第65話 国境の橋 明星

 夜明け前、強く光り輝くあの星が見える


 アルカディア国側、国境の橋の前に立つ


 右には弓を背負ったヒナがいる


 左には同じく弓を背負ったルナがいる


 橋の向こうに侵攻部隊が集結しているのが見える


 こちらは3人だけだ


 ルナに剣と護身用ナイフを渡した


 1人で橋の真ん中まで歩いて行き


 立ち止まった


 北の領地側から騒めきが聞こえる


「ははは! 馬鹿が居るぞ! 手始めに矢で射殺せ!」


 静かに立って隣り村の村人達が弓を構えるのを見つめる


「放て!!!」


 沢山の矢が一斉に放たれた


 …………


 そして全て外れた


「何をしている! 下手くそめ! しっかり狙え!」


「もう一度! 放て!!!」


 また沢山の矢が一斉に放たれた


 …………


 そして全て外れた


 信じている 当たるはずなど無い


 ヒナとルナが前に進んで弓を構え、矢を同時に放った


 2人の将校の前の地面に1本ずつ矢が刺さった


 将校は驚いてのけ反ったが


「ははは! 田舎者は皆、弓が下手だな!」


 ヒナとルナが又、矢を同時に放った


 今度は続けてもう1矢放った


 2人の将校の前に3本の矢が綺麗に横に並んで地面に刺さっている


 将校達が急に焦った顔になった


 ヒナとルナがアルカディア側に戻っていった


 「ええい! な、何をやっている? もっと矢を放て!」


 大量の矢が次々に放たれた


 全て外れて 矢が飛んで来なくなった


 矢が尽きたようだ


「どうした? こちらは丸腰だぞ? 騒いでないで自分達で斬りに来いよ」


 隣り村の者達の視線が将校達に集まった


「ふん! いいだろう……イカれた農民など叩き斬ってくれるわ!」


 将校2人が抜剣して橋を渡って来た


 目の前まで来ると男が1人、剣を構えて斬りかかってきた


 その剣を素手で受けると同時に分解して鉄粉にした


「何!! 錬金術師か!」


 慌ててもう1人の男も斬りかかってきたが


 同じ様に剣を鉄粉にしてあげた


「くそが! 殴り殺してくれるわ!」


 将校達が一斉に殴りかかってきた


 1人の男の腹に蹴りを入れて


 もう1人の男の殴ってきた手を掴んだ


「人間を分解した事は無いがどうなると思う? 土になるのか?」


「ヒィーーー! 離せ! 離せ!」


 うるさいので手を掴んだまま腹に蹴りを入れた


「黙れ!」


「ヒィーーー! ヒィーーー! ヒィーーー!」

 

 黙らないのでもう1発、腹にちょっと強めに蹴りをいれた


 急に静かになってしまった 意識が飛んだ様だ


 もう1人の男が後ろを向いて逃げようとしている


「こんな大勢の前で逃げるつもりか? 情けないヤツだな……」


 北の領地側でみんなが成り行きを見守っている


「うるさい逃げる訳などないだろうが!」


 自暴自棄になった男が飛びかかってきた


 軽く足払いして転ばせて靴の裏で強く地面に抑えつけた


「ぐはっ!」


 そしてアルカディア国側を見て大きく頷いた


 アルカディア村に続く細い道から黒い鎧を纏った男が現れた


 大きな両手剣を背中に背負っている ザッジ騎士団長だ


 その後ろから白桃色の豪華な鎧を纏った美しい女性が重装した黒い馬に乗って現れた クレア騎士団副長だ


 ザッジ騎士団長が右に、クレア騎士団副長が左に行くと森の中から大きな足音が聞こえてきた


 ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!


 赤の鎧、青の鎧、緑の鎧、黄の鎧、紫の鎧


 各村の騎士団がしっかりと統一された装備で一斉に現れた


 綺麗に横並びに整列して剣と盾を正面に合わせて構えた


 細い道から大きな旗を掲げた黒装束の少年が歩いてきた


 ビッケ特殊部隊隊長だ 

 

 ドン!

