第129話 幸せの時間 愛

 各ダンジョン砦は戦争の拠点から支援の拠点に変更された。地下にはちょっとした入院施設のある病院が設けられた。医者として定期的に訪れて患者の治療と後進の医者の指導をする。ここでは低額で治療が受けれる。生活に困っている者はアルカディア国に申請すれば無料で治療を受ける事が可能だ。


 やっと釣りをして畑を耕す生活に戻る事が出来る


 ファリスに王を辞めると言ったがまだしばらくは名前だけでも残して欲しいと頼まれた。


 別に王としてやる事も無いような気もするんだけどな



 今日もとても早く目が覚めた


 ルナと一緒に海へ釣りに行く


 なぜか既に大勢の釣り人がいた


 まだ釣りブームは続いていたのかな


 空いている所で竿を出すとすぐに中々の鯛が釣れた


 ルナもすぐに大きな鯛を釣り上げた


 ルナの方が大物を釣る才能があるみたいだ……


 村に戻ると大勢の人が集まって料理の準備をしている


 釣れた魚をアオイに渡して活き造りにしてもらう


 今日は東の国から最高の調味料が入っているそうだ


 貿易が盛んになり各地の名産品がアルカディアでも手に入る様になってきた


 ルナはなぜか緊張をしている


 聞いても教えてくれない


 昼食は隣国の王との会食となった


 その後 2人だけで話す時間をもらえた


「アルカディア国は本当に素晴らしい国だな。学ぶ所が山の様にあるよ」


「貴国の支援があったからこそですよ」


「以前……錬金術の話をしたのを覚えているかい?」


「勿論です」


「どうだい? 石を金にする方法は見つかったかな?」



 究極の錬金術だ



「見つかりませんね」


 そんな物が本当にあるのだろうか?


 あっても何の意味も無い気がする


 だけど……


「豆粒を光り輝く星にする方法は見つけましたよ」


「……やはり私の目に狂いは無かったな。君は思った通り、いやそれ以上の錬金術師になった。まさしく究極の錬金術だな。しっかり学ばせてもらうよ」


「ええ、これからもお互いに民の為に頑張りましょう」


 王と固い握手を交わした。




 ルナが純白のドレスを着ている


 俺もちょっとよそ向けの服を着せられた


 王様っぽい衣装だけは辞退させてもらった


 村長が2人に葡萄酒を注いでくれた


 この葡萄酒を飲むのは2度目だな


 もう一度 飲んでみたいと思っていたんだ


 ルナが生まれた年に作られた葡萄酒


 静かにグラスを合わせて乾杯する


 2人で一緒に葡萄酒を味わう


 素晴らしい味だ……


「ルナ、この葡萄酒を表現してみなさい」


 ルナが緊張を深めたのが伝わってくる


 ルナはもう一度、葡萄酒を口に含んだ……


「……望まない道でも……必死に前へ進んだのを感じるわ。迷い、苦しみ、悲しみ、全てを乗り越えて未来に伝えようとしたんだわ……ああ……これは、そう……まるでナックのような葡萄酒だわ。小さな村でみんなの幸せを求めて歩み続けたアルカディアそのものだわ」


 ルナが感動して涙を流している……


「私にもこの葡萄酒の味が分かる……」


「いいでしょう。家出娘の婚姻を認めます。ようやくナックの妃に相応しくなったようです」


 んん? まだ認められてなかったのか!


 ルナが顔を真っ赤にしている!!


「今年の葡萄酒は豊かな実りのおかげで最高の味です。飲めるだけ飲みましょう。私も飲ませてもらいます」


 村長もとても嬉しいそうだ。

 多くのアルカディア村民に囲まれて笑顔で話をしている。


 今年の葡萄酒も飲ませてもらう。


 まだ若い感じもするけどフレッシュでとても美味しい。


「私はこっちの味の方が好きだわ」


 味は確かにはこちらの方が美味しい


 ほとんどの人がルナと同じ意見だろう


 しかし……


 ルナは俺のような葡萄酒と言ったが


 俺は全く違う感想を持った……


 まだグラスに残っているルナが生まれた年の葡萄酒と今年の葡萄酒を飲み比べてみる。


「ナックの感想を聞かせて?」


「こうやって飲み比べるとよく分かる……積み重ねてきた事を伝える事の大切さが。今年の葡萄酒は確かに素晴らしい出来だね。比べてしまうとルナの生まれた年の葡萄酒は劣ってしまう様に感じる」


ルナも俺と同じ様に2種類の葡萄酒を飲み比べた。


 そして何かに気づいたようだ。


「この葡萄酒は愛だ……これには娘達を想う気持ちが溢れるほど詰まっている。苦しみに立ち向かい、幸せを願って作られたのを感じる……君達に伝えたいんだ。苦しい時でも前を向いて進まなけれならないと。その先に本当に大切なものがあるという事を」


 ルナが立ち上がって村長へ駆け寄っていく。


 母親に抱きついて泣き出してしまった。


「あらあら、困った子ね」


 すっかり母の顔になった村長が娘をそっと抱き寄せた。

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