第101話 残念

 町を完全に制圧した。各地を繋ぐ要所になっていた町なので再建するそうだ。


 アルカディア軍は第2ダンジョン砦に戻り、また少しずつ北上して長城を目指す事になる。


 ジェロが極大魔法を放ち『キメラ』を倒した


 そのおかげでみんな生きている


 だが……


 ジェロは……



「ミンシアちゃん……」



「瀕死で言う事がこれだけとは……」



 第2ダンジョン砦の診察室にはあの場にいたアルカディア三大美人が来て必死の治療に当たっている。


「なんとか命は助かったわ……」


 セレスが特別な治癒を施したみたいだ。村長から蘇生魔法を貰っていたらしい。


「死んでから30秒以内にしか効果がない魔法よ。あの場に居なかったらと思うとゾッとするわ」


「セレスさん……本当にありがとうございます」


 クレアはずっと泣いていた。そしてずっと付き添いをしている。


「うーむ……」


 ジェロが目を覚ました。


「んんーーー? ここは地獄か? 夢の国に行く予定が鋼鉄の女達に囲まれているぜ……」


「ジェロさん!!」


 クレアが横になっているジェロに抱きついて泣いている。


「やれやれだぜ……」


「こっちがやれやれだぞ? そんな調子なら死ぬ事は無さそうだ。俺は仮眠を取らせてもらうよ。何かあれば呼んでくれ」


 看病するのも馬鹿らしい憎まれ口だな


 でも……


 助かってよかった……


 アイツのジョブはロードだったのか……


 サクリファイスはロード専用魔法だと村長は言っていた。


 ルナがハーブ茶を持ってきてくれた。


「ジェロは助かったみたいね」


「ああ。アイツは殺しても死なない様なヤツさ。クレア達が付き添ってくれている」


「任せておいた方が良さそうね。あの子達は『隠れジェロファン』よ」


「何だそれ? あんなのがいいのか? しかもアルカディア三大美人達が?」


「内緒よ? 特にクレアはゾッコンね。いつも危ない時にはジェロが現れて助けてくれるらしいわ。今回もそうなったみたいね」


「ジェロは気付いていないのかい?」


「全く気付いていないでしょうね……」


 残念だ……


 とても残念だぞ ジェロ……


 あんな美人のファンがいて気付いていないとは……


「アイツの勘は戦いにしか発揮されないみたいだな」


「そうみたいね……ガッカリだわ」


 ジェロの命は助かったが重傷だ。しばらく治療をしないと動く事も出来ないだろう。


 ジェロが抜けた穴は大きいぞ


「ジェロの代わりはいない。あんな勘だけで戦うヤツは他にはいないからな」


「そうね……しばらくあなたが埋めるしないわ。人材は育ってきたけど隊長クラスはまだいないと思う」


 ファリスにジェロの容体を伝える。


「絶対安静でしばらく戦線には復帰出来ないな」


「そうですか……ではビッケにジェロさんの代わりをしてもらいます。陣形を組む時だけナック様にビッケの所に入ってもらいます」


 それくらいなら出来そうだな。俺も戦闘経験は増えてきた。なんとなくだが次にどう動くか分かる感じもする。


「敵の自爆攻撃は予測していませんでした……完全に私の失策です……」


「全てを予測出来る者などいないさ。あれは俺を狙った罠だと思う。キメラは俺しか見ていなかった。俺があの場に居たから自爆したんだ」


「ナック様が最前線に出るのは危険ですね……今後は町や村のダンジョン探索には参加しないで下さい。自爆攻撃への対策を考えます」


「村長に相談した方がいいな。カナデはキメラが使った魔法を知っていた。村長から聞いていたんだろう」


 ダンジョンで魔物を増やして『負の力』を貯めて、キメラを合成して自爆攻撃をさせる。


 やり方が最悪だな……


 だが、これが戦争だ


 やり方なんて関係ない


 相手はこちら潰すつもりで戦っている


 もちろんこちらも同じだ


 誰も犠牲が出ないように戦うアルカディア軍


 全てを犠牲にしてでも滅ぼそうとする敵軍


 『正』と『負』の戦いだ


 俺が死ねばダンジョンが無くなる


 そうなるとアルカディア軍は戦いを継続出来ない


 敵は俺だけを狙ってくるかもしれないな


「敵の狙いはおそらく俺だ。それが分かれば利用する事も出来る。俺がいるのを敵に分かるようにすれば囮にも使える」


「危険ではありますが……確かにそうですね。では、計略を使います。次は東の国と王都を繋ぐ最重要の町を攻めます。当然ですが敵は最強クラスだと思われます。偵察からの情報だと指揮しているのは人間との事です」


「厄介だな……」


「はい。今までのこちらの戦いを知っている可能性があります。対策もしているでしょう。作戦会議を後日、開きますのでナック様も出席して下さい。会議の時にはビッケの隊がナック様の護衛につきます」


 護衛? そんなもの今まで居なかったし必要ないぞ?


 会議に護衛なんて必要なはずが無い……


 ファリスがこんなおかしな事を言うはずがない


 「…………」


 何だ?


 何かある……


 ファリスの方を見ると誰にも分からない様に小さく頷いた。


 スパイがいるのか?!


 ビッケの隊でスパイを泳がせているみたいだな


 計略はもう始まっていたようだ


 アルカディア国にスパイを送るのは不可能だ


 みんな家族みたいなもので顔を知らない者がいたら、すぐに分かってしまう。


 わざと泳がせてここぞという時に使う為に準備していたのか……


 みんなが積み重ねた計略だ


 俺も最高の演技しないといけないな

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