第三話
立ち入り禁止と掲げられている鉄柵を厳つい顔の男性たちが、開けてくれた。のはいいのだが……。
一緒に厳つい顔の男たちも私に同行するようにと、クライアントの男性からの指示があった。
私はクライアントの男性に、同行する人たちの"命の保証"はできないと伝えると。
「問題ない」
という、簡素な返答が私にされた。
クライアントの男は、なかなかに悪趣味である。
私が言っていた。"第一印象が百点満点だからといって、人として百点満点か? というのは違うので。そこはしっかりと注意をすること"。
この男は、人としては……。"零点だ"!
私に同行してくる男たち四人は、いつの間にかメガネをかけ耳にイヤホンと胸にマイクピンが。メガネには小型のカメラが装着されているのが分かる。メガネのフレームのツルの部分にレンズが見えているからだ。これで彼らの視界が全て見れるのと、イヤホンとマイクピンは、連絡指示と現場の音声を拾いより臨場感を増すために装着させられていると言った感じだ。
クライアントの男は安全な場所から、彼らがこれから体験することになる恐怖を見るという遊びをしている。
薄々、勘付いていた、この男は"糞野郎"だと。
だいたい、私の実力が見たいと言ってきたときから、コイツは人を
そしてこの四人の男も、クライアントの男性の完全な玩具だ。この男たちもそれを分かっているみたいだ。真性のマゾだ。
私にはこのクライアントの男に彼らが自分の命を預ける意味が分からない? お給料がいいのだろうか? 私の場合はお金と"趣味"でこの仕事をしている。
そんなことを考えながら。私と四人の男たちと一緒に敷地内に足を踏み入れた瞬間!
私は気温が一気に低下したのを感じた。そして、四人の男たちも私と同じように気温が一気に低下したのを感じたのだろう。顔から血の気が引き始めた。
彼らは霊感というのはないと言えば語弊になるな、ちゃんと言えば弱いと言った方がいい。そんな彼らでもハッキリと感じることのできる。異質な空気。
確かに特殊案件レベルの人間が扱える内容じゃない。
「今ならまだ、引き返せます。クライアントの男性のところに戻って下さい」
私はその場で振り返り。四人の男たちに最後の警告をした。
四人の男たちのイヤホンから声が聞こえる。内容は聞こえないが、内容は予想できた。
男たちは、私の目を見ながら。
「それはできません」
はぁー……。血の気の引いた顔色で、"それはできません"……か……。
なかなかに、男前だ。
気に入ったぞ! 私は彼らを守ることにした。
私は、四人の男たちに、しゃがむように頼んだ。彼らは百八十センチ以上の長身だ。私は、百五十五センチの胸ぺったんだ。
余計なことを言ってしまった。
四人の男たちの額に私は、一人ずつ口付けをした。
とっくの昔にファーストキスは奪われてますので、とくに問題ありません。
私が急に額にキッスしたので彼らは目が点になっていた。キッスの効果は抜群だった、少しは心が安らいだのか、彼ら四人の顔色も赤みが戻り始めていた。
彼らは言葉を発することはなかったが、顔の表情から私に感謝しているが伝わってくる。
そして私は彼らに指示をした。私よりも絶対に"前に出ない"ことを。
そのまま敷地内を歩いて行くとカップラーメンの食べ頃よりも早く、廃墟と化した工場の入口に辿り着いた。
私が鉄製の扉の取っ手に触れようとしたとき。ギィ、ギィ、ギィとザビた扉が奏でる独特の音色を響かせながら。私たちを歓迎するように扉が内側に動いていく。
「ご親切にどうも」
と、私は礼の言葉を言っている後ろでは。
四人の男たちの顔色が……、また、血の気の引いた顔色になっていた。
勇気づけるつもりで。
「大丈夫!」
と、彼らに声を掛けたが。
「「「「…………、…………」」」」
効果はなかった。
私を先頭に歓迎してくれている工場内に入っていく。
工場の中は、屋根の一部が腐食し地面に落下しており、壁の一部も崩れているので工場内からでも外の敷地内の景色が見えていた。
ありがたいことに屋根の一部が崩れているおかげで、月明かりで工場内の視界は思っていたよりも良好だった。
古そうな工作機械などが一部残っており、油の臭いも残っていた。
私は工場の中をゆっくりと歩きながら、観察をしていく。
私に続くように、四人の男たちも私の後ろに付いて歩いてくる。そして私の指示通りに、私より絶対に前に出ることはしなかった。
正直な話、後ろに付いて歩いてくる四人の男たちの動き、カッコよすぎ!
