ど田舎村のアルカディア 〜スローライフで最強国家作っちゃいました〜

第109話 集結

東の国との境にある長城が遠方に小さく見える。ダンジョンの延伸は限界に達していた。これ以上、ダンジョンを延伸するには長城を支配下に入れなければならない。

　最前線の砦として第３ダンジョン砦を作成した。これまで南北に連なる山脈の地下にダンジョンを築いてきたが、第３ダンジョン砦は地下だけではなく地上にも大きな砦を築く。

　迅速に地上の砦を築く為に考え抜かれた方法で一気に砦を築いた。敵からしたら山の麓に大きな砦が突然現れた事になる。この地上と地下の砦を起点に長城の攻略に挑む。

　歩調を合わせていたアストレーア軍は大量の投降兵を処理する為、アルカディア軍の後方で留まっていた。しかし、投降兵から得た敵の増援情報を考慮し、アルカディア軍は一気に進行を早めて長城目前まで進軍した。

　アストレーア軍からは援軍として騎馬隊が派遣された。隊長はステラで副長はミンシアだ。以前、アルカディア村に滞在していた他の女性騎士４名も小隊長として同行していた。

「夢のようだぜ。まさか美少女騎士団が俺の隊に来てくれるとはな」

　ジェロ隊は最高に盛り上がっている。負傷して戦えないジェロの穴を埋める為、援軍は全てジェロ隊に入ってもらったのだ。ジェロ隊は自由に動き回る特殊な部隊なので機動力が重要だ。今回から歩兵を廃して、全て騎兵のみで構成した機動力特化部隊とした。

「ジェロ、馬に乗るのは許可するが戦闘は絶対に禁止だぞ」

　従軍する医者としてジェロの傷を診察してきた。ジェロは脅威的な回復をしているものの、とても戦闘には耐えれない状態だ。本来なら安静にして欲しいがしつこく許可を求めてくるのでしぶしぶ参戦を認めた。

「最高の援軍をもらったんだ。俺が戦う必要はないぜ。野郎共が張り切っているから俺の出番なんて無いだろうな」

　今まで姿を表していなかった元ジェロ隊の２人がいつに間にかジェロ隊の所属として、ステラ達の馬の世話をしている。

「アイツら今までどこにいたんだ？」

「最初からいたぜ」

　最初から？　

　全く姿を見せずに暗躍していたってことか！

「ナック、すまないが俺の時と同じ様にアイツらのジョブ鑑定をやってくれ。さすがにこれからの戦いは鑑定無しでは厳しいだろうからな」

「お前達が取って来た金色羊皮紙がまだ残っているからそれを使おう」

　アルカディア国の兵士達は全員、随時ジョブ鑑定をして上位ジョブになっているのに、元ジェロ隊の２人は鑑定無しで戦い続けていた事になる。何のジョブなのかとても気になるが、厳重に目隠しされたのでさっぱり分からなかった。

　地上の砦が敵の斥候部隊に発見されてから散発的な攻撃を受けたが、強固な砦はびくともしない。矢倉から矢を放ち、すぐに殲滅した。

「アルカディアの建設技術は凄いですね。こんな砦が瞬時に作れて、しかも日毎に強度を増してます」

　ステラ達が驚嘆して砦を見て回っている。アルカディア国は森を切り開いて発展してきた。豊富な経験があるので砦を築くのも迅速だ。砦周辺に堀が巡らされたので敵が砦に近づく事は困難だろう。

　砦の地下に設けられた作戦会議室に各隊長が集まり作戦会議をしている。そこには長城周辺の精巧な模型が置いてあった。敵の陣容や地形も細かい部分まで分かる模型だ。

「よくこんな模型が作れたな」

「ビッケ隊による偵察と情報収集の賜物ですね」

　ファリスが模型を見つめて軍略を練っている。

「魔物達はその習性からなのか森の中に陣を構えている事が多いですね。平地にあるのは大きな本陣が一つだけです」

　オークの形をした大きな木の駒が長城の前に置かれている。そして森の横には小さなオークの駒が２個置かれていた。

「やはり人と魔物は違いますね。もしこの敵が人なら無能な軍と笑われていたでしょう」

「なぜだい？　見たところ中々の陣容に思えるけどな」

　全く知識が無いので敵の陣容を見てもさっぱり分からない。他の隊長も分からないみたいだ。

「今まで砦は全て地下に作りました。それは安全で快適だからです。でも、今回の砦は地上にも作りました。それには訳があります」

　各部隊になるべく地上で活動する様に指示が出ていた。疲れた時や体調が悪い時だけ地下で休む事になっている。

「この辺は暑いからねー　暑さが苦手な魔物は森にいる事が多いよ」

　ビッケが集めた情報によると地形的に気温が上昇しやすい地域で、しかも今の時期は雨がほとんど降らないらしい。

　外の環境に慣れる為になるべく外で過ごす事にして体を適応させているのだ。

「涼しいからと森や林に陣を構えるのは愚かな事です。今のような環境で火計を用いられたら一瞬で焼けてしまいます」

　確かにそうだ。木があるから防御にも優れ、涼しくて陣を構えるのに適しているようにも思えるが全く逆だな。

「森に陣を構えた敵は私とビッケ隊で処理します。皆さんは敵本陣前に陣を構えて下さい」

「おいおい、それではあまりに人数が少ないぞ」

　ザッジ騎士団長がさすがに心配になってファリスに意見をした。みんなも同じ意見だ。

「今まで温存してきた本を使いますので心配ありません」

「軍師がそこまで自信があるならいいが無茶はするなよ」

　なるべく敵の本陣近くに陣を構えたい。本陣を破ってさらにその後ろにある長城を落とさないいけないからだ。多くの人員を中央の敵本陣に割り当てて、軍師ファリスとビッケ隊で周辺の小さな陣を落とす事になった。

「北側の部隊は僕がやるねー」

「では私は南側を殲滅します」

　んんん？　一緒にやるんじゃないのか？

「まさかファリス１人で戦うのかい？」

「はい、この程度なら私１人で十分です」

　ビッケ隊と一部の者を除いてはファリスが戦っているのを見た事が無い。かなり訓練を重ねているとは聞いていたが実力を全く知らない。あまりに当然のように言うので任せる事にしたが……

「私とビッケ隊が戦っている間に敵陣近くに陣を構えて下さい」

　ファリスがアルカディア軍の駒を大きなオークの前に置いた。北側の小さなオークの駒にビッケ隊を表す刀の駒を、南側の小さなオークの駒にファリスを表す本の駒を置いた。

「問題は長城です」