3.
僕らは地球の
「最近、女のホームレス……じゃなかった火星人も多いな」
火星人の頭部に埋まった鉄梃《バール》を引き抜きながらトウタが言った。一瞬、おかしなワードが聞こえたような気がするけど、ここはあえてのスルー。
「まぁ、どうでもいいけどな……」
トウタがズレた眼鏡の位置を直しながら呟く。額に汗が滲んでいた。
「そうだよ。火星人に男も女も関係ない。見つけ次第、全て駆除だ。僕らで狩り尽くしてやろう」
「ああ、そうだな」
トウタは僕の言葉に頷くと、逃げようとした火星人の足を鉄梃で払った。僕はその頭にすかさず金属バットを振り下ろす。ゴキャ、おべぇぇ。潰れたカエルみたいな声が夜のしじまにこだまする。
「そういえば、ユキツグはどうした?」
言われてみると、姿が見えない。僕は周囲に視線を巡らせる。
いた。噴水の近くだ。
ユキツグは、うつぶせにした火星人の背中を足で押さえ付け、そのままテグスで締め上げている。巨漢のユキツグらしい、豪快な殺し方だ。僕とトウタは思わず見惚れてしまった。
「な、何をしてるんだ……!」
声が聞こえた。
僕のとーさんと同年代くらい、おじさんの声だ。何か、信じられないものでも見たかのような表情を浮かべている。
「えーと……地球を守護るために、邪悪な火星人を『処理』しているところです。できたら見なかったことにしてもらえると助かるんですけど……」
僕は素直に事情を説明した。
「な、何を言ってるんだお前は……! 警察を……」
その言葉にユキツグが動いた。ズボンのポケットから特殊警棒(ネット通販で買ったやつだ)を引き抜くと、おじさんの側頭部に思い切り叩きつけた。
「おべぇぇぇぇ!?」
おじさんがぶっ倒れる。そこにトウタが
おじさんは虫みたいにピクピク痙攣していたけど、しばらくすると、ピクリとも動かなくなった。僕達の崇高な活動に理解を示さず警察に駆け込もうだなんて人類に対する離反行為に他ならない。こんな裏切り者、地球人のわけない。火星人に決まっている。
「うう、またやっちゃったよぉ……」
ユキツグは何故か半泣きになっていた。
「いい仕事だったぞ」
トウタがユキツグの肩に手を置きながらいう。
「今夜のMVPだね!」
僕は親指を立ててみせる。
「うう……」
ユキツグが小さな声ですすり泣く。そうか、泣くほど嬉しいのか。僕にも分かるよ、その気持ち。火星人を殺すたびに、一足先に『約束の場所』へ旅立ったじーちゃんも喜んでると思う。こうやって地道に侵略者を駆除し続ければ、僕もいつかじーちゃんと同じ場所に行ける筈だ。こんなに嬉しいことはない。
「何か、気分が悪くなってきた……。おれ、明日も部活の朝練があるんだけど、もう帰ってもいいかな?」
ユキツグはサッカー部の次期キャプテン候補だった。部活をサボるワケにはいかない。ちなみに僕とトウタは手芸部だ。フェルトでマスコットを作ったりしている。
「そろそろ帰って寝ないと、授業に響くか……」
「そうだな。今夜はもうお開きでいいだろ」
僕の言葉にトウタが頷いた。
「コンビニ寄ってもいい? 明日の朝ごはん買わないと」
「そうだな。家にはインスタントコーヒーくらいしかなかった」
かーさんには、今日はトウタの家に泊まると言ってあった。
トウタの家庭はちょっとワケありで、両親が家を不在にしていることが多い。
火星人狩りのある夜は、トウタの家に泊まる。というか、トウタの両親が家を空けるタイミングで火星人狩りを行っている、というのが実状だった。
「待って。返り血がちょっと付いてる。さすがに、拭かないとまずいよ」
噴水に溜まった水でタオルを濡らして、血で汚れた手と顔を軽く拭う。
念のため着替えを持ってきたけど、火星人狩りに慣れた今の僕達には必要のないものだった。
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