第123話 義
ビッケ隊が偵察から戻ってきた。作戦会議室に隊長達とアストレーアが集まっている。さすがに今回は俺も参加する。
「東の王の居城は外から見ると旗がいっぱい立っているけど中身はスカスカだったよ」
「なんて事だ……空城か!?」
「うーん、敵は少ないけどいたよ。あれじゃあ外から偵察するだけじゃあ分からないねー」
「え? ビッケ君は城の中に入って見てきたの?」
アストレーアが驚いてビッケを見ている。
「アストレーアさん、ビッケはマスターアサシンです。ビッケなら侵入は可能です」
「何ですって!マスターアサシン……そんな……」
今はジョブなんてどうでもいい。
「敵軍は王都に向けて進軍中で防衛線を次々に突破してるけど、まだ王都までは時間がかかるねー」
アストレーアが地図を広げて、そこにビッケが敵の駒を置いた。
王都まで半分も進んでいないな
「アルカディア軍と同じ様にダンジョンを作って地下を進軍したのかもしれないな。それなら偵察隊にも見つからない」
問題は敵の数だな。
「敵は3つに分かれていて、それぞれ城壁の前にいたくらいの数かなー」
「おいおい……」
大軍じゃないか! みんな黙ってしまった……
「想定内です。王には策を2つ授けてあります」
アストレーアはこの事態を予測していたのか!
「ここに南北に流れる大きな河川があります。そこで防衛線を引いて守る策。王都に籠城する策。この2つです」
「先に仰った方を私なら選びます」
ファリスは迷わずに防衛線を引いて守る策を選んだ。
「俺もそっちだぜ」
ジェロも同じらしい。
「どちらも変わらない様な気がするな……」
なぜそっちを選ぶのかさっぱり分からない。
「この防衛線の後ろは穀倉地帯です。ここを抜かれて穀倉地帯を荒らされると食料を失い、来年は多くの人が飢え死にしてしまいます」
王都に行く時に見たあの金色に実る穀倉地帯か!
「あそこを魔物に踏み荒らされたら……来年だけでなくしばらく大変だぞ!」
「王はもちろんその事も分かっています。ただ、兵士達は王都での防衛の方が安全です……」
「お偉いさんは籠城を主張するぜ」
そうかもしれないが、籠城では穀倉地帯に暮らす人達は死んでしまうじゃないか!
豊かに実った金色の穂を思い浮かべる
そこに注ぎ込まれた人々の労力を想う
そこで暮らす人々を思い描く
「絶対に助けなければ!」
「この防衛線なら十分に対抗出来ます。王都から出撃してくれればですが……」
権力がある者達は飢える心配など無いのだろう。苦しむのはいつも下の者達だ。
「敵は王都を取るつもりで出撃してるから、居城と占領された町や村に兵力は残していないぜ。奪還して退路を断つんだな」
「それは遅れている私の軍でやります。上手くいけば王都の軍と挟撃出来ます」
南にいるアストレーア軍には十分な兵力がある。
「敵の数は多いけど中身は今までと一緒だよ。先陣はゴブリン、次にオーク、その後ろにオーガ、トロールだねー」
「周辺の諸侯からの援軍はないのか?」
ザッジは地図に書かれている城を指差してアストレーアに尋ねた。
周りにはいくつも城がある
「当然、援軍要請は出ていると思いますが……応じるものはわずかでしょう。皆、籠城の一手です」
「籠城した所は無視して進軍するでしょうね。ある意味、敵に協力している様なものです」
ファリスが表情を曇らせて地図を見ている。
「魔物の軍に直接、手を貸す様な諸侯はいないと思いますが裏で東の王と繋がっている可能性はあります……」
アストレーアも苦しそうだ。
皆で団結して防衛線を死守すればこんなに敵軍は進軍していないんじゃないか?
敵は当然、村々で略奪しながら進軍しているだろう。
多くの人達が苦しんでいるんだぞ
それを防ぐのが上に立つ者達の役割じゃないか!
税を取り立て、兵士を徴兵して、いざという時に動かないのでは何の意味もないじゃないか。
「久しぶりにアレをゴブリンに仕掛けるか……進軍を遅らせる事が出来るかもしれない」
「僕の隊でやるよ。ここでは活躍出来ないからさー」
ビッケ隊は動き回ってこそ真価を発揮する。長城には物資が続々と集まっている。ここからでも出来る事はあるぞ。
「アルカディアは同盟国に援軍を出す! アストレーアさんの考えた防衛線付近で敵を迎え撃つぞ。ファリス、部隊の編成を頼む。俺も出る!」
「了解しました。長城の防衛はジェロさんに任せて、私は援軍の指揮を担当します。物資等の補給担当は第3ダンジョン砦にいるデミールさんに任せます」
「ナック様……王に代わり感謝致します。私は王都へ向かい王に出陣を促します」
アストレーアが行けば軍も動くかもしれないな
アンデッド軍と違って大軍とはいえ敵は数が限られている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます