第九話
私の心の色は深いコバルトブルーである。
美少女の私がキスをしてあげようと言って、あの拒絶反応はさすがに凹む。
そうだ、美少女の私が
私は、気を取り直し、レジに向かって歩いていく。
チラッと後方に視線を向けると。ちょっと顔色が悪い、
凹む……。
ヒロインを助けるにしても、やり過ぎはいけなかったかもしれない。助けたのはヒロインじゃないけど。
…………。
私の場合は――。
ゲームセンターで、"うりうりうり坊"の限定ぬいぐるみが取れずに、イライラしていたこともあり、やり過ぎました。
一人目は、
二人目は、殴りかかってきたので
三人目は、逃げようとしたので、背後からドロップキックをかましてやった。
四人目と五人目はその光景を見て、慌てて逃げようとしたので、最初に地面に叩きつけ気絶した男を持ち上げて投げつけてた。ストライクだ! 二人の背後に投げつけた男が見事にヒットし、前倒しになって倒れた。
智彦君があのときに見た私の姿は、衝撃的だったと思う。
二人の前倒しになっている男の上に乗った気絶した男の姿。腕を折られた痛みから
私のその後の行動も印象によくなかったようだ。
五人の男たちのお財布から、慰謝料としてお札を全て抜いたのが悪かったのだろうか? それとも、その後、五人の男たちのお財布から、慰謝料として抜き取ったお札でゲームセンターに行ったのが悪かったのだろうか?
その慰謝料で、
智彦君は三回クレーンを動かし、"うりうりうり坊"の限定ぬいぐるみをゲットした……。
私の五万円、カムバーック!
慰謝料を使って、智彦君に"うりうりうり坊"の限定ぬいぐるみを取れるだけ取ってもらったのが悪かったのだろうか?
そうそう、智彦君にうりうりうり坊のぬいぐるみを取ってもらっているとき、ゲームセンターの外が
ラッキーです。
さっき拒否したのも、あのときの私の姿を思い出したのかもしれないなぁーと反省しながら、私はレジに向かってトボトボと歩いて行く。
今、私の背中には、凄い哀愁オーラーが……。
「え!? なに、どうしたの?」
悟さんには、見えたのだろう。私の背中の哀愁オーラーが。
凄い、右往左往していた。
コンビニに入ってきたときの様子からすると、あまりにもその様子が違いすぎるのだろう。今の私の雰囲気が。
「あ、大丈夫なんで。お会計お願いします」
「は……ぃ」
強面の人の声じゃなく、とても弱々しい声で返事が返ってきた。
お通夜ムードの中、悟さんがカゴの中の商品の冷たい例の物を手に取ろうとしたとき。だった!
その冷たさが、脳を刺激したのだろう。
「そうだった! うりうりうり坊のスピードくじ、今日からだった。摩志常ちゃん好きだったよね」
私はその言葉に驚きと興奮を隠しきれなかった。
レジの回りを見回す……、のだが……。スピードくじの景品やポスターなどが見当たらなかったのだ。
なにか? おかしいぞ? そうだコンビニ入ってきたとき、私の視界に"うりうりうり坊"の"う"の字は、なかった。
うりうりうり坊のことで私が見落とすことは絶対にない。
悟さんの言葉を思い出せ! "今日"からなのだ。そうだ、まだ準備ができていない状態だけなのだと、私は確信し。そして自分の幸運に感謝した。
「景品が見たいですけど!」
私の表情が明るくなっていたのを見て安心してくれたようだ。
「うん。じゃ、先にお会計してからね」
「…………はぃ…………」
私は倉庫中にいる、決して拉致られて監禁されているわけではない。
この倉庫は、コンビニの商品の在庫置き場だ……。
薄々、気が付いていたのだよ……。"うりうりうり坊"が表舞台に登場することがないという真実を。
悟さんは、恐る恐る口にする。
「あ、あのねぇ……。摩志常ちゃん……、ほ、他のキャラクターのスピードくじの販売とタイミングが、重なるちゃってねぇ」
悟さんの言葉を聞いた、私はニヤッとした。
明らかに私が憎しみと熱い怒りが湧き出ているように見えたのかもしれない。
「摩志常ちゃん! あ、暴れ、な、ないでーーーーー。み、店が! こ、壊れるか、からーーーーー!!!!!」
「? 悟さん、うりうりうり坊のスピードくじ、全部買うから」
私はこうして、くじを引くこともなく、
重複した景品は、悟さんの双子ちゃんに譲ることにした。悟さんの双子ちゃんも私と同じで、うりうりうり坊のファンだからだ! 仲間は大切にしないと。
あと、ちょうど今は悟さんと私の二人だ。私は悟さんに双子ちゃんの状態を聞くことにした。
「
悟さんは、腕を組んで数分考えると。
「大丈夫。変なものを見たとか、怖いとか言ってきてないから」
「大丈夫そうね。ママたちの御守りの効果がしっかりと発揮しているみたいね。ただし、二人の様子がおかしいと思ったすぐに、ママたちか私に連絡してね! 迷惑とか考えないで」
「ありがとう」
悟さんの双子ちゃんは、"
早産というヤツだった。
双子だったために奥さんの母体も出産時に受ける影響が大きく生死を彷徨ってしまい。双子ちゃんも早産のために肉体が未熟なまま出産されてしまったため、母親と同じように生死を彷徨ってしまった。
その連絡を受けた。私とママたちは、奥さんと双子ちゃんを生死の狭間から救出することにした。
ママたち
それに、可愛い身内の人の命だ。即、助けるに決まっている!