 

 全軍の中央でアルカディア大国旗を地面に突き下ろした


 アルカディア軍の大横陣が完成した


「私はアルカディア国王ナック。お前たち2人に問う。これは我が国への宣戦布告か?」


 将校達は何が起こっているのか分からず、動けなくなっている


 ヒナとルナが歩いてきて2人を縄で縛りあげ、戻っていった


「お前達の住んでいる所を言え」


「なぜそんな事を言わないといけないんだ! 誰が教えるものか!」


「まあいい。向こうにいる者達が知っているだろう」


 北の領地側にいる者達は片膝を地面につけ頭を下げている


「今からそこに行ってお前達がやろうとした事をする。お前達2人のせいだ」


「な、何! そんな酷い事をして許されると思うなよ!」


 将校達は急にジタバタと暴れ始めた。


 許すも何も誰の許しだ?


「お前達がやろうとした事をそのまま返すだけだ。それに見て分からないのか? 我が軍は強いぞ? 行って1人1人に教えてやろう。お前達のせいでこうなったとな」


「ぐっ……」


「よし! このまま、お前達も連れて行ってやる。南から大軍を引き連れての凱旋だ。どうだ? 南からの備えは出来ているか? 一気に攻め上がり蹂躙してみせるぞ? それも全てお前達のせいだ」


「…………」


「沈黙は肯定と見なすぞ? もう1度だけ答える機会を与えてやる。よく考えろ。これは宣戦布告か?」


 将校2人がお互いの顔を見合わせて黙っている。お前達次第だぞ


「……独断で来ました……宣戦布告では……ありません。食料欲しさに勝手に行動を……しました」


 そうだ それでいい


「ほう? そんな事がお前達の国では許されるのか? 真の国王だと主張するお方がこんな無法者を許すはずが無い……隣り村の方々、無法者を引き渡します。無法者が勝手にした事の様なので今回の件は不問にしましょう」


 北側から若者達が将校2人を引き取りに来た。


「国王様……私達は日頃のご恩を返すどころか、あなたに矢を放ちました。私達もこの者達と同罪です……」


「ん? そんな事があったか? 確かに矢が飛んでいるのは見えたが、私に向かって放たれた矢は1本もなかったぞ? 単なる訓練だろう? 私にはそのようにしか見えなかった。では後の事はしっかりな」


 アルカディア国側に戻って兵士達に号令を出す


「隣り村との共同訓練はここまでだ! 撤収するぞ!」


 アルカディア村へと続く細い道を歩いて行く


 森の入口の木陰からジェロがヌルっと現れ、尋ねてきた


「おい。今のは全て段取り通りなのか?」


「そう見えたか?」


 ただ信じた それだけだ


「お前は大馬鹿者だぜ……命が幾つあっても足りんぞ……久しぶりに勘が外れたな……もっと何かが起こると思ったんだがな」


「せっかく出てきたんだ。隣り村の人達に移民を打診してくれ」


「呆れる程のお人好しだな……まあ次に来たら顔見知りでも戦うしかないからな。いいだろう。ビッケを借りるぜ」


 地下のダンジョン砦に行くとファリスが待っていた。


「この様な事は今回限りでお願いします」


 温かいハーブ茶を作って出してくれた。


 とても良い香りがする。


 騎士団が引き上げて来た。ホッとした表情で歩いて行く。


「でも、これでアルカディア国はさらに強くなるでしょう」


 優しい香りが砦の中に漂っている


 兵士達はお茶をのんびり飲んでいる『王』を心に刻み込んだ


 とても とても 深く 


 しっかりと 刻み込んだ


 アルカディア国王の姿を


 強く光り輝く『真の王』の姿を   





☆ 明星の章 完結です。皆さんの応援に励まされて少し執筆が進むようになりました。感謝です!!


 次章、破軍の章もよろしくお願いします。


 追記 心優しいレビューをお待ちしています。


              ふぐ実

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る