第78話 ファリスの軍略
「陣はこのまま維持します。砦を完全に焼き払い、ダンジョンの有無を確認します」
「そうだな……ダンジョンの中に逃げ込んでいるかもしれないな」
以前は自分も敵が攻めて来たら、戦わずにみんなをダンジョンに避難させるつもりだった。
「はい。出来て間もないダンジョンなので大きくは無いはずです。出口を複数準備している可能性は低いかもしれませんが、斥候を周囲に放ち警戒します」
黒い鎧の男がこちらの方に来るのが見える。ザッジが物見台に来た。
「恐ろしい軍略だな……オークのナイトが何とか俺の所まで来たが、既にボロボロだった。まだ戦った事の無い者達に交代で倒して貰った。結局、指示を出すだけで全く戦っていないぞ」
「その指示が大事なのです。信頼出来る騎士団長の支持だからこそ、迷い無く実行出来るのです」
この陣形は指示通りに動ける事が1番重要だろうな。ここから見ているとそれが良く分かる。
「ファリス。参考までに聞きたいんだが、この陣に弱点はあるのか?」
ザッジがファリスに聞いた。確かに気になる所だな。
「もちろんあります。今回はザッジさんの所から突撃陣形でクレアさんの方へ抜けるのが有効でした」
「オークは火計を仕掛けられて怒り狂っていた。前しか見えていない状況で陣形を組んで横に進む事など出来ない……目の前に道が出来ればどんどん流れて込んでいくばかりだ」
「はい。陣が完成して火計を仕掛けられた時点でほぼ負けですね」
サラリと言ってのけたが……とんでもない事だぞ。
「今回はという事は次回は違うのか?」
「はい。今回の反省を活かして改善を加えます。次は弱点が無くなるでしょう」
「それでは……戦う度に弱点が減っていくという事か?」
「はい。兵士達の練度も上がりますので次第に弱点は減ります。対抗するには陣形など関係無い程の凄い個の力を持つ以外には無いでしょうね」
確かに次は皆、動きが格段に良くなるだろう。実際に戦いの前半と後半では既に動きが変化していた。こちらの指示が来るのが分かっているような綺麗な動きをしていたのだ。
「見事としか言いようがないな。だが、本当に恐ろしいのは次の一手だな。全く想像もつかない手段だ」
ザッジの言う通りだな……これをもし自分がやられたらと思うと恐ろしくてしょうがない。
「籠城する相手によく使われる手段です。しかも、今回は地形的に楽です。ほとんど工夫せずに計略が実行出来ます」
ダンジョンは基本的に地下にある。アルカディア村で最初にダンジョンを作った時も階段が地下に向かって出来た。
水攻めだ……
まともにダンジョンに踏み込んで戦うのではなく、ダンジョンを水没させてしまうつもりなのだ。既に近隣の河川から水を引き込む準備が進んでいる。いくらダンジョンで待ち構えていても全く関係ない。
「これもアルカディア村で水路を引いた経験が活かされています。何度もやった事なのですぐに完成するでしょう」
「問題はこの後だな。村を再建していかないといけない」
「安全が確保されるまでは何も出来ないので、各国の王と交渉する必要があります。当然、魔物は完全に駆除しなければいけません」
交渉か……全く経験が無いな。辺境の極小国など相手にされない気もするけど、東の国の王が実際に管理している領地はアルカディア国より遥かに狭いな。領地の権利を誰も主張しなければ長城まで行って門を閉める事も可能かもしれない。いっそ3国共同でやってもいい。
だが長城を誰が守るのかが問題か……東の国が魔物に占拠されているなら常に魔物の脅威と向き合わないといけない。
「ここが片付いたら一旦、退却しよう。もう一度じっくりと対策を考えてみたい。何とか争いを避けたいんだ」
「ナック……ここはアルカディア国が攻め取ったと主張しても誰も文句は言えないと思うぞ」
確かにそうだが……アルカディア国は国土を拡張するつもりはない。
「村の再建は惜しみ無く手伝う。だがここをアルカディア国にするつもりは無いよ」
「お前らしいと言えばそれまでだが……」
今回は魔物の勢力が拡大する恐れがあったから村の奪還をした。アルカディア国の為にやったんだ。もちろん村人を村に帰してあげたい気持ちもあった。
「アルカディア国は今の広さで十分です。人口から考えるとまだ大きいくらいです。ここを管理するのはアルカディア国にはかなりの重荷になると思います。常に多くの兵士を置かないといけません」
「確かにそうだな……元々が平和な辺境村だった。地形もただの平地だし、守りに適していない。攻められた時に守りぬくのは難しいな」
ザッジも別にここの土地が欲しい訳ではない。ただ、みんな必死で戦ったのに何も得る物が無いのは問題だな……
「大した事は出来ないけど、みんなで収穫祭の時の様な祝勝会をしよう。多少は労いになると思うんだ……」
「いいんじゃないか? それで十分だ」
「お2人共……まだ勝った訳ではありませんよ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます