第102話 訓練

 次の大きな作戦まだ先だ。アルカディア軍これまでと同じ様にゆっくり北上を続けていた。

 かなりアルカディア国から離れてしまった。兵達にも疲労感があるみたいだ。

 ファリスの提案で水路を延伸する事にした。多くの魔物を駆除しているので魔石には全く苦労していない。


「海に進出する為に開発していた船を水路に運びます。乗るだけで村に帰れるようにしたいと思います」


「いいね。水流の他に風を起こして速度を早めよう」


「それなら漕がずに村と最前線の移動が出来ますね。かなり楽になると思います」


 最前線から第2ダンジョン砦、第1ダンジョン砦を経由して各村に船に乗っているだけで往来可能にする。


「ただ多少は地上を移動しないと治安上の問題もあります」


「避難している人達が戻って来て、自治してくれればいいんだがすぐには厳しいな」


「はい。今のところはこちらが優勢ですが勝敗が決した訳ではありません。アルカディア国でも軍が全く地上を通らないのは問題です。村々に残っている人に巡回を頼みます」


「アストレーア軍の進行はどんな感じだい?」


「こちらより遅いですね。村、町を奪還して再建しつつ確実に進んでいます」


「歩調を合わせる意味でもみんなに休息を取ってもらおう」




 ヒナの所に水路の設計図をもらい行く。ヒナと話のも久しぶりだな。


「ヒナ、設計図は出来ているかい?」


「出来ているわ。これなら移動中も休息が取れるからいいわね」


「君も村に戻っていないんだろう? 子供もいるんだし帰って休息を取ってくれよ?」 


「子供はお母様が見てくれているから心配いらないわ。お母様は孫を溺愛しているのよ。帰って来なくていいと言われたわ」


 あの村長が孫を溺愛だって? 全く想像が出来ないな。


「最近ね、村の年配の人達が昔の事を話してくれるようになってきたのよ」


「へぇ〜 あんなに口を閉ざしていたのにな」


「お母様も昔はよく笑っていたそうよ。変わってしまったのは東の国との戦争のせいらしいわ」


 笑っている村長を全く想像出来ない……


 だが……


 多くの村人を失って責任者として笑っていられるはずもない。


 もし……ジェロが死んでいたら……


 俺も笑顔を失ってしまっただろう


「村長は苦しみ続けている。俺も似たようなものだ。こんな戦いしたくもない」


「お母様は言ったわ。あなたが自分の代わりに先頭に立って戦ってくれていると。そして、私達、姉妹の代わりでもあると。私達が幼いからナックが代行しているのだと」


「君達が幼い? 立派な大人じゃないか? しっかり活躍しているんだし」


「お母様にとってはまだ赤子同然よ……あなた達の種族に置き換えるとようやく歩き出したくらいね」


 結婚して子供までいるのに赤子扱いか……


「じゃあ、まだ可愛くて仕方ない感じかい?」


「決して表には出さないけどそうらしいわ。実感は無いんだけどね」


「それなら、なおさら帰らないといけないな。君達の帰りを待っているはずだ。それにファリスもそうだけど上にいる者が休まないと下の者はもっと休めないと思うんだ」


「そうね……少しだけ戻るわ」


 アルカディア国民は真面目過ぎる。倒れるまで働かれても困る。少しくらいサボる事を覚えて欲しいくらいだ。


「あなたのおかげね。お母様も少しずつ明るくなってきたそうよ。お母様だけではないわね。村の人達がみんな明るくなったわ」


「俺は何もしてないよ。もう前向きに進む時期だったんだ。いつまでも下を向いていてはいけないだろ?」


「そうかもしれないわね……戦いが続いて疲れてくると不意にあの葡萄酒を飲みたくなる時があるわ」


「あの葡萄酒?」


「ええ。私達の結婚式の時に飲んだ葡萄酒よ」


 アレか。とても良い葡萄酒だったな。


「あの葡萄酒はもう1本あるそうよ。当然と言えば当然ね」


「ルナが結婚した時に開けるつもりと言う事か……」


「誤解しないでね? 早く結婚しろと言っている訳ではないわ。あの葡萄酒、あの時には味がよく分からなかったけど今なら少し分かるような気がするのよね……」


 もう一度あの葡萄酒を飲んだら今度は違う味に感じるような気がする。不思議な葡萄酒だった。


「平和になればまた飲めるよ。俺も楽しみだな」


「それまで飲めないという事ね。なぜそこまで自分を追い込むの?」


 上に立つ者にしか分からない苦しみだろうな。でもヒナだって自分の部隊を率いている。責任も感じているはずだ。


「アルカディア国を率いている責任がそうさせるんだよ」


「ふーん……もっと気楽に考えればいいのに。魔物に勝てばそれでいいんでしょ」


 お気楽なのは変わっていないみたいだな。


 変わらないのも大事だ


 俺は少し変わってしまったかもしれない。


「ねぇ? 時間があるならちょっと訓練しない? 一度、あなたと手合わせしてみたかったのよ」


「ん? 構わないよ。最近はいろんな人に訓練してもらっているんだ。少しでも強くなろうと思ってね」


「やっとやる気になったみたいね。加減はなしよ」


 ヒナは長い棍を手にして軽く素振りをしている。


 素振りでもよく鍛えているのが分かる。


 綺麗なんだ……無駄も無い……


「槍の技は誰かに教えてもらったのかい?」


「お母様が教えてくれたわ」


「村長は魔法使いだろ?」


「そうよ。当然杖の扱いは凄いわ。他にも剣、槍、弓、一通り出来るわよ」


 俺も素振りをして体を温める。


 ヒナと真剣に戦うなんて今まで無かったな。


 軽く打ち合ってから徐々に本気を出していく


 ヒナの動きは洗練されているな


 隙がほとんどなく流れるように動く


 長い棍の間合いが厄介だ


 あれが本当の槍ならかなりやられているな


「戦いが嫌いだったのによく鍛えてあるわね。ほとんど互角かしら?」


「いや、君の方が上みたいだな。俺も村長に教えてもらおうかな。誰かに習いたいんだ」


「たぶん無理だと思うわ。お母様の剣は細身のレイピアよ。刺突が主の剣技だわ。でも聞くだけ聞いてみるわ」


 うーん。なかなか剣技を教えてくれる人が見つからないな。ザッジはファリスと同じくらい多忙だろうしな。


 しばらくは強そうな人と訓練するしかないな


 いいコミュニケーションにもなるしな

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