第73話 熱き魂

 アルカディア村とダンジョン砦にレッドキャップのレベル10が1体いる部屋を増設した。これでレベル10になる者が増えるはずだった。

 しかし、レベル10になったのはビッケ、ルナ、自分だけだった。


 

ナック ダンジョンマスター レベル 10

          ロード レベル  1


          スキル 錬成

              分解

              魔力消費減 極大

              付与

             

           魔法 マジックボール

              マジックウォール

              ディスペルマジック


ビッケ  マスターアサシン レベル 10

     スライムテイマー レベル 10

           戦士 レベル  5

           狩人 レベル  3


   アクティブスキル   ステルス

             テイムモンスター召喚


        スキル 急所攻撃威力増 極大

            二刀流適性   極大

            回避力アップ  極大

            攻撃力アップ  大

            命中力アップ  大

              意思疎通

                 

ルナ   ドラゴンクイーン レベル 10

          裁縫師 レベル  3

         革細工師 レベル  2

    

     アクティブスキル 竜魔槍

              竜召喚

              速射


         スキル 命中率アップ 極大

             槍適性    極大

             魔力消費減  大


           魔法 ライトヒール


 ジョブの『ロード』が芽生えていた。更に錬金術師のスキル『付与』が新たに増えた。ビッケは他ジョブもきっちり上げてきた。『ステルス』と『テイムモンスター召喚』が増えた。ルナは『魔力消費減』、『速射』、


 『竜召喚』が増えた


 竜を召喚出来るみたいだがルナは出来ないと言っている。ファリスに相談したら、契約をしてないからではないかと言われた。


 竜なんて何処にいるんだ?


 まずそれが分からない。もうひとつ分からないのが他のレベル9の人達がレベルが上がらない事だ。ファリスは条件を満たしていないからではないかと予測している。レベル10になった者とレベル9から上がらない者の差は……


 オークのナイトを倒していない事だけだ


 あの戦闘に参加したのはザッジ、ビッケ、ジェロ、カナデ、ルナ、自分の6名だけだ。多分、レベル上限の開放条件はオークのナイトを倒す事だ。それからレベル10のレッドキャップを1匹倒すだけでレベルは上がるはずだ。


「ナック様、ロードは君主ですので当然と言えば当然ですね。ナイトに近いジョブです。まずレベル10になったルナさんに光の中級魔法を覚えて貰いましょう。強力な治癒魔法の『キュア』です。強力な回復に加えて様々な状態異常を治す事が出来ます」


 ファリスから魔法のスクロールを受け取った。状態異常を治療出来る魔法は心強いな。


「それからアオイさんが相談があるそうなので一緒に行きましょう」


 アオイが相談なんて珍しいな。鋼の武器への切り替えは上手くいってそうだけどな。こちらも付与の件で話があるし丁度いいか。

 アオイの店にファリスと一緒に行くとアオイは真剣な顔で考え込んでいた。


「やあ、アオイ。相談って何だい?」


「え? ああ……実は……ビッケの事なんだけど……」


 ビッケの事? おかしな事をする子ではないし何だ?


「私……ビッケの事しか考えられなくなってしまったの……」


 な、何!  


 一瞬で空気が凍りついた!


 ファリスの方を見るのが恐ろしい!


「あ、ああ……そういう相談はあまり受けていないんだ」


 本人達で解決してもらうしかないだろ……


「え? 何? 武器よ! ビッケの武器の事!」


「なんだ、武器か! そうだよな、武器だよな」


 はぁ良かった 驚いて損したな


「今の私ではビッケに合う鋼の武器が作れないんじゃないかって」


「ビッケに聞いたのかい?」


「ビッケは今の武器のままでいいって言うのよね……」


「それならいいじゃないか。本人がそう言っているんだ」


「ビッケは……」


 ファリスがそう言いかけて一旦、言葉を詰まらせた。


「ビッケはアオイさんの武器をとても大切にしています。これ以上の武器は無いと思っているみたいです。いつも熱心に手入れしてますよ。特別な思いがあるみたいです」


「うん。それなのよ……そこが心配なの。あの刀はずっと使い込まれているわ。以前より細く、短くなっていると思うの。肝心な時に折れたら大変だわ。元々、繊細な武器なのよ……」


 ビッケは多分、折れるまで使い続けそうだ。特にあの王都で手に入れた方は思い入れが強いだろうな。


「なるほどな……アオイ、迷いがあると作った物にも現れてしまうぞ。今まで君はアルカディア国の鍛治仕事をずっと請け負ってくれた。武器だけではないよ。農具だって建材だって全部だ。みんなが君に感謝している。君には積み上げてきたものがあるはずだ。中途半端では駄目だ。全てを注ぎ込んだ作品ならビッケは必ず受け取ると思うよ」


 付与は邪魔だな……ビッケにそんな小細工は必要ない


「そうだ! みんなの前で君の技を披露するのはどうだい? みんなの思いが君を1段上に引き上げるかもしれない。当然ビッケも来てもらう」


「技を披露……真剣勝負ね。最高の仕事が求められる。そこから道が切り開けるかもしれない……やるわ!」


 その日の夜。アオイの店で刀鍛治の披露が行われる事になった。


 多くの人が見学に訪れている。フロンティア村から来ている人もいた。子供からお年寄りまで幅広い年齢の人がいた。ファリスとビッケも当然、見に来ている。


 アオイは真っ白な衣装を着て、頭に黒い布を巻いている。


「始めます」


 言葉を発したのはその一言だけだ


 熱く燃え盛る炉に鋼のインゴット入れて赤くなるまで熱した


 カン! カン! カン!


 金床の上に真っ赤なインゴットを乗せてハンマーで叩いていく


 また炉の中にインゴットを入れて真っ赤にする


 カン! カン! カン!


 辺りはもの凄い熱気だ 側にいるだけで汗が出てくる


 次第にインゴットが形を変えてきた


 アオイが真剣な眼差しでハンマーを振るう

 

 カン! カン! カン!


 真っ赤なインゴットを真ん中で折っていく


 熟練した技だな……アルカディア全国民の武器を作ったんだ


 カン! カン! カン!


 折ったインゴットをまた塊にしていく


 叩く毎にアオイの必死な想いが伝わってくる


 カン! カン! カン!


 塊が長くなってきた


 ここにも戦いある


 カン! カン! カン!


 次第に刀の形に近くなっていく


 1歩も後ろに引かない 真剣勝負だ


 カン! カン! カン!


 アオイの姿があの日のビッケに重なっていく


 炉で夕陽の様に刀を赤く熱した そして


 ジュウゥゥーーーー


 細長くなった金属を水の中に入れた

 

 しばらく水の中に漬け込んだ後


 幾つもの砥石を使って刃を作っていく


 美しい刀の姿が徐々に見えてきた


 アオイが仕上がりを確認している


 そして大きく頷いた


「アオイ、名を付けるんだ」


「この刀は私の想い……

 

 アルカディア国に暮らす全ての人達の希望……

 

 静かに燃える熱い魂……


 この刀の名は『 紅月あかつき 』


 これをビッケ、あなたに使って欲しい


 命を賭してアルカディアを守るあなたに……」


 アオイがビッケに仕上がった刀を差し出した


 ビッケはしっかりと両方で受け取った


「ありがとうございます。この刀に恥じないように頑張ります」


 アオイに深く頭を下げた


 周りに笑顔が溢れていた


 アオイはとても晴れやかな笑顔で胸を張っている


 とても小さな国の武器屋で


 笑顔と信頼 


 また小さな事が積み重ねられた

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