女は撫でる。

 少女には感じられたのだろう、生きているときに仔犬を撫でているときのあの感覚が。

 

 まさに、狂気にまとわりつかれてしまった少女に。

 一つの黒い影が近づいて来て、少女と仔犬に語りかけた。


「あなたとアナタを助けてあげるから」

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