第100話 友よ

 クレアが見事に巨大なオークを仕留めた。


 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!


 太鼓の音が聞こえる。アルカディア軍が防御柵を撤去し始めた。そして、陣形を変化させていく。


 ザッジ騎士団長を先頭に突撃陣形を組み始めた


 クレアがオークを討伐して上がった士気を利用して一気に町の中に突撃するみたいだ。


「ナック兄! 突撃して東から西に抜けるよー」


 早朝に放った火は鎮火している。


「ウォーーーーーーー!!!」


 最前線から物凄い気合いの雄叫びが上がった。


 ザッジが大号令を発したな。


 ビッケの部隊は突撃陣形の右側にいる。


「僕等はダンジョンの入口を探す担当だよー」


 一気に進み始めたアルカディア軍の士気は凄まじく、町の中に雪崩れ込んでいくと全く相手を寄せ付けず、一方的に魔物を駆逐していく。


 ビッケの部隊は陣形から抜けて町中の探索を開始した。


「ビッケ! ダンジョンの入口を見つけた! デカイぞ」


 捜索を開始してすぐにダンジョンの入口は発見された。大型の魔物が出入りするのだから扉も大きい。ビッケと一緒に扉を確認しに行くと……


 扉がゆっくり開き始めた……


 集まっていた兵士達が慌てて陣形を整える。


 ダンジョンの中から扉の大きさとは全く合わない小柄な男が出てきた。


 そしてなにやら呪文を唱えた……


 ダンジョンの扉が消えて無くなった。小柄の男は両手で『真っ黒な大きい魔石』を持っている。


 それを……体に押し付けて埋め込んでいく……


 男と魔石が融合してしまった……


 男を中心に真っ黒な魔力が渦巻いているのが見える。


「どう見ても敵だ! 攻撃するんだ!」


 敵は隙だらけだ! 驚いて放心状態になっている皆に攻撃の号令を出す。


「マジックボール!!」


 巨大な光球を敵に放った!!


 ボン!!


 魔法の激突音でみんなが正気に戻り、魔法と矢で遠隔攻撃を仕掛ける。


 怒涛の攻撃が敵に降り注いだ……しかし……


 敵は全くの無傷だ……


「アレはヤバイ! 応援を呼んでくれ! ビッケいくぞ!」


 ビッケと一緒に敵に斬りかかる!


 ウォーーーーーー!


 敵は雄叫びを上げその場に倒れてしまった。


 そして……


 体がどんどんと巨大化していき、人の形では無くなっていく。構わず斬りつけるが全く剣が刺さらない。


 男は醜い姿に変わり果てた。いくつもの魔物が融合したような姿に……


 合成魔物 『 キメラ 』 になってしまった。


 とても普通の魔物とは思えない。こんな物が町の外に出て暴れたら多くの死者が出てしまう。


 ここで倒すしかない!!


 盾をしっかり構えてキメラと正対する。ビッケはキメラの背後に回った。


 ヒツジ、狼、熊、ゴブリン、オーク……見るだけで吐き気がする姿だ。


 必ず弱点はある。剣が刺さらないのは狙いが悪いからだ。キメラの体に浮かび上がっている魔物の頭を狙ってみるか。


 ビッケと2人でキメラを挟み撃ちにする。


 キメラは動きを止めた……


 キメラは俺の事を観察する様にジッと見ている


 地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。見た事もない大きくて複雑な魔法陣だ……


 極大魔法を放つつもりか!?


 完全に動きを止めているので次々に攻撃を加えたが詠唱を中断する事が出来ない。


「ビッケ! 止められない! みんな逃げるんだ!」


 キメラは明確に俺をターゲットにしている。キメラの邪悪な魔法の高まりが俺にもよく分かる。


 あんな魔法を放ったら自分も死ぬだろう。最初から俺と一緒に自爆するつもりだったか!


 俺をダンジョンマスターだと認識しているのかもしれない。


「ナックさん!」


 クレアが応援に駆けつけてくれた。


「私が受けます! スキルを使えばしばらく耐えれるはずです! みんな退避よ!」


「 ナック!! 」


 カナデも来た。


「俺の事はいい! みんな逃げるんだ!」


「ここで倒すしかないわ! アレは古の禁呪よ! 止めないと町の周囲にいる人まで全滅よ!!」


 カナデは次々に魔法を放つ!!


 クレアはボロボロの体で盾を構えてキメラと向き合った!


「キュア!!!」


 セレスがクレアに回復魔法を使用した。セレスまで来てしまったか!


 一旦は退避した者もカナデの言葉を聞いて戻ってきて攻撃を開始する。


 集中して魔力を高める


 盾を地面に置き 


 剣を両手で持って剣に魔力を流し込む


 力を……


 みんなを守る力を!!


 最高の魔法をイメージする!!!


「マジックボール!!!」


 キメラに渾身の魔法を打ち込んだ!


 しかし……


 全く効いていない……



 『負の力』が極限近くまで高まっているのを感じる……


 もう止められない……


 あの魔法が発動したらみんな死んでしまう……


「やれやれだぜ……俺ならあんなの簡単に止めれるぜ?」


 ジェロが隣りに来て肩をポンと叩いた。


 いつか俺の肩を叩いた時と同じ感じがした……


「みんなクレアちゃんの後ろに隠れてな」


 ジェロは武器もなにも持たずにキメラの目の前に普通に歩いて近づいていく。


「ジェロ! 何をするつもりだ!」


 みんなで攻撃して止められない詠唱を簡単に止めれるはずがない!


 みんな疑問に思いながらもジェロの指示通りにクレアの後ろに集まった。


「それでいいぜ! クレアちゃん、スキルを発動させてみんなを守ってくれ」


 ジェロはキメラに両手向けた


 とてもいい笑顔で



『 サクリファイス 』



 ジェロの両手から極大魔法が放たれた……

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