第69話 溢れる未来

 ダンジョン砦に設けられた会議場所でファリスと話し合いをする。北の橋を防衛する任務の為、アルカディア村には戻れないので話がある時はファリスに来てもらう事にしてある。

 隣り村の人達の住居建築が順調に進んでいる事、食料も問題無く確保出来た事が報告された。


「西の領地から木材提供の依頼が来ています。領地の北側に防衛線を作る為の木材が無いみたいですね」


 ウチに支援を求めてくるとは余程厳しいな。でも、タダで提供する訳にはいかない。


「条件次第だな……交換条件として西の領地、ウエストゲート村の対岸付近に木を植えさせてもらうのを了承してもらってくれ」


「木材を提供するのに木を植える……想像の斜め上をいく条件ですね。全く思いつきませんでした」


「フロンティア村では苗木が多く育っているはずだから、それを元騎士の人達に頼んで植えてきてもらってくれ」


 今を凌ぐだけではなく、数年後、数十年後の事まで考えて行動するんだ。それが結果として、今の自分達にも影響する。未来を築く、前向きな気持ちが『正のサイクル』を動かす。


「ザッジ騎士団長達は独立部隊として西の領地、北東部での活動が許可されました。表面的にはステラさん傘下の傭兵部隊として扱われます。ナック様の要望通り、アルカディア国とは無関係な部隊という事になっています」


 西の領地が耐えてくれないとアルカディア国はオークに囲まれて孤立してしまう。アストレーアと共闘して、西への道だけは確保したい。


「それと村長からこれを頂きました。私とナック様、そしてもう1人分あります」


 ファリスはそう言って金色羊皮紙の魔法スクロールをテーブルの上に3個置いた。


「ディスペルマジックのスクロールです。オークのナイトに使えば防御力が普通になるそうです。オークのナイトはアクティブスキルで防御力を上げているそうで、この解除魔法を使えば普通の防御力になるそうです」


 ディスペルマジックだって? そんな魔法があるのか……しかも羊皮紙が金色だぞ……


「味方にも使用出来るのかい? 状態異常を解除出来たら凄いな」


「はい。敵、味方、関係無く解除出来るそうです」


 敵よりも味方に使用出来る事の方が大きい気がするな。


「このスクロールはとても貴重な物じゃないか? 普通にある物とは思えないな」


「恐らく売り物では無いでしょう。レア物なのは間違いないですね。味方に使用するのが本来の使い方みたいです」


 味方の状態異常を治す魔法……属性は無属性魔法なんだろうな。スクロールは3個ある。もう1人、この魔法が使えそうなのは……


 セレスだな……


「村長はセレスの事を知っているのかい?」


「さすがにジョブまでは分からないと思いますが、特別な才能には気付いているようですね。村長はこれから各村で魔法の才がありそうな人を探してくれるそうです」


 村長が動き出したのか。オークの襲来はかなり重大事みたいだな。今まで静観していたのに急にレアなスクロールまでくれた。


「オークだけでは済まないのか? もっと強敵が来る可能性があるって事か……それくらいじゃないとあの村長がこんなに動くはずが無い」


「はい。オークより強い人型の魔物といえば、オーガ、トロール辺りでしょうか……そんな魔物が来たらアルカディア国は滅びます」


 ギリギリ、オークを倒せる力しかないアルカディア国に大型の魔物が来たらとても防ぎきれない。


「どこまでを想定すれば良いのか分かりませんが、トロール辺りを想定した防衛計画を立ててみます」


 トロールまで想定したら強固な城壁が必要になってしまう。今からそれをやっていては目の前のオークに対応が出来ない。


「ファリス、今はオークに集中しよう。村長から貰った魔法が使える君は重要な戦力だ。この前のマジックウォールも予想以上に良かった。事務仕事を他の者に任せてでも訓練をしてくれないか? セレスは俺が口説きに行く。重大な局面だ。希少な魔法を活かして局面を打開したい」


「私が? ……重要な……戦力? やります! やってみせます!」 


 ファリスの冷静な判断力は戦闘でも必ず役に立つ。そこに攻守の魔法が有り、更に解除魔法まで持っている。派手な攻撃魔法は無いけど、ファリスがパーティーに居れば安定感が一気に増す。回復魔法が使えない分は薬で何とかすればいい。


「ファリス、君を特殊部隊の参謀にしよう。ザッジにはジェロがいる。ビッケには君だ。君とビッケでパーティーを集めてくれ。俺はクレア、ルナと組もう」


 西の独立部隊……ザッジ、ジェロ、カナデ

 北の防衛部隊……クレア、ナック、ルナ

 特殊部隊…………ビッケ、ファリス


 セレスが参加してくれたらザッジの所に入れたいが、隣国に行けば死罪だったな……アルカディア国からは出れない。独立した北の領地なら可能か。


「アルカディア村に少しだけ戻りたい。クレアを呼んでくるよ。不在の間、特殊部隊もここで防衛について欲しい」


「分かりました。もうひとつだけ報告があります。セントラル村で進行中の洞窟での採掘に進展があったそうです。何でも洞窟内の調査中、目の前に突然、亜鉛鉱石のある地層が発生したらしいのです」


 そんな事が出来るのはアイツしかいないな。


 また魔力が溢れたか


 アルカディア国に『正の力』が満ちている証拠だ


 もっとだ! もっと溢れさせるぞ!


 そして更に『正のサイクル』を加速させる


 希望が未来を生み出すんだ!

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