第六話
お仕事はまだ終わっていなかったみたいだ……。
私は、ヤナシタさんの肉体と一緒に憑依しているモノを
憑依しているモノは、火之夜藝の炎に焼き尽くされる前に、ヤナシタさんの肉体から憑依を解除して脱出したらしい。
ゲロ塗れになっている四人の男の頭上には、ただならぬ雰囲気が漂っていた。
「本当に、本当に、惜しかったよ! お嬢さん。噂以上の異能の力だ。正直のところ驚かされたよ、嘘半分で君のことは聞いていたからね」
私は少し疑問に思っていたことがあった。それは、ヤナシタさんの命とその家族五人程度の命で、これ程の力を持ったモノがこの世界に召喚できるのか? という、シンプルな疑問だった。
どんなことをするにも対価を必要とする。それは、日常の世界だろうと、非日常の世界だろうと同じことだ。日常の世界なら金銭が大半だ、非日常の世界はならば命が大半になる。
どう考えても、ヤナシタさんの命とその家族五人程度の命で、召喚できるレベルのモノではなかったのは、分かっていた。余程、霊感や魔力や信仰心や異能の力が高い人間がその命を代償として使用されるのなら可能性はあるのだが……。
どう考えても一般人の人間が六人程度、生贄になったとしても、これ程のレベルのモノが召喚できるとは思えない。
ヤナシタに憑依しているモノの口から、"聞いていた通り"という言葉が第三者が加入したことを物語っていていることは、確実だろう。
裏で力を与えることで、通常召喚されるモノよりも、より強力なモノが召喚されるように手引したのだろう。
「あなたの本当の
黒い
「その取引には、応じることはできないなぁー。お嬢さん、俺様の下にある物は、なぁーんだ?」
「ゲロ塗れの男が四人」
私の回答に、黒い靄は興奮しているのか? 激しく揺らぎながら。
「この男たちに憑依して、また、お嬢さんを襲う。お嬢さんは人を殺したことがあるのかな?」
確かに、ヤナシタさんの場合は、死体に憑依していただけなので。どれだけ肉体に損傷を与えたとしても、死体損壊でしかない。
コイツが言いたいのは、"意志がある生命活動している"肉体を殺すことができるのか? という意味だろう。簡単に言えば、私が"罪のない人を殺すことができるのか? " という問なのだろう。
「…………。 たぶんだけど、あなたが"罪のない人を殺めた数"よりも。私は"罪のない人を殺めた数の方が多い"と思うわよ。だから、私に対してその問は脅しにならない。試してみたらいい、私が"罪があろうが、なかろうが。私の"中立"のためになら、人を殺めることができる人間だと、すぐに分かるから」
黒い靄は
私の心の中では、ゲームやマンガの世界でも精神生命体系のキャラクターは、頑張って顔ぽい表情をしているんだから。お前も頑張って表現しろよと思っていた。
ゴボッ、ゴボッ、ゴボッ、黒い霞は液体状に変化していくと、ゲロ塗れの倒れている男の一人に、憑依するために、男の身体を黒い液体が包み込み始める。
「くるな、クルナ、来るなー! こ、こから出せーーーーー!!!!!」
コイツ、
正方形の薄い水の膜の中に、この世界では存在してはいけないモノが存在していた。
うーん……、西洋悪魔だ。
え? どうして分かるかって。それはねぇー。
私が使った術の効果の一つがちゃんと効果を発揮しているからなのです。
この術は、『
これもママに教わりました。なんとか、今回は成功したみたいです。
え? 術が失敗していたらどうなっていたかって? それは簡単、ゲロ塗れの四人の男を
おっと、少し話が逸れましたが。
この術は陰陽道の『
ありがたやー、ありがたやー、です。
結界の中で、喚き散らしている。この西洋悪魔……、まず、顔がデカすぎ。身長は私と同じぐらいなのだが、マスコットキャラクターの着ぐるみの頭ぐらいの大きさだ。動いたら頭の重さで絶対にコケるだろうと思わせる程だ。
顔がデカいためか、鼻を中心に目と口がすごく離れた位置にあった。あ! でも、目は小さくてクリっとした可愛らしい感じだ。
そうそう鼻は人間と大差ない、逆に鼻筋が通っており高いのだ、西洋悪魔だからなのだろうか? ちょっと腹が立つ。
