第122話 狙い

 サボる天才ジェロに魔法部隊について相談に行く。


「おーい、ジェロ」


 ジェロはまだ厨房で何かやっている。


「ん? ナックか? どうした?」


「ちょっと魔法部隊の魔力切れ対策を考えてくれ」


 事情を説明してジェロの謹慎処分を仮撤回する。


「上手くいったら本当に謹慎解除してやるよ」


「俺は別にずっと謹慎でもいいぜ」


 ジェロに任せれば文句を言いながらでもやってくれる。


 一緒に城壁に上がって状況を説明していく。


「上は暑いな……ずっと地下にいたから結構キツいぜ」


「日差しを遮る物でも設置するか……」


「水飲み場も欲しいぜ」


「いっそ簡易休憩所を数カ所作った方がいいな」


 ジェロはいろんな所を見て回っている。


「話は聞いていたがやはり自分の目で見ると違うな」


「何か気づいた事があるのか?」


 ジェロはアンデッドで埋め尽くされた東ではなく西を見ている。


「俺達は完全に東しか見ていないな」


 それはそうだろう。


 アンデッドの大軍が目の前にいるんだ。


「でも西にもまだ敵はいるぜ? 西側は無防備すぎだ」


 確かにそうだが……東の王は西に居る。


「今は東側に集中するしかないだろう?」


 今度は東側に移動してジッと見ている。


「全く戦い方を変えてこないな……気持ち悪いぜ」


「指揮官が馬鹿みたいだな」


「馬鹿のフリをしていたとしたらヤバイな……」


 そんな事があるのか? アストレーアでさえそんな心配はしていない。


「ビッケ隊を西へ偵察に出せ」


 ジェロの勘はまずハズレない……


「分かった。すぐに手配する。他には?」


「戦い方は手堅くて良いな。城壁の上は安全だから快適な環境を作れば魔法使いも魔力の回復量が上がるんじゃないか」


 ジェロはさらに遠くの方を眺めている


「出来たら東の国側にも砦が欲しいな。そうすれば挟み打ちにする事が出来るぜ」


 挟み打ちか……


「もし今、西から東の国の王に攻められたら……」


「まぁただではすまんな」


 アンデッドの大軍と東の王の軍からの挟撃


 大打撃……もしくは全滅まであるな

 

 ジェロは又、西側に行って遠くを見つめている。余程気になるらしい。


「ここが本命とは限らないぜ」


 他の場所? どこだ?


「アルカディア……いや! 王都か!!」


「ここは俺が指揮してもいいぜ? どうせ動けない。少数精鋭部隊を派遣した方がいいかもしれないぞ」


 こちらはギリギリでやっている。派遣出来るとしたらほんのわずかな人員だけだ。


「カナデとヒナが特大魔法の準備にアルカディアへ戻っている。すぐに戻ると思うがそれからだな」


「特大魔法か……いい作戦だ。セレスだけは残してくれ。それ以外は西へ行った方がいいぜ。お前は急いで聖水とポーションを作るんだ。ファリスちゃんとアストレーアには俺から話す」


 ビッケに偵察を依頼してから、すぐに地下へ戻って作業を再開した。


 最初からこういう予定だったのか?


 いや……それは無いな


 フグミンがアンデッド軍と交戦して進行を遅らせたから予定が狂ったはずだ。


 恐らく東の王はアンデッド軍を引き連れて王都を襲撃するつもりだったのだろう。

 しかし、アルカディア軍に阻まれて予定を変え、単独で王都を攻めるつもりなのか……


かなりの戦力がないと王都の攻略は出来ないだろう


 必要としていたアンデッド軍が来ない以上、十分な戦力があるとはいえない。


 だが……


 敵の立場で考えてみると……


 着実にアストレーア軍とアルカディア軍が北上してきて、長城の次の目標は王の居城。城の周囲を包囲すれば兵糧攻めも可能だ。


 籠城しても先は無いし、出撃しても勝ち目は薄い


 主力のアストレーア軍がいない王都への奇襲攻撃


 それに活路を求めるのもありそうだ。



 ジェロがファリス、アストレーアとの会議を終えてこちらにきた。


「アストレーアは偵察隊を既に敵の拠点に送っていたぜ」


「さすがだな……では問題ないのか?」


「いや、大問題だぜ……」


 ジェロが近づいて来て俺の耳元で囁いた。


「偵察隊が買収されているかもしれないそうだ」


 なんだって!


「かなり改革は進んだそうだが未だに汚職や裏切りは多いらしいぜ」


「まだ足の引っ張り合いをしているのか……」


「改革を良く思わない連中は必ずいるからな」


 王都の守りは堅いはずだが中にも敵がいるなら危険だ。


「思った以上に深刻なのかもしれないな」


「王都に行った時に聞いた話だが、今の王はダンジョンを使えない無能な王と言われていたからな」


「ダンジョンに頼らないようにしているんだな」


 ダンジョンは国を枯らしてしまう。本当は無い方がいい。


「いや、王都にはダンジョンが本当に無いそうだぜ。作れないんじゃないか?」


 そんなはずは無い。錬金術ギルドの所長だった人だぞ? 俺に錬金術を学ばせてくれた人でもある。


「あの人は間違いなくトップレベルの人だ。ダンジョンも研究していると思うぞ。作れないなんてあり得ない」


「そうか……王都以外の所でもダンジョンの撤廃・縮小政策がかなりの反感を買っていた。この政策のせいで反乱も起きたそうだぜ」


「俺は素晴らしい政策だと思う。それだけでも彼が名君だと分かる。ただ理解を得るのは大変だろうな」


 便利な物に慣れてしまうと戻るのは難しい


 厳しい道のりになるのが分かっていて


 それでも断行したんだ


 得難い主君だ


「彼を失うわけにはいかない。必ず守らなければ」


「他国の王だぜ?自分で何とかすればいいだろう」


「いや、アルカディア国は彼のおかげ出来た国だ。今まで多くの支援をしてもらったんだ」


「そうなのか……その辺の事は知らなかったぜ」


 受けた恩に報いなければならない

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