え? 他人の場合は、知りません。たぶん支払う金額で、助けるか助けないかを決めると思います。
奥さんの方は思っていたよりも、生死の狭間から引き上げることが難しくなかった。奥さんの生きたいという意思の力が強かったのと、魂の純度がとても高かったからだ。
実際、元とは言え、"ヤ"の付く仕事をしていた人と人生を共にするというのは、なかなかに難しいものがある。
それに奥さんは、一般人だった。
普通の大学生をしていて、ここでアルバイトをしていて、恋に落ちたらしい。
奥さんは、悟さんが人を殺したこともあると話しても、"それでも私はあなたを愛しています"と言ってくれたそうだ。
真面目な話、ママたちと私は、この人の魂はすごく純度が高く、器が大きな人だと感心したことを覚えている。
ただし、双子ちゃんの場合は、難しかった。
魂というのもは、人生の歩みと同時に成長していく。双子ちゃんの魂は生まれたてだったために、無防備な状態のままだったのだ。
生まれたての魂というのは、"生"についてナニもしらないし、"死"についてもナニもしらない。
何も知らない者に尋ねても、知らないことは知らないのだ。
生と死の概念は、この世界に生まれ干渉し、始めて意味をなしていく。
生まれて育っていくなかで、生を実感していき。育っていくなかで、死を実感していく。そして、生に対する大事さ、死についての恐怖を魂に刻んでいく。
だから、奥さんの魂はそれが刻まれているために、救出することがそれほど難しなかったのだ。それに本人の魂の純度も高かった要因もあったし。
双子ちゃんの魂はまさに、"
この言葉にある。"純真無垢"というのが、この状況をより厄介にさせていた。
この言葉は、"心が清らかで飾り気のないこと。邪心のかけらもなく純粋であること。また、自然のまま、うそ偽りや汚れを知らぬこと。人をだましたり疑ったりすることがないこともいう"という意味がある。
まさに、あまりにも美しすぎるために、生に対しての執着心や死に対して恐怖心が。この世界に生まれ干渉してきた人と比べ物にならないぐらい、弱いのだ。
そのため、生まれてくる前の子どもの魂ほど、この現世に戻してくることがとても難しい。この世界との干渉があまりにも少なすぎるためだ。
この世界を知らない者に、この世界に戻って来いと言ったとしても、知らない世界に戻りようがないのだ。
例えるなら。
童謡の"犬のおまわりさん"に登場する。こねこちゃんが双子ちゃんで、私が犬のおまわりさんになる。そうイメージしてもらえると、理解しやすいと思います。
そして……。
最も難しいのが"無傷"で救出すること。
先程も述べたが、生まれてたての魂は無防備な状態。例えるなら、真っ白なキャンバスなのだ。ちょっとしたことで、真っ白なキャンバスはすぐに汚れが付いてしまう。
それを取り替えればすむという単純な話なら別なのだが、魂に傷がついてしまうと、治しようがない。よく言われている。"身体の傷は治せても、心の傷は治せない"、だ。
なんとか、ママたちのバックアップもあり。双子ちゃんの魂も現世に呼び戻すことができたが、魂を無傷で戻すことはできなかった……。
悟さんと奥さんには、ちゃんと説明した。
魂に傷が残ったことにより、双子ちゃんたちは異能者としてこの世界を生きることになるかもしれないと。
悟さんと奥さんは。
「こうして抱けて、体温を感じることができた。私たちは幸せです」
と、感謝された。
私もママたちも、プロである。助けた限りは、最後までフォローする。
これに関しては、料金を貰って同じ仕事をした場合も、最後までフォローはしますよ! プロですから。
異能者とは、異能の力を使える者のことの総称である。
異能の力を使える者たちは、三つに分類される。
一つは目、"
これは、私やママたちのことを言う。
これは生まれたときから異能の力を持った者。先天性のために、子どものときから当たり前のように力を使える。利点としては、小さいときから能力を使っているので、力のコントロールが安定している。それと、子どものときから自分は、この世界の人間と違うことを理解していること。
ただし、これはこれで、大きな問題がある。
私やママたちは、恵まれていた。生みの親や周囲の環境などが異能者という者の存在をとても理解していたからだ。
私とママは、『
異能の力というモノが当たり前に存在すると認識している人たちに育てられた。だから、"恵まれている"。
