第117話 フタ

 次々に運び込まれる負傷者の手当てをする。数名の治療を終えると次第に怪我の程度が軽くなってきた。しっかりと怪我の状況を確認し、重い者から順番に治療しているようだ。


「セレス、ここは落ち着いたみたいだから君は戻ってくれ」


「ええ! 任せたわ!」


 セレスは対アンデットの重要な戦力だ。


「ナック兄! ファリスが気がついたから僕も行くよ!」


「ああ、いや! 待ってくれ! 状況を教えてくれ!」


 外がどうなっているのか心配だ。


「扉が壊れていて閉めれなかったからフグミンが塞いでくれたんだよ」


「何だって! フグミンは大丈夫なのか?」


「うん! 強くなったからびくともしないってさー」


 ビッケに状況説明をしてもらった。今のところ何とか敵の攻撃を防いでいるみたいだ。

 

「ファリスを怒らないでねー」


 ビッケは走っていった。いくらビッケの頼みでもそれは無理だな。


 ファリスは厳重注意だ!


 あとはアイツだ!


「誰かジェロを呼んでくれ!」


 しばらく待つとジェロがやって来た。


「何だ? 俺は何とも無いぜ?」


「嘘をつくな! みんな聞いてくれ! ジェロとファリスはしばらく謹慎処分だ! 地下から出るのを禁止とする!」


「やれやれだぜ……」


 ジェロは諦めてベットに横になった。


「自分で薬を使って誤魔化しているな? どう考えても傷口が開いて出血しているはずだ」


 ジェロに造血薬を渡しておく。


「本当に危ないと思った時だけ動け! それ以外は絶対安静だ」


「もう夜になるぜ? アンデッドは夜の方が強いぞ?」


「ここは落ち着いた……俺も戦いに行く」


「ファリスちゃんはまだか……ナック、攻城兵器を城壁の上に運ぶんだ」


 なるほど。そうすれば遠くの敵を楽に攻撃出来るな。


「フグミンが城門にフタをしているが、隙間を作ってもらえば自由に行き来が出来るかもしれないぜ」


 大きな扉を開け閉めしないでいいって事は便利かもしれないな……自在に奇襲攻撃が可能だ。


「ヤツらは屍を足場にして城壁を登ろうとしているぜ」


 そんな方法で登ってくるのか……


「よし! 魔法で吹っ飛ばす!」


「そうだ、それでいいが……魔力切れに気をつけろ……」


 ジェロはそれだけ言って寝てしまった。かなり無理していたな。緊張が切れて疲労が表に出てきたようだな。


 城壁に上がって指揮しているザッジにジェロの話を伝えた。


「なるほどな……すぐに実行するぞ!」


 ザッジから次々に指示が飛ぶ!


 俺は城壁の東側に移動して下の様子を見る。


 本当にフグミンが長城への入り口にフタをしている。おかしな光景だが……


 もしフグミンがいなかったらアンデッドの大軍が城内に侵入して大変な事になっていた。


 アルカディア軍は全滅していたかもしれない


 数カ所でかなり上の方までアンデッドが迫っていた


 急行して魔法を打ち込む!


 狙いは下の土台部分だ!


「魔法が使える者は敵の下の土台を崩せ! 登らせるな!」


 崩しても崩しても敵は登ろうとしてくる。


 敵は無数にいる


 アルカディア軍は横に広がって分散している


 激戦後に休む間も無く防衛戦に移行している


 厳しい戦いだな……


 日が完全に沈んで夜になった


 ジェロの言う通り 敵はさらに勢いが増している


 これでは休む事が不可能だ


 援軍が必要だ!


 ステラを探してアストレーア軍に援軍要請をしてもらう


「ステラ、このままでは耐えれない! 援軍を連れて来てくれ!」


「はい! 私もそう思ってました! すぐに行きます!」


 アストレーアは必ず援軍を送ってくれるはずだ。


「魔法使いは早めに交代するんだ! 無理をすると回復も遅くなるぞ!」


 怖いのは魔法使いが一斉に魔力切れになる事だ


 建設部隊が攻城兵器を設置し始めた。ルナが竜を使って運んでいる様だ。


「火球を下に落として魔法使いを休ませるんだ!」


 俺はまだまだ魔力がある! みんなに声をかけながら魔法を次々と放つ!


「ナック! ここは任せる! 俺はセレスと出撃する!」


 ザッジは下で戦うようだな。その方が力が発揮出来る。


「了解した!」


「ナック兄! 僕も下に行くよ!」

「分かった!」


 ビッケもここよりも下の方がいい。


「みんな! 城門から味方が出撃するぞ! 注意しろ!」


 城壁の上を走り、魔法を放ちながらみんなに指示をする!


 設置が終わった攻城兵器から火球が放たれた!


 かなり遠くに着弾しているが見渡す限り敵で埋まっているのでとにかく打てばいい。絶対に当たる。


「どんどん火球を放て!」


 矢弾の補給必要だな……


「セレス隊! 第1、第2ダンジョン砦に矢弾の補給要請をしてくれ! 全部持ってくるんだ!」


 何日戦いが続くのか分からない。今から手を打っておく。中央に戻って全体をよく見て危ない所に急行して助ける。


 馬が欲しいな……城壁の上は広いから馬を使う事も十分可能だ。


「馬を城壁に上げてくれ! 魔法使いは馬に乗って移動するんだ!」


 自分で走って移動するより体力が温存出来る。


 すぐに馬が連れられてきた。馬に乗って北に南に駆け回り、魔法を打ち込む!


 かなり楽になったぞ!


 他の魔法使い達も俺の真似をして馬に乗っている。


 必死に交戦しているものの少しだけ落ち着いてきた。


 俺が魔法を打てばその分みんな楽になる!


 打って、打って、打ちまくる!


「ナック! 私達も下に行くわ!」


 カナデとヒナが下に降りて行った。


「私達も行きます!」


 ミンシア達も続いて降りて行く。


 下ではザッジ、ビッケ、クレア、ミルズ、アオイがセレスを囲んで戦っていた。

 

 城壁の上には隊長はいない。俺が頑張るしかない。


「みんな! 少しずつポーションを飲むんだ! 体力を回復させろ!」

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