第81話 芽生えたもの

 ウエストゲート村ではザッジが出迎えてくれた。


「西の様子はどうだい?」


「要請を受けて一緒にオークとゴブリンの駆除をするが、回数は減ってきたな。木材の支援もかなり行き届いた様だ。北側に砦が数か所完成した」


「そろそろ帰っていいんじゃないか?」


「実は実戦で訓練出来るからここは便利なんだ。ただ戦地がかなり遠くなってきている。移動に時間がかかるから騎馬隊を作ろうと思うんだ」


「足の早い馬が育ってきているはずだから騎馬隊も出来そうだな。やってみればいいよ」


 この村は若者が特に多いから新しい事に挑戦するのも前向きなはずだ。

 アルカディア村の館より大きな館が完全していた。レンガもここで作られた物を使用しているそうだ。2階は宿になっているのでそこで宿泊させてもらう事にした。


「まさか自分達の力だけでこんな立派な館を建築出来るとはな」


 内装は素朴だけどお客を迎える感じがちゃんとある。家具もしっかりしていて、王都に向かう途中の宿と比べたらこちらの方が上質なくらいだ。



「そうね。ノースフォレスト村の館もあと少しで完成するそうよ」


「となると、次は北から避難している人達の所か。まだ行った事がないな」


「港の建築予定地ね。ヒナは見て来たそうよ。とても静かな入江でほとんど海が荒れないそうね。景色も綺麗だから暮らすにも良さそうって言っていたわ」


 セントラル村から南へ道が作られている。ノースフォレスト村からウエストゲート村への道も拡張されている。ここで切り出した木材を西の領地に提供しているのだ。


「でも不思議ね。どんどん発展しているのに誰も贅沢をしないわ」


「俺は分かる気がするよ。みんな辛い思いをしてここに逃げて来た。だから2度と同じ思いをしない様に自分達で考えていると思うんだ」


「国民がみんな、便利で楽な道より厳しくて大変な道を選ぶんだから、信じられないわ。お母様もさすがに驚いていたわよ」


「そう言えば魔法の才能がある者を探してくれていたはずだね」


「ええ。各村の様子を見て探してくれたそうよ。数名は魔法使いを育ててくれるわ。でもカナデレベルの人はいなかったそうよ」


 そうだろうな。あんな魔法使いがゴロゴロいたら恐ろしい。かなりの広範囲に状態異常魔法を使用するからな。


 翌朝、荷馬車の準備をしているとザッジを先頭にウエストゲート村の騎士団が歩いてきた。


「今日は騎士団も参加する事になった。一緒に木を植えに行くぞ」


 ウエストゲート村でも苗木を育てているみたいで、荷馬車に沢山の苗木が乗っている。騎士団以外にも村人達が大勢参加するみたいだ。

 

 門を開けてもらい、みんなで橋を渡って行くと平原だった対岸に木が植えられているのが見えた。


「かなりの量が植えられているみたいだね」


「本当。凄いわね……」


 背の低い木が見渡す限り一面に植えられていた。これをアルカディア国のみんなが協力してやっているんだ。


「ナック君。元気の無い木だけに薬を使おう。思ったより木の数が多いよ」


 デミールさんが木を診察している。枯れそうな木の周りに腐葉土を盛ってあげてから薬の小瓶を根元に刺してあげる。


「しばらくは人の助けがいるね。その内、自然のサイクルが回りだすよ」


 自然のサイクルか……ただ、木を植えるだけでは中々回らないな。


「せっかく頑張って植えてくれた木を枯らせたくないので、薬を頑張って作ろうと思います。デミールさん、材料を集めて下さい」


「そうだね。みんなにお願いして材料集めてもらおう。ここに森や果実園が出来たら素晴らしい事だね。1番重要なのはみんなでやっているって事だよ。みんなが豊かな自然を取り戻したいと願って行動している。それが素晴らしい事なんだよ」


 周りにいた人達もデミールさんの真似をして枯れそうな木の周りに腐葉土を盛って薬を刺している。倒れそうな木に支えを作ってあげている人もいた。


 ルナがみんなの様子を真剣な眼差しで眺めている。


「ここは他国だからこの植樹でアルカディア国が得る物はなにもないわ。でも……みんなの前向きな気持ちが育っているのが分かるわ。自然について考えるきっかけにもなるわね」


「育てるのが大変だと分かるだけでも、自分の中に変化が起きる」


 この取り組みが上手くいくかは分からない。またゴブリンに荒らされてしまう可能性だってある。


 でも続ける いつまでもやり続ける 


 失敗しても 無駄になっても続ける


 失ったものを取り戻すのはそれ程大変な事なんだ


 まず 知らないといけない 


 そして ゆっくり 丁寧に 


積み重ねていくだけだ

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