第76話 対岸
「ファリス、その本は予備の練習用にしてくれ。一応、各工房に依頼してしっかり製本してもらうようにな。別に新たな魔導書を製作する」
「え? これで十分ですけど……」
カナデも高級な杖を使っている。ファリスにも良い物を準備してあげなくてはいけない。
「いや、駄目だ。魔導書として専用の設計で作り直す。アルカディア国の全ての力を結集して最高の本を作り上げる。ビッケ、ヒナに設計図を依頼してくれ。素材は全て最高の物を使用する。付与が出来る様になった事も伝えてくれ」
属性のスクロールを商人ルドネが仕入れてくれるはずだ。それを本の素材に付与して魔法の威力を引き上げる。
「私の為にそこまでしなくても……」
「何を言っているんだ。もう君自身がアルカディア国の『至宝』だ。今までの功績から考えても最高の物を使用しなければならない。全ての素材に属性を付与して全属性を強化する。インクは虹色羊のインクにする。紙はディスペルマジックは金色、その他は上質だ。魔法の種類毎に属性を付与するから数を教えてくれ。木はアルカディア国の古木を、糸もなるべく良い物を、皮は金色羊の皮にしよう」
「ナック兄、僕がみんなに頼んでくるよ。ファリスの為に素敵な本を贈りたいなー」
「ああ、そうしてくれると助かるよ。俺はここから余り動けないからね。各工房に伝達してくれ。アオイにも話をして欲しい」
北の防衛の為、クレアが来てくれた時以外は離れる事が出来ない。自分で動きたいが出来ない。ビッケなら必ずやってくれるはずだ。
「……そこまでやって下さるなんて……仕上がれば唯一無二の本となりそうです。魔物図鑑の中から戦いに使えそうな魔物も加えさせて下さい」
「もちろんやってくれ。遠慮はいらない。必ず最高の物にして欲しい。国の重大な事業だ。ビッケ、アルカディア最高品質だ。頼んだよ」
ビッケは大きく頷いた。今こそアルカディア国が積み重ねてきたものが活かされる時だ。
努力を重ねてきたファリスに
アルカディア国が積み重ねてきたもので応える
「すぐに戻って魔物図鑑を試してみます。成功したらダンジョンに配置したい魔物を考えます」
「頼むよ。今、思いつくのはオークの上位種だな。後は鉱石をドロップしそうなヤツが欲しいな。でもいきなり凄い魔物が召喚できるとは思えない。十分に注意して試してくれ。魔力切れで倒れても困るからね」
ビッケとファリスが馬車に乗って帰っていく。上手くいけば恐ろしい戦力になる。
「凄いわね。私達も頑張らないといけないわ」
ルナがハーブ茶を持ってきてくれた。頑張ると言ってもルナはかなり強いし、回復魔法も上達してきている。
「自分達が強くなるのも大事だけど、今は周りのみんなを強化する事の方が重要かな。ゴブリンとの戦いを経験してない人が多いからね」
「オークは全然、攻めて来ないわね。スープとステーキがかなり効いたのかしら?」
「オークはゴブリンよりは賢そうだからな……ちょっと偵察に出てみようか」
ルナと2人で今はオークの砦と化している隣り村の近くまで馬で行ってみる。
「中が全く見えないし、何も出て来ないわね……」
しばらく様子を見ていたが、全く動きが無い。普通なら食料を求めて辺りを徘徊するはずだ。
「おかしいな……あり得ないぞ、こんな事……」
「全滅したのかもね。それとも他に移ったとか?」
「もっと近くに行ってみよう」
全く外を警戒していない様なので近くに行くと、魔物がギャーギャーと騒いでいる音がする。ニオイも臭い。
「中にはいるみたいね……食料はどうしているのかしら?」
「ヤツらは奪う事しか出来ないはずだ。外へ出ずに食料を確保しているとなると……」
ダンジョンか? 村の中にダンジョンがあれば食料を調達出来る。
「まさか……ここに魔王がいるのか?」
魔王がダンジョンを作って食料を餌に魔物を中に誘い込む。それで負のサイクルが回るのか? 食欲は生きる為に必要な物だ。正とも負とも言えない力じゃないか?
「ダンジョンが有るならこの土地の力を吸っている事になるわね」
「西の領地みたいに荒れてしまうな。ただでさえ状況は良く無かったからすぐに枯渇してしまう」
「防ぐにはここを潰すしかないわね……」
ここは他国だ。そこまでする義理はないな。しかもオークならまだしも魔王に戦いを挑む事になってしまう。
「ナック……自分の国さえ影響が無ければそれでいいのかしら?」
ルナが変わり果てた隣り村を悲しい顔で見つめている。
「とても難しい質問だね……戦うのは命懸けだ。もし死傷者が出たらと思うと攻め込む気にはなれないな……」
「ザッジもカナデも西の領地で命懸けで戦っているわ。私はこの村を取り戻してあげたい」
「ルナ……」
オークを駆除しても、元の村に戻すのは無理だ。一度、更地にしてから再建しないといけない。
やるか……
アルカディアに避難して来ている人達の為にも
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