1.

 深夜。終電の時刻が過ぎた頃――。

 静まり返った駅前の広場が、僕らの狩り場に変わる。標的ターゲットは、シャッターをおろしたホームの入り口の前で、静かに寝息をたてている。僕は愛用の金属バットを上段に構えて、勢いよく火星人の頭めがけてふりおろした。ゴキ、と鈍い音が響く。空気の抜けるような呻き声が聞こえた。僕の目の前に横たわる火星人は、しばらく痙攣を続けると、電池の切れたおもちゃみたいにピクリとも動かなくなった。

「気を付けろ。人が来るぞ」

 広場の中央にある噴水の横で『狩り』をしていたトウタが僕に注意を促した。

 声のした方に視線を送ると、トウタの獲物——L字型の鉄梃バールが、街灯の光を浴びて赤黒く輝いていた。

 トウタはアレで既に三体の火星人の息の根を止めていた。

 街灯の近くにある監視カメラは故障中だった。『協力者』の破壊工作だ。おかげで、この夜の『狩り』が記録に残ることはない。

「……行ったようだな」

 通行人は駅の反対方向に歩いていった。僕はその後ろ姿を黙って見送る。やがて、通行人は夜の闇に飲み込まれ消えた。

「なぁ、今日はもう終わりにしようぜ」

 ナイロン糸で獲物の首を締めあげながら、ユキツグが言った。

 薄汚れたおばさんの姿に擬態した侵略者の顔が、蒼色から紫色に変わっていく。口の端で唾が泡になっていた。

 おばさん型の火星人は、少しの間抵抗する素振りを見せたけど、すぐに動かなくなった。ユキツグが死体を乱暴に放り投げる。体の大きな彼には簡単な作業だった。

「えー、まだ殺し狩り足りないよ!」

 僕は不満の声を漏らす。

 人間に化けた宇宙からの侵略者インベーダーは、まだまだ沢山いる。

 この惑星ほし守護まもるために、もっと火星人を殺さなくちゃ。

 あいつらは人間社会に潜り込み、様々な手段で地球を我が物にしようと企んでいるんだ。

「今日はもう五体やったからいいだろ。続きは明日だ」

 たしなめるようなトウタの声。

 ユキツグも早く帰りたそうだ。そういえば、明日は部活の朝練があるとか言ってたな。

「分かったよ。今夜はこれで終わりにしよう」

 火星人の死体×10(内訳は僕が五体、トウタが三体、ユキツグが二体)を適当な物陰に運んで撤収する。足がはみ出してるけど、まぁいいか。日本の警察は優秀だ。どうせ、最後には発見されるから関係ないや。死体を隠すのは時間稼ぎみたいなものだし。

 異星からやって来た侵略者は、死んだあとも正体を現さない。擬態が完璧過ぎて、本来の自分の姿を忘れてしまったようだ。故郷ふるさとから遠く離れた場所で、目的のために何か大切なモノを手放した存在。僕は火星人のことを少しだけ可哀想だと感じる。でも、情けは無用だ。あいつらはじーちゃんの仇なのだから。

 だけど、じーちゃんの意志は僕と仲間達が受け継いだ。火は消さない。この惑星の平和は僕達が守護るんだ。

 僕の名前はエイジ。地球は、狙われている。

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