第108話 羊娘と精霊
「な!! なんて恐ろしい事を2人そろって言うのかしら! 冗談よね? オホホホ?」
「羊が何千年も生きられる訳が無い。そんな長寿の生き物なんて限られているぞ? 例えば高名な竜族とかな?」
「そうね。最初からおかしいと思っていたのよ。魔力が溢れたからといって羊が擬人化するなんてあり得ないわ。どうやったかは分からないけど精神だけ羊の中に入り込んだのね」
精霊の代表が泡の出るワインを美味しそうに飲みながら羊娘に話しかけた。
「お酒に弱いのに調子に乗って飲み過ぎたわね。もうバレバレよ。あなた達の案。とても良いわね」
「ムキーーー あんたまで乗っかってどうするのよ! 私はアルカディア国の為に日々働いているわよ。シクシク……」
「確かにダンジョンを上手く運営してくれている。だが、俺達に直接支援してくれた事は無い。あくまで中立を貫いている」
設計さえ自分達でやれば羊娘でなくても同じ事が出来る。全く人間に有利な事をしてくれた事が無い。
「わ、私はそういう存在なんだから仕方がないじゃない」
「世界を壊滅させるかもしれない存在を仕留める絶好の機会だ」
ここでコイツを片付ければ魔物との戦いを継続する意味が無くなる。今まで通り自分達の領土さえ守っていればいい。
羊娘 死んでもらうぞ!
「ヒィーーー 本気よ! 『聖竜』を殺すなんて信じられないわ。エルフ! 守護者が守らないでどうするのよ!」
「守護者? そんなの知らないわ。世界の均衡を保つ為に世界を壊滅させる聖竜は聖なる存在なのかしら? 私は私の信じる者達の為に動くわ。 伝承なんて関係ない」
ルナも決心したようだ。
「フフフ 気に入ったわ」
精霊の代表 美しい女性がルナの方へ近寄っていく。
「エルフ、あなたに私の加護を与えます。私は『闇』の精霊。私の加護があれば聖竜も倒せます」
「なっ! なにやっちゃってくれるのよ! 本当にやられちゃうじゃないの! 友達でしょ……シクシク」
「1000年前、あなたの気まぐれで精霊界は大打撃を受けました。その報いを受ける時かもしれませんね フフフ」
「ヒィーーー マスター! お願いします! 助けて下さい! 何でもしますから……シクシク」
「何でもだな?」
羊娘は激しく頷いている。よっぽど死にたくないらしい。
「ルナと契約を結べ。ルナの召喚対象になるんだ。次に戦う魔軍はアンデッド中心らしい。聖属性の竜が共に戦えば有利に事が進むはずだ」
「む、無理よ! すでにマスターと契約しているからここにいるのよ 二重契約は出来ないわ! マスターが死ぬまで私はここから動けないのよ」
「フフフ。その通りですよ。彼女は嘘を言っていません。彼女の子孫達と契約すればいいわ」
子孫がいるのか……当然といえば当然か。羊娘の外見からは子孫がいる様にはみえないが、数千年、数万年生きている古竜なら子孫も沢山いるだろうな。
「わ、分かったわよ。聖属性の子を呼ぶわ。うう……完全に想定外だわ……」
「ルナ、俺が生きている間は『聖竜』は動けない。もし俺が死にそうになったら……その時は君が判断してくれ」
「なんだか私がとても悪い存在みたいじゃないの! 私はあくまで中立よ! 善でも悪でも無いわ」
「だが、世界に干渉するのだろう?」
「暇なのよ! でもここに居れば暇じゃないからいいわ。このダンジョンがあれば何もしないわ」
コイツ……世界の均衡を保つとか大義名分を使って暇潰しで世界を崩壊させていたのか?
「フフフ アルカディア国王 あなたも面白いわね 頑固な土の精霊達が惚れ込むのも分かるわ。 今、1番の脅威は聖竜では無いわ。ここで完全に腑抜けになっているのよ? 聖竜を倒して1番喜ぶのは東から来た者。こちら側に来た目的の1つをあなた達が果たす事になるわ」
東の国の王の事を言っているのか?
「他にも目的があるんですね。それをあなたは知っている。ぜひ教えて頂けませんか?」
精霊代表の女性に尋ねた。
「フフフ まずは世界の脅威『聖竜』の討伐。類い稀なる才能を持つダンジョンマスター『アルカディア王』の討伐ね」
羊娘と俺か……
「でもそれはついで。1番の目的は別にあるのです」
「それは?」
「フフフ 内緒ね 言えないわ」
「何でです? 世界を救う為にも教えて下さい」
「言ったらつまらなくなるわ」
「はい?」
つまらないだって?
世界を救う事になるかもしれないのに?
「マスター……精霊なんてこんなものよ。暇つぶしで加護を与えたり、天変地異を起こしたりしているのよ。超〜気まぐれなのよ……私の方がマシね!」
どっちもどっちだ
これでアルカディアは精霊の加護と聖属性の竜を得た事になる。大幅な戦力アップなのは間違いない。
聖竜の精神が羊娘の中に入っていて、ある意味封印された状態である事が判明したのも大きい。俺がいる限り聖竜はダンジョンから出れない。
全ては整った
長城の決戦に挑む時だ
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