第116話 ドラゴン級

フグミンが長城の東側で孤軍奮闘しているらしい。


 フグミン! やっぱり来てくれたか!


 長城内に味方がどんどん入っていく。次第に城壁の上からの攻撃が少なくなってきた。


「よし! みんな城に入って城壁へ登るんだ!」


 歩兵隊と弓隊を城内に誘導する。移動式矢倉だけは残って城壁の上を攻撃している。矢倉にいるのは弓の名手ばかりだから敵味方が入り乱れても外す心配は無い。


 みんな中に入ったところで東門へ急ぐ。長いトンネルを通って東側に行く。兵士達の多くは城壁の上に行ったようだ。騎兵隊がアンデッド軍に対して突撃態勢を整えていた。


「待て! じきに上は片付く! 城門を閉じるんだ!」


「しかしフグミンが!!」


 ぐっ……そうか……


「俺がフグミンを迎えに行く!」


 フグミンの元に急行したが……


 間違いなくフグミンなのだが驚くほど巨大化している!


 これでは城門を通る事が出来ないぞ!


 ドラゴン級に太っているじゃないか!


 フグミンはアンデッドの大軍に囲まれながら少しずつ後退しているようだ。


「フグミン! 退却してくれ! みんな城にいる!」


 とにかくここでは城から離れてすぎで矢も届かない。フグミンは毒攻撃が主体だ。アンデッドは毒耐性が高いから苦手な相手だろう。

 東にいるアンデッドの大軍は西側で倒した魔物の数倍の数だ。


 文字通りの大軍だ!


「ナック! 戻れ! お前には仕事がある!!」


 ザッジの声が聞こえた。


「フグミン! 退却だぞ!!」


 フグミンに俺の声は届いているはずだが、ゆっくりズルズル下がるだけで急いでいる感じはしない。


 まさか……


 あれで急いでいるのか?


 太りすぎだぞ!!


 長城に駆け寄るとルナが白い竜を従えて待っていた。そして、設計図を俺に手渡した。


「これでダンジョンと長城を繋いで! 補給が無ければ負けてしまうわ!」


「分かった!」


 竜の背に乗りアルカディア村に向けて飛びたった!


 まだ城壁では戦いが継続しているようだが、アルカディア村に着く頃には間違いなく掌握しているだろう。


 竜が猛スピードでアルカディア村へ向かっている


 ちゃんと人が乗れる様に鞍が装着されてはいるが、物凄い風圧なので必死にしがみつく。景色なんて見る余裕は全く無い。


 どれくらいの時間、飛行したのか分からないがアルカディア村の中央広場に降りた。


 魔石に設計図を読み込ませる

 

 スッと設計図が吸い込まれた


 長城を掌握した証だ


 少しホッとしたが急いで戻らなければ!


 ルナの竜は対アンデッドの主戦力なんだ


 中央広場に大勢の人が集まって白い竜を見ていた。竜の隣りには村長がいた。


 今は説明している余裕が無いのだが……


「ナック、コレを持って行きなさい」


 リュックサックを手渡された。ズッシリしているので中に何か入っているようだ。


「中には希少な薬が入ってます。自由に使いなさい」


 それだけ言って村長は帰っていった。


「ありがとうございます」


 リュックサックを背負い、長城に向けて飛びたった。


 今頃、第3ダンジョン砦から長城に物資が運ばれているはずだ。アンデッド対策は十分にしてある。


 長城を掌握した事でそれがさらに活きるはずだ


 聖属性を付与した矢を大量に準備しておいたのだ


 竜は長城の西側に降りた。こちら側なら安全に降りる事が出来る。


「ナック兄! すぐに来て!」


 ビッケが迎えに来てくれたが慌てているようだ。


「どうした?」


 ビッケの後ろを走ってついて行く。


「ファリスが倒れちゃったんだよ……」


 ぐっ……無茶ばかりするからだ


「無理して飛竜を何体も召喚するから……」


 ルナの竜以外はファリスの召喚か!


 なんて事を……


 ミミズで地面を掘り続けて、さらに複数の竜を召喚するとは無理にも程があるぞ!


 長城の地下には第3ダンジョン砦と全く同じ間取りの砦があった。恐らく同じ設計だろう。

 診察室のベットにファリスが寝かされている。他にも怪我人が大勢運びこまれていて、セレス隊が駆け回っている。


 まずはファリスの診察をする


 脈はある


 生きてはいるが……


「治癒魔法は試したのか?」


 隣りでオロオロしているビッケに聞く。


「魔法も薬も試したけど全然効かないんだよー」


 深刻なレベルの魔力切れだな……


 どうする……


 そうだ! 


 村長から薬をもらったばかりじゃないか!


 リュックサックの中から薬を取り出す。村長からの手紙も入っていてどの薬をどんな時に使うか、何個あるかまで書いてあった。


 ハイエリクサー 瀕死時 1個


 エリクサー 重傷時 2個


 ハイエーテル 深刻な魔力切れ 1個


 エーテル 魔力切れ 2個


「ハイエーテルだ! これを飲ませてくれ!」


 ビッケに薬を手渡した。


「ナック兄! 意識が朦朧としていて薬が飲めないんだよー かけるんじゃダメかな?」


「駄目だ! 掛けるより服用した方が効果が遥かに高い! どんな方法でもいいからとにかく飲ませるんだ!」


 ファリスの治療方法はこれしかない。ビッケに薬を飲ませるのは任せて他の怪我人の治療に当たる。


「セレス! 戻ったからこっちにも怪我人を回してくれ!」


「助かるわ!」


 今までとは比べものにならない数の怪我人だ


 1人の命も失うわけにはいかない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る