破軍の章

第66話 異変

 カン!カン!カン!カン!カン!


 緊急を知らせる鐘がアルカディア村に鳴り響いた。

 隣り村からの侵攻計画は完全に潰したはずだ。何があったのか全く想像出来ない。


「ジェロから救援要請! 緊急事態だ! 魔物の軍勢が隣り村に押し寄せてきた!」


 何! ジェロとビッケで隣り村の移民の手引きをしているはずだぞ!


「ファリス! 全軍出撃だ! 村民も警戒態勢。各村への伝達を頼む。俺も出るぞ!」


 ダンジョンに入って一気に馬車を走らせる。最初の馬車に乗せてもらった。ザッジ、ルナ、カナデが同乗している。魔物の軍勢だと? どこからそんなものが来たんだ。


 またゴブリンを繁殖させたか!


「ジェロとビッケがいるのに救援要請など信じられんな」


 ザッジは何かの間違いじゃないかと思っているようだ。確かにあの2人が救援を求めるのが想像出来ない。アルカディア国でも最強レベルの2人だからだ。


「とにかく行けば分かるわ。本当ならかなりの敵がいる事になるわね」


 カナデが豪華な杖を握り締めた。未知の敵がいる可能性が高い。かなり緊張しているな。


「この構成なら私は後衛で弓と回復役ね」


 ルナは槍も持って来ていたが弓を持って矢筒を背負った。


 ダンジョンを利用した一直線の地下道を通ってダンジョン砦に着いた。そこには隣り村の人達が大勢、避難していた。


「騎士団長! 外は魔物だらけですが何とか迎撃して数を減らしています。敵はゴブリンではありません。もっとデカいヤツです!」


「新手か! ジェロとビッケは?!」


「橋の上で強敵1体と戦い続けています! 何とか足止めするので精一杯のようです! 凄まじい戦いで誰も近くに寄る事が出来ません!」


「何だと!? 急ぐぞ!!」


 ザッジが慌てて駆け出して行く。ルナとカナデも一緒に走り出した。


 あの2人が本気で戦って勝てないだと?


「俺は情報を得てから行く! 先に橋へ行ってくれ!」


 出口の小屋を守る者達に事情を聞く。


「現状報告をしてくれ!」


「はい! 敵を森に誘い込んで個別に撃破中です。数はそれ程多くありませんが非常にタフな敵です。今の所、負傷者はいません。距離を置いて少しずつ体力を奪って倒しています」


「よし! すぐに後続の援軍が来る。しっかり情報を伝えて確実に敵を仕留めてくれ」


 森の中にアルカディア軍の姿はない。こちらの戦いやすい所や罠に誘い込んで撃退するはずだ。


 問題は橋の敵か! 


 走って橋まで向かう。


 橋の中央でザッジが両手剣で戦っているのが見える。その向こうに巨大な体に猪の顔がついて緑色の敵の姿が見えた。


 あれはオークか! 


 体長は軽く2メートルは超えている。丸太の様な太い腕で巨大な棍棒を振り回して攻撃しているのが見える。

 ザッジ、ジェロ、ビッケが巨大なオークを囲んで戦っている。オークはザッジを標的にして棍棒を無茶苦茶に振り回している。


「ライトヒール!」


 ザッジの後ろにいるルナが回復魔法を使った。対象はビッケみたいだ。オークの後ろにジェロとビッケがいる。

 カナデがルナのさらに後ろで魔法を使っている。あれは遅延魔法だな。地面に豪華な杖を突いて敵の動きを鈍くする魔法を使っているようだ。


「ライトヒール!」


 今度はジェロを対象にした様だ。後ろの2人の動きが次第に良くなってきたみたいだ。時々、オークが後ろにも攻撃を繰り出し始めた。


「スリープ!」


 豪華な杖の前に見覚えのある美しい魔法陣が展開された。カナデが睡眠魔法を唱えた。その瞬間にザッジ、ビッケ、ジェロが敵から離れて間合いを取った。


「いくぞ!」


 オークの動きが一瞬止まったところに3箇所から同時に突きが放たれた。


「ギャーーーー!」


 同時攻撃が決まってオークが悲鳴を上げた。決まったな。


「ウォーーーー!」


 大きな雄叫びを上げてさらにオークが狂った様に暴れ出した。オークに取り付いていた3人が振り払われ吹っ飛ばされた。


オークの体から光が発せられ体の傷が塞がっていく


「厄介なやつだぜ! コイツはナイトだ! 最後に魔法もブチ込め!」


 ジェロが大声で指示を出してきた。オークのナイトだと! ただでさえタフなのに回復魔法まで使うのか。

 同時に魔法攻撃をする為にカナデの横に移動する。


「肉が硬くて攻撃が効かないぞ!」


 ザッジが両手剣で敵を斬ってはいるが、浅くしか斬れないようだ。


「スロウ!」


 カナデはまた遅延魔法を使い始めた。豪華な杖を地面に突いて敵の動きを鈍くしている。

 オークの攻撃は強力そうだが、元々動きは俊敏ではないみたいだ。さらに遅延魔法が加えられたのでかなり動きが鈍い。ザッジも攻撃を受ける事無く回避している。もっとも受けたらただでは済まないだろうが。


「ライトヒール!」


 ルナがビッケに回復魔法を使った。ビッケはかなり消耗しているみたいで本来の動きとは程遠い。


「ウオーーーー!」


 またオークが雄叫びを上げた! また体が光っている。回復魔法を使ったか? これでは倒せないぞ……

 3人で懸命に攻撃を重ねているが傷がどんどん塞がっていく。


「ナック! スリープの後に攻撃魔法を使うわよ!」


 カナデが必死に集中を保ちながら話しかけてきた。精神を集中して魔法の詠唱に備える。


「スリープ!」


 オークが一瞬、動きを止め、目を閉じた。


「行くぞぉお!!」


 ザッジが両手剣でオークの足に斬撃を加え、オークが膝をついた。

そこにジェロが後ろから背中に剣撃を加え、ビッケが首に突きを放った。


「ギャーーーー!」


 オークの悲鳴と同時に前衛が退避する。


 「アイスアロー!」「マジックボール!」


 カナデと同時に魔法を放った!!

 

 大きな光球がオークの頭に炸裂し、氷の矢がオークの全身に刺さって氷漬けになっていく。


「ここだ! 行くぞぉおお!!!」


 ザッジから号令が発せられた!


 カナデの魔法が止まった瞬間に前衛達が同時に攻撃を再開した。

 前衛達から凄まじい連撃は繰り出された。

 

 ドン!


 巨大なオークが無言で前のめりに倒れた。


「うぉーーーー!」


 ザッジが倒れたオークに飛びかかり両手剣を背中から突き刺した。


 ザン! 


 暴れに暴れていたオークがピクリとも動かなくなった。


 バタン!


 「ビッケ!」


 ホッとした瞬間にビッケまで前のめりに倒れてしまった。ジェロは地面に座り込んで肩で息をしている。


「もう……動けないぜ……」


 ルナとカナデがビッケを抱え上げてダンジョン砦に連れていった。


「ビッケ! 大丈夫? しっかりして」


「頑張ったわね! ビッケ!」


「うん……何ともないよー」


 ビッケは歩けないものの何とか受け応えは出来ているみたいだ。


「ジェロ……肩を貸そうか?」


「……いらないぜ……」


 まあ……そうだろうな

 

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