第80話 未来を耕す人

「じゃあ、行ってくるよ」


「どうしてそうなるのかしら……」


 ダンジョン砦から牛を連れて隣り村に行き、外堀と内堀の間に畑を作る。かなりの広さがあるので耕し放題だ。


「ナックさん、今日もありがとうございます!」

「毎日すみません。頑張って下さい!」


 村の復興の為、元住民の若者達が中心になって自治組織を立ち上げた。どこの国にも属さない住民達の国だ。当然、アルカディア国が裏で支援しているんだけど、表向きは無関係という事になっている。

 アルカディア国の各村から物資が搬入されて、野城の建築が進んでいる。午前中は畑を耕して、お昼ご飯をみんなで食べてからのんびりダンジョン砦に帰る。帰りに国境の橋の両側に作ってある畑の手入れもしていく。結局、ここには魔物は来なかったな。薬草が沢山育ってきた。


 だけど……北と南では育ち方が全く違う


 アルカディア側の方が成長がとても早くて品質も良いのだ。同じ様に育てているはずなのに。こんな所にまでダンジョンの影響が現れているのか……北側は完全に他国の扱いになっているのが明確に分かる。


 クレアと交代で北の防衛を担当するのは変わらずに続けている。各村から選抜された騎士団と一緒に隣り村の周辺を巡回しているが、魔物の姿は全く見ない。のんびり牛と一緒に歩いていても大丈夫だけど、騎士団がついてきてくれる。


 今日は珍しい客が来た。フロンティア村長のセレスだ。北への支援物資を届けに来たらしい。フロンティア村では苗木を育てるのが流行しているそうで、今日も苗木を沢山積んできていた。


「西の領地に植樹の状況を見に行ってもらえないかしら?」


「いいけど、何か問題でもあるのかい?」


「村の男性達が中心になって植樹をしているんだけど、本当に育つのか不安らしいのよ。」


「うーん。見て見ないと分からないな……分かったよ。デミールさんと一緒に見に行く事にしよう」



 久しぶりにアルカディア村に帰って来た。ほとんどダンジョン砦にいるので、アルカディア村にいるの方が少なくなっている。村の様子をルナと一緒に見て回る。

 アルカディア村は変わらずのんびりしている。でも、子連れで歩いている人達もいるので多少は賑やかになったのかもしれない。

 館に行くと受付にはファリスではない女の子がいた。会議室で話をしているの人達も以前とは変わっていた。


「人材が育ってきた様だね」


「そうね。もう何も言わないでもみんなで考えて動いてくれるわ」


 若者達に混じって年配者も頑張っているのが見える。作業スペースではお年寄り達が楽しそうに作業をしていた。


「ファリスとビッケはどこにいるのかな?」


 受付の女の子に聞いてみた。


「大臣と隊長はダンジョンで特訓中です」


「2人でかい?」


「いいえ。今日はノースフォレスト騎士団と一緒に攻城戦をしています」


「へぇー そんな事までしているのか」


「はい。ファリス大臣とノースフォレスト騎士団が守り側、攻撃側はビッケ隊長1人です」


 んん? 魔物とじゃなくて対人戦をしているのか! ビッケに勝てるとは思えないな。


「誰の特訓か分からないな……」


「とても役に立つと騎士団から評判がいいんですよ。ビッケ隊長を城に侵入させない様にみんな工夫を重ねています。それを村の防衛に活かしているそうです。侵入されても発見して囲めば勝ちです」


 なるほど。ビッケと騎士団の知恵比べか……楽しそうだな。


「お! ナック君ちょっといいかい?」


 デミールさんから声をかけられた。


「西の領地の植樹なんだけど、どうも栄養が足りないみたいなんだ。頼みがあるんだけど、錬金術で植物の成長促進薬を作ってくれないかい?」


「成長促進薬ですか……あったかな? そんなレシピ」


「普段は捨てる茎などから出来るはずだよ。実が大きくなったりするんだ。原料を集めて持って来るからやってみてくれないかい」


 植物の治療薬みたいなものかな。


「やってみましょう。成長に繋がりそうな栄養を抜き取って薬にすれば良さそうですね」


 館の作業スペースで待っていると次々に材料が持ち込まれた。それを薬に変えていく。小瓶1個分、錬成出来たので鑑定してみた。


 植物成長促進薬  品質  上質


「お! デミールさん出来ました」


 普段捨てる物からこんな薬が出来るなんて凄いじゃないか。


「小瓶に小さな穴を開けて、少しずつ薬が出る様にするとしばらく成長を助けるはずだよ」


 デミールさんは出来るだけ自然の力で育てたいんだろうな。かなり西の領地の植樹は厳しいと判断して助言してくれたみたいだ。


「明日はこの薬と腐葉土を積んで行きましょう」


「そうだね。アルカディア村の腐葉土はとても品質がいいからね。土の中にいろんな虫がいるから活躍してくれるはずだよ」


 翌朝、ルナとデミールさんと一緒に荷馬車でウエストゲート村に向けて出発した。途中、フロンティア村で元騎士の人達も荷馬車に乗って合流して来た。同じ様に腐葉土を積んでいる。苗木も沢山積んであった。


「ナック君、すまないね。忙しいのにこんな事に付き合ってくれて」


 西の城で知り合った人も来ていた。


「いえ。自分の希望でやり始めた事ですから。領地の違いがかなり影響している様です。北側も植物があまり育ちません」


「そうなのか……でも西側は最初の頃より良くなっているんだよ。何となくだけどそう感じるんだ」


「アルカディア国を参考に立て直すと聞いています。多分、少しずつ回復しているんだと思いますよ」


「この取り組みは家族ですら意味があるのかと疑問に思われるけど、私は素晴らしい取り組みだと思うよ。いつかきっと理解される日が来る」


 すぐに結果が出るものでは無いから理解を得るのは難しいだろうな。でも間違いなく数年後には効果が出る。

 

 とても活気のあるセントラル村を通ってウエストゲート村に向かう。セントラル村で祝勝会を行う予定なので準備が進んでいるのでとても賑やかだ。


 夜にウエストゲート村に到着した。ちょっと荷物が重かったので予定より遅れてしまったが、それでも夜に着くから本当に道が良くなった。


 村ではザッジが待っていた

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