第77話 ファリスの陣
何者かが隣り村でダンジョンを作った可能性がある。ごく最近の事だろうから、まだ影響は出ていないだろうが発展してしまうと、魔物はどんどん増えてしまう。
「攻略法は考えてあります」
ダンジョン砦に設けられた作戦会議室でファリスが眼鏡の奥の瞳に強い意志を込めて発言した。
「あの砦は全く防御に適していません。ただのガレキの山です。よく燃えると思うので火計を用いましょう」
ファリスは既に用意してあった地図をテーブルに拡げた。最初に砦を見に行った時点でどう攻めるか考えていたのか……
「まず3方より火を放ちます。そうすると敵は火の無い方へ逃げるのでそこに私達が陣を敷き、待ち構えて掃討します」
そう言ってファリスは地図の上に木で出来た駒が8個置いた。
「私達の部隊は全部で8部隊に分けます。基本的には敵を陣の中に誘い込んで戦います。オークは獰猛な性格で怒ると真っ直ぐに突っ込んで来ます。これを上手く利用して陣の中へ誘導します」
部隊の編成が示された。
左軍 右軍
第1部隊ザッジ前衛隊 第3部隊クレア前衛隊
第2部隊ヒナ弓隊 第4部隊ルナ弓隊
軍師 ファリス
第5部隊ジェロ遊撃隊 第7部隊ビッケ特殊隊
第6部隊カナデ魔法隊 第8部隊セレス救護隊
軍師のファリスを中心に8個の駒が置かれた。
「ん? 俺は何処に入ればいいんだい?」
「私の隣りで見ていて下さい」
見ているだけか……全てファリスに任せているから何も言えないな。
ウエストゲート村にわずかな守備隊を残して、全軍出撃する事になった。アルカディア村で万全の準備を整えてから出陣した。
早朝、全軍で隣り村に向けて出撃した。魔物は全く砦から出て来ない。隣り村の入口前に堂々と布陣した。
「無警戒にも程があるな……」
どんどんと防御柵が設置されていく。ファリスと自分は陣の中央に築かれた物見台の上に椅子を置いて座って様子を見ている。
大きな荷馬車が左右に3台ずつ進んできた。荷馬車の荷台には小さな矢倉が乗せられている。続々と兵士達が配置についていく。
「作戦を開始します。第5、6、7部隊 出撃!」
第5部隊のジェロ達が馬に乗って砦の裏側に走って行く。第6部隊のカナデ達は徒歩で砦の左側へ、第7部隊のビッケ達は右側へ進んで行き配置についた。
ファリスが手を上げた。
カン! カン! カン! カン! カン!
鐘の音が辺りに鳴り響くと砦に火矢が一斉に放たれた。砦の外壁はガレキの山だ。あっという間に炎が燃え広がっていく。砦の3方で炎と黒煙を上げてガレキが燃えている。
入口からオーク達が飛び出してくるのが見えた。ファリスが左手を上げた。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
太鼓の音が辺りに鳴り響くと左軍のザッジ達が動き出した。オークの群れがザッジの第1部隊に突撃していく。たいして相手もせずにどんどんと陣の中に通していく。オーク達は防御柵が無い所を通って突き進んでいく。オーク達が長蛇の列になって道を進んで行き、それを第1部隊が両脇から槍で突いて攻撃している。
「1、2、3、今だ!」
道の両側から兵士達が鉄の鎖を引っ張り、オークの群れの1部だけを鎖で絡め取った。絡め取ったオーク達を陣の中に引きずり込んで槍で突き刺していく。鎖が張られる度にオーク達が分断されて第1部隊に囲まれて倒されていく。
オークの群れは進めば進む程、数を減らされていく。オーク達は全く後ろを気にせずにただ突き進むだけだ。
終点でザッジが待ち構えているが辿り着いたオークはほんの僅かで、すぐに囲まれて全滅した。
ファリスが今度は右手を上げた。
ド! ド! ド! ド! ド!
太鼓の音が辺りに鳴り響くと右軍のクレア達が動き始めた。オークの群れがクレアの第3部隊に突撃していく。同じくあまり相手にしないで道を作って陣の中に招き入れている。同じ様に進めば進む程、数を減らされていく。終点でクレアが待ち構えている。
火計を終えた各隊が配置についた。砦は大炎上していて次々に火の無いこちら側へオーク達が飛び出してくる。
「第8部隊は第1部隊の救護に向かって下さい」
ファリスが左手を上げた。
ドン!ドン!ドン!ドン!カン!カン!カン!
第1部隊が動き出して、新たな道が砦から左軍に向かって出来上がっていく。そこへオーク達が雪崩れ込んでいく。突き進むオークに向かって第2部隊のヒナ達から弓が放たれていく。攻撃を受けたオークは怒り狂ってどんどんと直進するが物見台から見ているとただ誘導されているだけだ。オーク達の進む先にカナデの魔法隊が待ち構えているのが分かる。
ド!ド!ド!ド!ド!カン!カン!カン!
攻撃は右軍の方に新しい道が出来て、第4部隊のルナ達から矢が放たれている。オーク達の進む先にビッケとフグミンが待ち構えているのが見える。ジェロ達の第5部隊は左右の軍の穴を塞ぐ様に移動してオークの数を上手く減らしているみたいだ。
第8部隊がクレア達の第2部隊の救護に向かっているのも見える。
「恐ろしいな……これが軍か……」
ただ突っ込んで攻撃して来るだけのオーク達は組織的に駆逐されていく。ファリスの指示で8部隊が素早く動き、更に連動している。
「この陣に入った時点で全滅だな……」
ファリスは集中して戦局を見つめている。時々、伝令役に指示を出すが戦いが進めば進む程、その数は減っている。太鼓と鐘の音だけで陣全体が理解して動き出す様になってきているのがハッキリと見える。
個ではなく集の戦いだ
個々の強さはあまり関係ないな。これは組織の強さだ。オークの群れの中にはナイトタイプもいるだろうが……個の力で何とかなる状況ではない。多少耐えてもすぐに囲まれて串刺しにされている。
「これがアルカディア軍の本当の力です」
ファリスは力強く言った。
「指示を確実に実行し、訓練通りに敵を倒す事が出来ます。今まで積み重ねてきた事があるからこそ成り立つのです。戦いだけではなく準備もです。アルカディア国全体の実力と言っていいでしょう」
軽傷者が数名出た程度でオークの砦は陥落した。
ほんの数刻の出来事であった。
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