第113話 総力戦

 夜になった。敵軍が攻めてくる気配は無い。


 アルカディア軍の砦ではセレス隊が駆け回っている。負傷した者の治療に追われているのだ。

 もちろん俺も医者として全力で治療に当たる。


「死傷者こそいないけど、さすがに怪我人が多いわね」


 セレスが中心になって治癒魔法による治療をする。そして、さらに俺が薬を使って治療する。


「負傷者や消耗が激しい者は地下で休んでくれ」


 地下は涼しくて環境がいい。ベットも大量に準備してあるので問題無い。


 鍛治施設ではアオイが破損した武器と防具の修復している。さっきまで激しい戦いをしていたのに……


「アオイ、明日は戦いに出ずに休んでくれ」


「了解、無理は禁物でしょ」


「ああ、そうだ」


 1戦で片付かないのだから無理出来ない。


「みんな! しっかり食事をして体を休めるんだぞ!」


 食べるのも忘れてはいけない。食事を取らなければいずれ力が落ちてしまう。

 タフな者は肉を食べればいいし、食欲のない者にはスープを用意してある。

 作戦会議室では隊長達が会議をしている。俺は参加してもしょうがないので治療の手助けをしながらとにかくみんなに声をかけていく。


「よく頑張った! ポーションを使った者は必ず補充するんだ! 勿体無いなんて考えるな! 命の方が大事だ!」


 大量に薬は準備してあり自由に持っていく事が出来る。必ず各自で薬を携帯する様に指示してある。


「眠れない者は言ってくれ! 薬を処方するからな!」


 戦いの後は興奮して眠れなくなる事がある。沈静効果のある漢方薬や睡眠薬を使った方がいい場合もある。眠らなければ疲労は回復出来ない。


 セレス隊は治療だけではなく、食事の準備や片付け等、砦の運営に関する事を全部を担っている。馬の世話までしてくれているのだ。


 全力で戦った者達は何も気にする事無く休憩出来る


 直接戦う者だけが戦っているのでない


 サポートする者達も必死に戦っているんだ


 矢倉にはルナ隊が詰めている。外に出ていないルナ隊が夜の見張りについてくれている。


 時々、火矢を放って砦周辺に山積みになっている魔物の屍を焼却している。


「敵は大損害を受けたから今日は襲って来ないかもしれないが十分に警戒してくれ」


「はい! 動く物には迷わずに矢を放っています」


 焼却の炎が明かりになって敵が来れば目視が可能だ。ファリスによるとわざと負けて退却し、勝って喜び浮かれた敵に夜襲を仕掛ける兵法があるそうだが……


 敵にはそんな軍略は無いみたいだな


 もし軍略があったとしても意味がないしな


 アルカディア軍は勝っても全く浮かれていない


 次に向けて着々と準備をしている


 警戒も万全だ


 

 翌朝、毎日やる事にしている剣の型をやっているとビッケ隊が偵察から戻ってきた。


「どうだい? 敵の様子は?」


「長城前に陣取って動くつもりは無いみたいだねー」


 やはりそうきたか……


 敵陣に近づくと長城から遠隔攻撃を受ける


 敵は援軍の到着を待ってから動けばいい


「昨日減らした敵は3分の1くらいだねー」


「そうか……予定よりは多いがまずまずといったところか」


 ビッケは地下に降りて作戦会議室に向かった。


 今日はアルカディアの技術力が試される日だ。砦の中には幾つもの攻城兵器が準備されている。敵は反撃を恐れてこちらに向かって来ないはずだ。そこを攻城兵器で遠隔攻撃する予定なのだ。


 アルカディアの建築技術は攻城兵器にも活かされている


 驚く程の飛距離を出す事が出来るのだ


 攻城兵器をけん引するのは足の早い軍馬では無い。アルカディア村に多くいた力の強い農耕馬だ。

 血統学を導入した事により軍馬の足は早くなり、農耕馬の力はさらに強くなった。


 村の建築を頑張ってくれた建築部隊が技術を結集して作り上げた渾身の攻城兵器だ。それを各村で大事に育て上げた農耕馬がけん引してくれる。軍馬なら5、6頭いないと動かせない兵器を2頭で動かしてくれる。


 まさにアルカディア国は全員で戦っているんだ


 矢倉にはヒナ隊が詰めていた。早朝にルナ隊と交代してルナ隊は仮眠を取っているそうだ。


 攻城兵器の移動には時間がかかるのでジェロ隊を先頭にゆっくりと出撃していく。続いて農耕馬が攻城兵器をけん引していく。馬を操っているのは建築部隊だ。

 次にヒナ隊が出て、さらに仮眠を終えたルナ隊が続く。ヒナ隊とルナ隊は移動式の矢倉を農耕馬にけん引させていた。

 最後にビッケ隊と各隊から選ばれた少数の精鋭部隊が出撃した。俺はここに入れてもらった。ザッジの姿もある。

 ザッジ隊とクレア隊は激戦後なので休養だ。砦の防衛についてもらう。


 最後尾をザッジと2人で馬を並べてゆっくり歩く


「ナック、今日は遠隔攻撃中心だから出番は無いかもしれないぞ」


 いくら軍略に疎い自分でも陣容を見ればそれ位は分かる。


「昨日の突撃は見事だったな」


「もっと暴れたかったが戦略があるからな」


「あれだけ暴れれば十分だろう」


「本番はまだ先だぞ? あれは準備運動みたいなものだ」


 敵の防衛線を滅茶苦茶に崩しておいて準備運動か……


 ザッジは長城の方を見つめている。


「今日は風が無いな……昨日みたいな風があれば有利なんだが」


 ザッジの言う通り、今日は全くの無風だ。こればかりは天運だから仕方ない。攻城兵器の飛距離は十分らしいから風が無くても大丈夫だろう。どちらかと言えば矢の飛距離が問題かもしれないな。敵が近づいて兵器を壊される心配がある。


 敵が接近してきた時の為に精鋭部隊がいる


 絶対に兵器には近づけないつもりだ

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