素人ではないのは分かっていたが、
四人は互いの死角をカバーする陣形の取り方も、私が知っている陣形と全然違ったし。一番驚いたのは、拳銃を構えだった。"え!? こんな構え方をするんだ"、と関心させられた。
ただ……、やっぱり……、顔色は悪かった……。
私と男たち四人は、工場内をおおかた見学し終えた。
気温の低下と扉が勝手に開いた程度の怪奇現象しか、まだ体験していない。
相手さんは、なかなかに恥ずかしがり屋さんなのかもしれなぁーと思っていると。案外、大胆な行動を相手さんは仕掛けてきた。
一トン近い工作機械が私たち目掛けて飛んできたのだ!
「「「「うわあぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!」」」」
私の後ろで男、四人が叫ぶ。
逃げようがないのだから仕方がない。後ろに逃げても、前から飛んで来ているだから意味がないし。横に回避するのは難しくないが……タイミングが悪い、完全に不意打ちされているために、横に回避できることができなかった。
彼らにとっては、絶体絶命だ。
私にとっては、どうでもいいことだった。
飛んで来ている工作機械を思いっきり、蹴上げた。
ドーーーーーンという音の後に、ドカーーーーーンという工場の天井を工作機械が突き破る音がした後。
そして工場の外から工作機械が落下した音が聞こえてきた。
「驚いたよ……、やるねぇー。お嬢さん」
一人の男性が立っていた。
「
背後で腰を抜かして地面にへたり込んでいる四人の男たちの一人が、そう呟いた。
そのヤナシタと名前を呼ばれた男性は。ニヤッとした陰険な笑い顔をしながら。
「ヤナシタは、死んだよ。俺様を呼び出すためにな」
ヤナシタさんの肉体に取り憑かれているモノが、言っていることは真実だろう。コイツをこの世界に存在させるために自分の肉体を
どうして自殺って判断できたかって、見れば一発で分かる。心臓付近に刺し傷があるからだ。
しかし、ヤナシタという人物は賢い、死ぬにしてもできるだけ肉体の損傷を最小限にしている。
このヤナシタという人物は、悪魔召喚や降霊術などについて詳しい人物だったのだろうか? それとも第三者の助言に従って行なったのか?
前者ならタチが悪い話で済むのだが。後者なら――最もタチが悪い! 異能に通じる者が後ろで糸を引いていることになる。
最終的に組織どうしの争いになるから最悪だ。
私の予想だと前者はない、確実に後者だろう。
自殺をする人間が自分の肉体の損傷を最小限にすることを考えることはしないからだ。それを最小限にしていることが、いい証拠だ。
依代にする肉体の損傷が激し場合は、依代として使えないからだ。
端的に言えば、電車に飛び込んで肉体が細切れになった肉体に取り憑けたとしても、動きようがない。
ただし……、何事にも例外は存在する。
呼びたされたモノの実力によっては、いま、現在の科学技術では不可能、または、証明できない現象を起こすことができる。
ヤナシタという人物の場合、肉体が腐敗していなかった。ママの会社に依頼されるまでに一ヶ月以上、時間が経過しているのにだ。それだけの時間が経過したら最低でもそれなりに醜悪な姿になってる。
まぁ、肉体を冷凍してましたって話なら分からんでもないが……。
死因である刺し傷を治癒再生はできていないみたいだが、死んだ肉体を腐敗させることなく維持できだけの実力があるモノが憑依していることになる。
それが、西洋の悪魔なのか? 東洋の妖怪なのか? ましてや
正直な話、特殊案件の人間程度では、手に負える相手でなかった。
私はヤナシタに憑依しているモノに質問をした。
どうして質問したかって――この憑依しているモノは"口が軽そう"だったからだ。
「あなた、お名前は?」
「はぁ? 言うわけないだろう」
さすがに、口が軽そうでもやっぱり、名前は言わないわなぁー。
「あなた……。ヤナシタさん一人の命だけで、この世界に来たんじゃないわよね?」
すると、ヤナシタに取り憑いているモノは、クッ、クッっと笑いを我慢した後。
「五人」
と、たっぷりと時間を掛けて答えた。
それを聞いた私は、ヤナシタと呟いた男に尋ねた。
「ヤナシタさんに、ご家族は?」
「柳下の両親と妻、そして……、子供が二人です」
計、五人か……。ヤナシタさん自分の家族の命を生贄にしてコイツを呼んだのか。
私の推測は正しかったことになるな。ヤナシタさんは、第三者に
セリフは多分……。
『ただ、家族の命を奪うだけなら、お前は負け犬で終わる。それなら意味のある命の奪い方を教えてやろう。そして、お前を苦しめたヤツに復讐するだ』
ってところだろう。
それで商売している裏の人間の"
ヤナシタに取り憑いているモノは、退屈してきたのか? アクビを噛み殺しながら。
「カワイイお嬢さんは、どうすんだい?」
私はその問いかけに対して、握り拳を突き出しながら。
「決まってるじゃない、あなたをぶっ殺す!」
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