第72話 善悪
ダンジョン砦はすっかり訓練所になっている。
基本は3対1。砦にいる人の中から3名に相手をして貰う。
ルナに初心者用の杖を装備して貰ってヒーラー役をやってもらい、怪我をしたら即、回復して貰う。
防具は通常の物で武器だけ羊皮と羊毛で作った安全な物を使う。でも、殴り、蹴りは有りなので時々、怪我をする事がある。
「こんな訓練をしていたのね……」
ルナも相手をしてくれる人達も呆れている。そんな事を言われても以前は羊しか相手がいなかったので仕方が無かったのだ。
「それにしても君達。もっと相手の隙を突く攻撃をしてくれないか? 予測しやすくてイマイチ練習にならないんだ」
「は、はい!」
「もしかして遠慮しているのかい? そんな事では自分達の練習にならないよ? 死にたく無ければ真剣に叩き潰すつもりでやってくれ」
「ええ?!」
「そうだな……俺をオークのナイトだと思って戦ってみてくれ。体の大きさは違うが大きな敵は足を狙うといいよ。剣が苦手な人は槍を使うのもいい。戦い方を工夫するんだ」
そう言うと1人が武器を棍にした。
「うん。後は陣形をしっかり組むんだ。三方から囲んで連携して攻撃を重ねてくれ」
棍で中距離から突きがくるとさすがに交わしきれない。足元ばかり気にすると上に隙が出来て攻撃を受けてしまう。
「いいね。上と下に攻撃を分けられると対応しにくいよ。もっと相手の嫌がる事をするんだ。そうしないと自分達がやられるからね」
次第にボコボコと叩かれる様になってきた。これでいい。
「よし、今度はこちらにも1人入ってくれ。3対2をやろう」
みんなで交代しながらボコボコ叩き合う。棍を使う者も増えてきた。
「うん、自分に合う武器を選ぶのも重要だよ。合わない武器を無理に使う必要はないし、苦手な戦い方をする必要もない。自分の戦い方を見つけてくれ。そうして必ず生き残るんだ。近接が苦手なら弓でもいい」
男だからと剣と盾で戦わないといけない訳ではない。女だからと弓にこだわる必要もない。得意な戦い方が1番いい。
少し訓練しただけでも動きが良くなってきた。やっぱり対人戦はいろんな駆け引きがあるから上達も早い。
「ここにはオークの小部屋が有るからすぐに実戦で試せる。もうすぐオークの部隊が来るからそれまでにしっかりと鍛えるんだ」
ゴブリンの駆除をしたアルカディア村民と移民して来た人では強さが違いすぎる。実戦経験が足りていないのだ。
アルカディア村から馬車が来て物資の補給が行われている。クレアがいたので訓練に付き合ってもらう。
「クレアは本当のナイトだ。しかもガードが固い守り型のナイトだ。俺とクレアのパーティー対6名でヒーラーとしてルナを加えて訓練してみよう」
クレアと背中合わせで立つ。これだけで後ろを取られる心配が減る。これで互角かまだこちらの方が強いくらいだ。
「凄い訓練をしているって噂になっていましたが……ちょっと物足りないですね」
さすがクレアだな。クレアも実戦から少し遠ざかっていたのに余裕があるみたいだ。
「もう2人加わってもらおう。2対8だ。それでどうかな?」
「そうですね。みんな敵でもいいですけどね」
「「えええ?!」」
驚く事は無い。ゴブリンの大軍を蹴散らす実力があるんだ。
「よし! 本気でいくぞ! しっかり対応しないと怪我をするからみんなも本気でやってくれ。中途半端が1番怪我しやすいぞ」
「私も体が鈍っていたみたいです。みんな協力してね。もっと激しく打ち込んできて欲しいわ」
こんな機会は滅多に無い。いい経験になるな。みんなでひたすらボコボコ叩き合う。こちらが怪我をしたらクレアが回復魔法を使ってくれる。相手側にはルナがいる。全く勝敗がつかない。とてもいい訓練だ。
延々と戦える。ヘトヘトになるまで戦って終了した。
「クレア、村に戻ったらレベル10の敵を配置するからレベル上げも出来ると思うよ」
「本当ですか! レベル10になれば更に防御力が増しますよ。強化魔法とアクティブスキルが覚えれるそうです!」
「それは凄いな。魔法はファリスに貰ってくれ。もし無ければアオイに入手を頼んでおくといい」
レベル10は他のジョブでもいろんな強化がありそうだな。しばらくしたらジョブの再鑑定をした方がいいかもしれない。
「ねえナック、今は少しでも早く強化をしたい状況だわ。クレアに防衛を代わってもらって、先にレベル上げが出来る様にした方がいいわ」
ルナから提案があったのでクレアがこのまま残ってくれる事になった。
家に戻ってフグミンを鑑定した羊皮紙を虹色魔石に読み込ませた。これでレベル10の敵が配置可能になったはずだ。マスタールームで羊娘に相談をする。
「魔物のレベル上限が10になったはずだ。羊とミミズのレベル10を配置するよ」
「当然無理ね! レベル上限は確かに上がったけど、配置出来るのはレッドキャップのレベル10だけよ。他の魔物はレベル9が限界ね!」
「上位種だけという事か?」
「上位種がある魔物はそうね。羊とミミズには上位種が無いわ」
「ん? 魔物図鑑で見たぞ? デカイのとかがいたはずだ」
「上位種ではなく、別種ね! 人型の魔物と獣型魔物では違いがあるわ。獣型でも上位種がある種もいるけど、弱い種には無いわよ」
「そうなのか……フグミンのレベル上限はいくつだ?」
「当然レベル99ね! マスターに名前を与えられたダンジョンの幹部様ですから!」
「じゃあレッドキャップはいくつだ?」
「レベル14ね!」
レベル15にまた、壁があるのか……
「レベル99の魔物は存在するのか?」
「当然ね! 魔王の中の魔王ならそれ位じゃないとね」
「ちょっと待て……魔王は1人じゃないのか?」
「そんなの山の様にいて、しかもピンキリよ! ショボいダンジョンしか作らない魔王も居ればいつも満員御礼のダンジョンを作る魔王もいるわ。錬金術師も大勢いるんでしょ?」
いるな……
領地を枯渇させてしまう愚かな錬金術師もいる
ゴブリンを増殖させて人々を困らせる者もいる
魔王ならどうなる?
枯渇させる者も居れば繁栄させる者も居るのか?
「なあ? 魔王は悪なのか?」
「当然いろいろね! 錬金術師は善なのかしら?」
いろいろだな……
善と悪の線引き自体が曖昧だし難しい
そんな単純に善悪の区別はつかない
物事をはっきり分けるのは難しい
良い事と悪い事、両方合わせ持っている事の方が多い
見極めが大事なんだ
その見極めが王の役割だ
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