口は結構大きい、男性の握り拳は軽く咥え込むことができるだろう。歯は牙のように鋭いが大きな人間と同じぐらいで、生えている本数が多い。パッと思いつくのがノコギリの刃をイメージ近いかも。
もう一つデカ部分があった。足のサイズだ! 四十センチ以上はある。この足のサイズで大きな頭でも歩けるのだろう。
あとは……、あまり人間の肉体と差がないかな? 下半身の男性器もあるけど……。普通? かな? ノーマル状態だからかもしれないが。 あとは、手が猿ぽいのと、肌の色素も日焼けした人って感じぐらいかな。
そうそう言い忘れていました。
この、
一つ目は、捕縛結界としての効果。二つ目は、この世界に実体化させる効果。あとの六は拷問の時間のために省略します。
つぶらな瞳が怯えるその感じなかなかに高ぶってきます。
あ! そうそう、私の性癖は、
「待って、待って下さい!」
この西洋悪魔は恐怖していた。
悪魔や悪霊や幽霊や
ゲームで例えるなら
彼らはこの世界では、チートプレイヤーなのです。異能者も、この世界ではチートプレイヤーになります。だから、対応できるんですけどね。
無敵状態が解除されということは……。私以外のこの世界に住まう者なら誰でも、この悪魔に傷を負わせることができる状態にされたのです。
さらに逃げることができない状態なのだから、より恐怖は増していく。
実際、実体化させたとしても、このクラスの悪魔になれば、人間を殺すことは容易いなことに違いはないのだけれども。
自分が傷を負ってしまう。リスクが、"ある"のと"ない"のでは大きく違う。
このゲロ塗れになっている四人の男たちをこの西洋悪魔は殺せるだろう。でも、この四人の男たちも拳銃でこの西洋悪魔を撃てば殺せる。条件は五分五分だ。
しかし……。
あくまでも、西洋悪魔が動ければの話だ。
今のこの状態はどう考えても、この西洋悪魔に分が悪い。
私は、いろんな不謹慎なことを考えながら、結界に閉じ込められてる西洋悪魔に近づいていく。西洋悪魔のデカい顔は、焦りの表情を見せていた。
私の心の中の不謹慎が私の顔に出ていたのだろう。
「やめろ、ヤメロ、止めろ。くるな、クルナ、来ないで下さい! お願いします!」
彼はこれから自分の身に起こるであろう危機的状況に怯えていた。身体を強張らせながら、デカい頭を猿の手で抱え込みながら、結界の隅に身体を寄せる。
結界に身体が触れると、電流が流れるために結界の中央へと戻される。それでもこの西洋悪魔は、隅に隅に身体を寄せていく。
そう、闇の部分を剥き出しになってしまった私が近づいていくからだ。
悪魔と言えども、"苦痛"というモノはそう簡単に耐えれるモノではない。彼は今、結界の中で思っているだろう。あのとき、私の提示した条件を素直に呑んでいれば、それともあの炎で焼き尽くされていれば、あのときの苦痛だけで、"死"ねたかもしれない。
でも、今は違う。簡単に"死"という最終地点に辿り着くことは絶対にできない。その後悔が彼の行動に表れた姿が今の姿なのだ。
私が結界の前まで辿り着くと、結界に向かって蹴りを入れた。
結界は私の蹴りの邪魔をすることなく、西洋悪魔の顔にめり込む。そして、その蹴りの反動で結界に身体が触れ電流が身体に流れる。
顔からは紫色の血が結界の中に滴り落ち、電流の衝撃で身体が痙攣している。惨めな姿だ。
この術は術者が、外部から内部に対して干渉できるが、内部から外部に対して干渉できないようにした術が組み込まれている。
ママ
だからあの西洋悪魔は逃げることはできないが、私の蹴りがあの西洋悪魔の顔に当てることができたのは、その仕組が働いているからだ。
そう言えば説明していなかったが。
「お、お願いだ。た、助けてくれ。俺様が――いや私をどうか、どうか助けて下さい。あなたの質問に何でも答えます! どうか、どうか、助けれ下さい。お願いします」
西洋悪魔は、震える子犬のようなか細い声だが、一生懸命、私に
私も悪魔ではない。
「質問です。分かっていると思いますが……、嘘はダメですよ。分からないことは、素直に分からないと言っていただいてかまいません。あなが分かる範囲で答えて下されば、これ以上酷いこともしないし。あなたの世界に無事に帰れる保証はしましょう。約束します」
私のその言葉に呆然とした顔をしていた西洋悪魔だが、私が嘘を言っているように思えなかったのだろう。これ以上酷いことをされるぐらいなら、私の言う通りにした方が懸命だと判断したのだろう。
「質問は二つです。一つは、ヤナシタさんとご家族を死に追いやった人物を知っていますか?」
両手で顔の出血している部分を抑えながら、ある人物の名前を私に答えた。それは、クライアントの男性の名前だった。
よくある地上げ屋の
そこはかとなく、気がついていた。
「では、最後の質問です。これで、あなたは自分の世界に帰れます! でも、この答え次第では意味が分かっていますね」
西洋悪魔は、呼吸を整え
「では、あたなを召喚した真の主は誰ですか?」
悪魔は契約を一番に
その契約を破るということは、主に殺される可能性がある。それでも、今この地獄よりも地獄の拷問は、この西洋悪魔にとって主との契約破棄をしてまで、逃げたい。
西洋悪魔の瞳の色を失いながら、呟いた。
「エ、……、……」
西洋悪魔の言葉に私が耳をすませた瞬間だった。
目の前に一筋の光が、結界を貫きに、西洋悪魔の悪魔の額に刺さると。大きな頭部がさらに膨張し、木っ端微塵に吹き飛び、肉片が結界内の壁にへばり付き、結界が崩壊した。
――しまった! やってしまったー、ちょう
第三者として介入しているなら、絶対に保険を掛ける。すっかりそのことが頭の中から抜けていた。
バカだ……、ワタシ……。
でも。
いくら、ママの
考えるだけで、頭が痛くなってきた。
もう、考えるのは止めておくことにしよう。これでお仕事は本当に終了!
私は工場に落ちている、鉄パイプで気絶しているゲロ塗れの男たち四人をツンツンと突きながら起こした。
男たち四人は、目を覚ました。
男たち四人は、互いの姿を見ながら、あれは夢でなく、現実だったのだと再認識していた。臭いも含めて。
男たち四人は、そのまま沈黙をしていた。
非日常の世界を体験した人間はだいたいこんな感じになる。まぁ、発狂して精神崩壊する人間もいる。彼らはそれなりに心が強いかったのか? それとも……、ただ、気絶していたことで無事だったのか? それは、私には分からない。
分かるのは、顔色が悪いことだけだった。
私は、彼らに仕事が終了したことを伝えた。
唖然としていた瞳に、少しだが輝きが戻り始めた。
男たち四人は、"非日常"から"日常"に帰れた。
彼らは私に深々と頭を下げ感謝の礼を述べてくれた。それと後の処理もこちらでしますと申し出てくれた。
とても助かる、最悪こっちで業者を呼ぶ必要がない。経費が浮く!
私はにこやかに微笑み、軽く彼らに手を振り、勝手に開いた扉に向かって歩いていく。そして、勝手に開いた扉を今度はちゃんと自分の手で開け、この工場から出ていく。
私が振り返ると、男たち四人は。また、深々と頭を私に下げてくれた。
そして、私も彼らに、深々と頭を下げ、工場をあとにした。
立ち入り禁止が掲げれている前に止まっている、黒光りする高級自動車の後部座席に座っている。本日のお仕事のクライアントの男性から私は小切手を受け取った。
小切手に書かれている金額は一億円だった。
…………。
私は、受け取った一億円の小切手をクライアントの男性に差し出しながら、耳元で呟いた。
すると、クライアントの男性は私が差し出した、その小切手を受け取ると。胸元から小切手帳を出し、小切手に数字を書き入れていく。書き終えると、その小切手を私に差し出してきた。
私はその小切手を受け取り、金額を確認すると。
「ご利用ありがとうございました! また、お困りの際は、有限会社・『
と言いながら、深々と頭を下げる。
クライアントの男性が乗った黒光りする高級自動車が、ウィンカーを点滅させ、深夜の暗闇に溶け込んでいった。
月明かりで見える小切手の金額は、一億円から二億円になっていた。
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