そして、"恵まれなかった"者たちは……。
育ての親から気持ち悪いと、育児放棄または虐待を受けたり、最悪の場合……、殺されたりする。さらに、周囲に知られた場合は、悪魔の子などと言われたり、家族全てが差別を受けたり。また、悪魔を誕生させたということで、家族全て殺されたりすることもある。逆に神の子として崇め祀られるのならいいのだが……、生贄にされたりもする。
私もこの業界で仕事をしているので、古い先輩さんたちから、そんな話を聞いたりした。
この話を聞いても正直なところ、分からないとしか言えない。
まぁ、異能の力があるからと言って、幸せになれるとは限らないとは言える。
二つ目は、"
これは、双子ちゃんのことだ。
何かしらの出来事で、生死の狭間を彷徨ってしまい。現世に戻ってくるときに、魂の一部に傷を負ってしまった不可抗力で、後天性に異能の力が使えるようになった異能者のことを言う。いきなり異能の力を使えるようなってしまうため、自分で上手くコントロールができなかったり。場合によっては、異能の力に取り込まれてしまい、精神崩壊を起こすことが多々ある。
だからこそ、双子ちゃんたちの魂を無傷で救い出したかったのだ。
三つ目は、"
これは"過去の遺産"を使用して、"人工的"に異能の力を手に入れた者のことを言う。これは天災と同じ後天性になるが。私たち天才と同じで異能の力を安定してコントロールをすることができ、天災の人たちと違い、自分の意志で異能の力を手に入れているために、精神面が安定しており精神崩壊を起こすことが少ない。
ハイブリッドな異能者に思えるが……。何にでもリスクは伴う。
そのリスクが、"過去の遺産"だ。
過去の遺産とは"薬物"のことだ。
秀才は異能の力を手に入れるために、肉体に大量の薬物を投与することによって人の脳のリミットを強制的に解除して異能の力を手に入れている。
そのために肉体に対しての負担が大きい。成功したとしても、異能の力を使うために常に薬物を摂取する必要性が出てくる。それを繰り返しているうちに、肉体はいつしかその薬物なしでは、生きていけない薬物依存症に陥ってしまうのだ。
"過去の遺産"と呼ばれるのは、人が生まれて異能の力に憧れ始め。自分もその力を手に入れるために、ありとあらゆる国の人間が、ありとあらゆる方法で人間を使って人体実験をした結果だからだ。
双子ちゃんは、二つ目の天災で異能の力を手に入れしまっていた。
ママたちと私の今のところの見解は、普通の人よりも強い霊感体質になっていることで一致しているのだが……。
問題があった、それは"双子"ということだった。
共鳴現象を知っていますか?
"外部から同じ周期で力が加わると力を受けた物体の振動の振幅が大きくなる"、現象です。よくあるのが、学校で先生がマイクに向って話そうとしたときに、"キーン"という音を耳にしたことありませんか? あれのことです。
双子ちゃんは普通の人よりも強い霊感体質なうえに双子のために両親よりも、魂がとても似ている。そのため魂が共鳴し強い霊感がより増幅させてしまうのです。
そのために、一人、一人、の場合なら見えないモノでも見えるようになってしまい。さらに、増幅された霊感は、悪霊、悪魔、
双子ちゃんは強い霊感があったとしても、自分たちを守る手段を持っていません。
そこで、私とママたちの出番です。
ママたちの術印を施し、私の髪の毛を入れた! 特性、御守りを双子ちゃんに持たせることにしたのです。
ついでに、私たちと深い関係のある人たちにも、配りました。
私が、悟さんに双子ちゃんの様子を尋ねたのは。
御守りの効果が発揮されているのか? の確認と。あと、双子ちゃんは、異能の力に変化がないか? の確認のためでもあるのです。
普通の人よりも強い霊感体質と"今のところの見解"であって。双子ちゃんは、成長中なので今後どのように、異能の力が変化していくか分からないために、常に新しい対応の準備をしておく必要があるからなのです。
今のところは、悟さんの表情から見ても大丈夫そうです。
…………。
その悟さんの表情から安心した、私は。
悟さんの背後にある物を見て……。
もしかしたら今……、問題なのは……、私の方なのかもしれない……かな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます