2.
イカした仲間を紹介するぜ。こいつらは、僕と同じ志を持つ火星人討伐隊のメンバーだ。
いつも冷静沈着なチームの
サッカー部の次期キャプテン候補(ポジションはゴールキーパー)、中学二年生にして身長180センチ越えの巨漢・歌垣ユキツグ。
そして僕、緑あふれるこの
「人殺しとか、やっぱりオレには無理だと思う……」
僕の隣に座ったユキツグが情けない声を出す。
この半年でもう十体以上の火星人を自慢の怪力でくびり殺したクセに、何を言っているんだコイツは。
「ユキツグ、人間じゃなくて火星人だよ。人殺しとか、あまり物騒なことを言わないで欲しいな」
僕は熱くなった鉄板の上に油を薄く引く。キャベツで土手を作り、そこに水で溶いた小麦粉を流す。ソースが混ざっているので味付けは必要ない。
生地がフツフツしてきたところで全体を切るように混ぜて、焦げ目が付くまでしっかり火を通す。あたりに香ばしい匂いが漂い始める。
「美味そうだな……」
そう言うトウタの眼鏡はもんじゃ焼きの湯気で白く曇っていた。
「実際、エイジの焼くもんじゃはメチャクチャ美味しいんだよな……」
ユキツグがよだれをすすりながら言った。
目の前のもんじゃに完全に気を取られている。さっきまで情けない声を出していたのが嘘みたいだった。
もんじゃの焼き方は、死んだじーちゃんに教わった。じーちゃんは粉もの料理が好きで、もんじゃ以外にも、お好み焼きやタコ焼きの美味しい作り方を伝授してくれた。
ここは、僕達が通う中学校から少し離れたところにある、駄菓子屋のお座敷席だ。お座敷席はVIPルームとも呼ばれ、小学校高学年から利用できる。
僕達の最近のトレンドは、VIPルームでもんじゃ焼きやお好み焼きを食べて火星人討伐の労をねぎらったり、作戦会議をすることだ。お店をやっているのは、置物みたいなおばーさんで、僕達の会話に一切関心を示さない。多分、ゲームか漫画の話をしているとでも思っているのだろう。
「こうしてもんじゃを焼いてる間にも、邪悪な火星人は地球に飛来し続けている。これからも頑張ろう」
「ああ、そうだな」
トウタが眼鏡のレンズをハンカチで拭きながら答える。綺麗にアイロンのかかった、青いハンカチだった。
「うへぇ……」
僕とトウタに比べて、ユキツグのモチベは低かった。でも、ひとまず何も言わないでおく。大きな体の割に少しヘタレなところがあるけど、やるときはやるヤツだってことを僕もトウタも知っているから。
「どうしたんだよ、ぼんやりして。もんじゃが焦げるぞ」
トウタが心配そうな表情で僕の顔を見る。
「おおっと……」
鉄板の上でキャベツと桜エビのもんじゃが美味しそうに焼けていた。
「地球の平和のために!」僕は言った。
「地球の平和のために」トウタが続く。
「……地球の平和のために」ユキツグは若干グッタリしているように見える。
グラスに注いだコーラで乾杯して、僕達はささやかな宴を開始した。
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