第68話 誤算
「さすがにこれはどうなのかしら……」
アルカディア国の実力はかなりのものだ。1日で橋の両側に畑が出来て、人が住んでいる様に見える小屋も両側に建てられた。実際には住むつもりはない。宿泊はダンジョン砦でする。
畑と言っても木の柵で囲っただけなので耕すのはこれからだ。
今日はルナと2人でアルカディア国側の畑をのんびり耕す。ちゃんと牛を連れてきてもらった。
橋と同じ幅の道が森へと続いている。道の両側は太めの木で柵を作った。嘘の畑とはいえ、なるべくなら荒らされたくない。
「せっかくだから薬草を植えてみるよ。すぐに踏み潰されるかもしれないけどね」
「こちらは柵がしっかりしているけど、向こう側はとても雑ね?」
対岸の畑の柵は橋の渡り口を覆うように半円状になっている。柵を壊さないと橋が渡れなくしてあるのだ。柵に縄が結んであって壊すと縄が引っ張られて鐘が鳴る仕組みだ。
「壊される前提で作ってあるからね。一応、向こうも真ん中に細い道だけ残して耕すよ」
向こう岸の畑でフグスライムが散歩している。倒せそうなゴブリンなら駆除してもらう事にしている。
「ナック兄。『クレア特製スープ』を持ってきたよ。偵察に行こー」
ビッケとファリスが馬に乗ってやって来た。ファリスが隣り村の様子を見たいそうなので一緒に偵察へ行く事にしたのだ。
ビッケ、ファリス、ルナと隣り村の様子を見る。
「完全に砦と化していますね……」
村の原型が分からないくらいゴチャゴチャに木が組まれて砦が完成しつつあった。中の様子が見えにくくなっていた。ゴミ溜めにも見える。
ビッケが『クレア特製スープ』を置きに行った。道の真ん中に置いてくる予定だ。
「これが上手くいけば楽勝なんだがな」
ゴブリンは間違いなく引っかかるが……オークは分からない。
しばらく村を眺めているとビッケが戻ってきた。
「ゴブリンが嬉しそうに鍋ごと持っていったよ。オークは村から出て来ないみたいだね」
「恐らく周辺を食い潰すまで砦に居座ってから移動するつもりでしょうね。でもゴブリンさえいなくなればオークが食料を調達しないといけなくなりますね」
オークが出てきてからが勝負だな。オークの体格から考えるとステーキの方が好きそうだな。
「オークが出てきたら鑑定も試みたいな。出来たらリーダーを鑑定したいけどな」
リーダーのレベルが1番高いはずだからな。レベル10以上ならアルカディア軍のレベルは一気に上がるはずだ。
「リーダーが動く時は部隊を組んでくるでしょうね。しかし、本当に人の姿がないですね……魔物に支配された地域と認識した方が良さそうです。情報を得るには西から得るしかないですね」
西にはザッジ、カナデ、参謀としてジェロに行ってもらった。北の橋は自分が防衛担当だ。自分の発案だし早くオークを鑑定したいのもある。商人ルドネからの情報もまだ無い。恐らく王都は大混乱だろうな。
「今はゴブリンが斥候役ですが、オークに変わったら鑑定を狙ってみましょう。部隊が来た時は森まで必ず引いて下さいね……」
「どうした?ファリス?心配でもあるのかい?」
「いえ……あの村に戻るのはもう無理ですね。避難して来た人は港の建設予定地に移住してもらいます。他の地域はどうなってしまったのか少しだけ心配です……」
ファリスはほとんど自分の過去の話はしない。何処に住んでいたのか、家族がいるのかも言わない。言わない事は聞かない事にしている。
「ナック兄。家にいると緊急の鐘があまり聞こえないから、しばらく館に住む事にするねー」
「ん?ああ。そうしてくれると助かるよ。みんな分散しているから館が手薄だ。ビッケ、しっかりファリスを支えてくれ」
『クレア特製スープ』作戦を2回やってから『羊のステーキ毒状態』作戦に切り替えた。最初の内はゴブリンが食事を取りに来ていたが、すぐにオークが取りに来る様になり、3回目からはステーキに引っ掛からなくなってしまった。やはり、オークにはそれなりの知能があるようだ。
今日はオークの斥候をおびき寄せて鑑定をする予定だ。ビッケ、ファリス、ルナ、自分の4人パーティーにフグスライムを加えたパーティーで挑戦する。
珍しくビッケが弓を装備している。少しでも強くなる為に狩人と戦士のレベル上げをしているそうだ。前衛は自分とルナ、後衛ビッケとファリスでいく。
メイン盾は自分で左手に中型の鉄の盾を装備した。右手はいつものルドネから手に入れた剣だ。
ルナは両手持ちの『鋼の長槍』を装備している。亜鉛鉱と鉄鉱から作った鋼のインゴットを使用した、従来より強度の高い鋼製の槍先だ。オークの防衛力に対抗する為にアオイに鉄から鋼への装備切り替えを依頼している。
ビッケは普通の弓だけど矢が特別製だ。矢尻にフグ毒が塗られている毒矢を使用してもらう。
ファリスは特級司書のレベル4になっている。ファリスにはアルカディア国の古木から作った木の杖を装備してもらった。杖の先端には銀色羊の魔石から作った魔法石を取り付けてある。木工工房で作ってもらった初心者用の杖だ。
覚えた魔法が『マジックボール』だけなので『マジックウォール』という防衛魔法も覚えてもらった。自分もファリスと同じ無属性魔法が使えるので一緒に習得しておいた。
オークの斥候をパーティーが陣取っている所までビッケに誘導してもらう。
4人+1匹 対 オーク1体だ
ビッケが走ってくるのが見えた。
「マジックウォール!」
ファリスが杖を構えて魔法を詠唱して、俺の前に白く光る魔法障壁を作ってくれた。盾を構えてオークを待ち構える。大きな棍棒を持ったオークが凄い勢いでこちらに走ってきた。ビッケが俺の横を走り抜けていく。
ドン!
オークが魔法障壁を突き破って体当たりしてきて、構えていた盾に激突した。音は凄かったが、それ程強い衝撃ではなかった。すぐに剣で攻撃する。ルナがオークの横から槍で攻撃を加えていく。ルナの狙いは足だ。足を攻撃する事により相手の動きを鈍くする。オークが棍棒をブンブン振り回してくるがよく見れば当たらない。
「弓いいよー」「魔法いけます!」
ビッケが弓を、ファリスが杖を構えている。
「よし!ビッケ!頼む!」
「フグスライム!痺れ毒だ!」
オークの背後に回っていたフグスライムにビッケから指示が飛んだ。
地面からピョンと跳ねてオークの背中に張り付いた。
「ギャーーーー!」
オークが悲鳴を上げると同時に暴れ出してフグスライムを振り払った。オークの動きがたまに止めるようになった。
「ルナいくよ!」
ルナと一緒に攻撃を仕掛ける。ルナが足、俺は棍棒を持った手を狙う。体を狙っても簡単には致命傷を与えられないのは分かっている。
ルナの突きがオークの足に刺さった瞬間、オークが嫌そうに動きを止めた。その隙に棍棒を持つ手を斬りつけた。
「グギャーーー!」
ドン!とオークが棍棒を落とした。ルナの方を目でみると目が合った。よし!サッとオークから離れるとルナも一緒に離れた。
オークが棍棒を拾おうとしている
「今だ!撃てぇ!」
「マジックボール!」
ファリスが魔法を詠唱し、ビッケが矢を次々に放った。
小さな光の玉がオークの頭に当たり、体には矢がドンドン刺さっていく。
オークはドシン!と音を立てて後ろに倒れた。よし!懐に用意しておいた上質な羊皮紙でオークを鑑定する。
オーク 戦士 レベル 3
レベル3だと?!
「チッ!鑑定出来た!トドメを!」
「マジックボール!」
ファリスにトドメをさしてもらう。小さな光の玉がオークの頭部に直撃し、オークは動かなくなった。
みんなに鑑定結果を見せた。
「……こんなに強いのにレベル3なの?」
ルナもさすがに驚いている。熊のレベル9と同じかそれ以上の強さに感じた。それなのにレベル3とは……
「オークという種族自体の強さですね。同じレベル3でもオークとゴブリンでは全く強さが違うという事です」
「それにしてもレベル3とはな。この分だとリーダーもレベル10未満だな……」
とりあえずオークをダンジョンに追加して研究する事は出来る。
しかし……レベル9のオークを倒す事が出来るだろうか?
想像以上に深刻な状況だ……
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