第82話 村の秘密

 今頃、セントラル村で盛大な祝勝会が行われている。けど、自分は北側の防衛の為、ダンジョン砦に詰めている。隣り村の奪還作戦では見ているだけで何もやらなかったので、自分から引き受けたのだ。


「みんな、すまないね。今日は銀色羊のステーキとクレアの特製スープを出すから我慢してくれ」


「ありがとうございます。ここは快適なので楽しいですけどね」


 ダンジョン砦は館並みの設備が整っているので、防衛任務にしては負担が少ない。でも、みんながお祭りに参加している中での任務はさすがに可愛そうだ。せめて食べ物だけでもと、良いステーキを出す事にして狩りをしておいたのだ。フロンティア村から美味しいパンも届いていた。

 このままだといつまでも魔物に怯えて生活しないといけない。やはり長城を誰かが管理する必要がある。


「ナックさん、アルカディア村の村長が来ましたよ」


 ええ!? こんな所にわざわざ来るなんて……なんだろう?

 会議室で話をする事にした。最近はほとんど話をした事がなかったのでとても微妙な空気が漂っている。


 とりあえずハーブ茶でも出しておこう……


「ナック、いつになったら長城を取るのですか?」


「はい? 取る気などありませんけど……」


 いきなり凄い事をぶっ込んできたな!


 長城を取るなんて言った事もないぞ!


「東の国は魔物に占拠された可能性が高いと聞きました。東の国は魔物の国になったという事です。あなたが貰いなさい」


 東の国もかよ!


「あの……そんな無茶は出来ませんよ……」


 長城を手に入れて、東の国まで攻め込めという事か……とても無理だぞ……恐ろしい事を平然と言ってくれるな……


「ナック、魔物の勢力が大きくなり過ぎています。世界の均衡が破られようとしているのです。私達は使命を果たさなければなりません」


「使命とは? その様な事を聞いた事がありませんが?」


「あの村が特別な事は分かっているのでしょう? あなただけに話すのでよく聞きなさい。私達は東の山を守護する為にあの村で暮らしているのです」


 東の山を守護? あの山に何かあるのか?


「私達は東の山に棲む、世界の均衡を司る『聖竜』の眷属なのです。このままでは聖竜が動き、世界を滅ぼすかもしれません。そうなる前に私達が魔物を抑えなければなりません。本来なら私が指揮して魔物を抑えるところですが、今はあなたが王です。義務を果たしなさい」


「突然そんな事を言われても……」


「何の為に貴重なスクロールを渡したと思っているのです。もっと魔物を駆除しなさい。もはや他国の王は使えません。権力争いに固執し、魔物を抑える事が出来なくなっています」


 冗談を言う人では無いから全て本当なんだろうな……アルカディア村民がみんな聖竜の眷属なのか。だから聞いた事も無い様なレアジョブが深いところに眠っているのか……


「ルナのジョブはドラゴンクイーンでした。それも関係があるのですか?」


「当然です。これ以上均衡が崩れてたらルナが竜を従えて、人も魔物も駆除しなければなりません」


「人も駆除するのですか!?」


「人が愚かだから魔物が増えるのです。魔物とて均衡を保とうとしているのに、人が愚かな行為ばかりしているから数が増えてしまったのです。魔物より人を駆除しないといけないかもしれません」


 そんな事をルナにさせる訳にはいかない。でも、軍を動かすには理由が必要だ。それが今は無い……


「みんなにその事を伝えないと軍は動かせません。伝えてもいいのですか?」


「もちろん駄目です。私達の事を知った隣国の王は戦争に私達を利用しました。あの時は協力しないと攻撃すると言われ、仕方なく王と契約を結び東の国と戦いました。王が死んだ今、私達の事を知る者はもうほとんど居ません」


「ほとんど? 多少はいるのですか?」


「今の王の側近、ミルズは一緒に戦ったので知っています。でも、秘密を暴露したら死を招く契約魔術を結んでいます。知っているのは彼1人です。他は死にました」


 ミルズに手紙を書いて魔物を駆除させて欲しいと頼むか……でも何かしら理由がいるな。村長の言っている事をそのまま伝える訳にはいかないよな……魔物よりもウチの方が脅威じゃないか。


「何か対価を要求しないといけないのですが、アルカディア国は自給自足が可能になってしまったので必要な物がありません。ただで魔物を駆除するなど有り得ないでしょう……」


「面倒ですね。駆除させないと滅ぼすと言いなさい」


 無茶苦茶だなこの人は……でも、目が本気なんだよな……


「では……駆除した際に出る魔石が欲しいからという事にします。全く必要ありませんが……」


 みんな節約してくれるから魔石なんて余りまくっている。ほとんど虹色魔石に吸わせている状況だ。


「私が直接、王都に行き、話をつけて来ます。従者としてルナとカナデを連れて行きます」


「は? 危ないですって……今はとても危険な状況ですよ。王都なんて行かせられません」


「歯向かえば滅ぼすので何も問題ありません」


 駄目だこの人……もう言う通りにしとこう。せめて滅ぼされない様にミルズに手紙だけ書いておこう。


「ではアルカディア国の使者として派遣するので少し時間を下さい。あちらだって準備に時間が必要でしょう」


 おかしな事になったな……


「村長、ファリスにだけは話さないと事を進められません。よろしいでしょうか?」


「条件付きで認めましょう」


 嫌な予感がしてきたな……


「どんな条件でしょうか?」


「もちろんファリスと村人との婚姻です。婚姻して村に永住すると私に誓えば話をしても構いません」


 そうきたか……


 世界の存亡がかかっているし話をするしかないな

 

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