第63話 東国へ

 小さな荷馬車が関所の前で止められた。荷物と目的の確認をされたが、布と食料を交換しに行くと言ったらあっさり通してくれた。


「助かるな。今日はまともな物が食べれそうだ」


 荷物を確認した若い兵士が小声で呟くのが聞こえた。余程、食料に困っているんだな……

 隣り村に着くと以前と比べて全く活気が無いのがすぐに分かった。若者の姿が全く無いのだ。年配の村民に頼んで村長の所に案内してもらった。


「あ、あなたは!」


 スッと手を挙げて言葉を遮り、要件を伝える。ここで正体がバレると厄介だからな。


「食料と布を交換して頂きに来ました。村の様子がかなり変わりましたね?」


「あ、はい……若者は女性も含め皆、徴兵されてしまいました」


「ん? 女性の徴兵は出来ないはずでは?」


「表向きは関所の管理等の名目ですが事実上は徴兵です……」


 愚かにも程があるな。本気で戦いを仕掛けるつもりか……なぜそこまでして戦うのか。そんなに自分が王になりたいのか。


「もし何かあればいつでも頼って下さい。こちらも準備してますので」


「ありがとうございます。そのような事にならないのが良いのですが」


 荷台だけをここで預かってもらい、東の国の玄関口になっている村に向けて出発した。


「ナック兄がみんなの王になれば争いも起こらないのにねー」


「そうなるまでに争いが起こるだろう?」


「あ! そうか……」


 ビッケと馬に乗って北上して行くと、東の山脈が徐々に低くなっていくのが見える。もう少しで玄関口の村に着きそうなのだが……


「関所があるな……領地の中にも関があるとはな」


 国境の橋みたいな関所ではなく西の砦みたいな関所だった。兵士の数も段違いに多い。


 通れるか?


「すみません。東の国に商談に行きます」


 門の前で止められ、荷物を確認された。リュックサックには交換してもらった布が入っている。


「食料と交換するつもりなら無駄だぞ。向こうも無いからな」


「そうなんですか……でも上からの命令なので行くしかないです」


「それは災難だな。ここは通すが東の国に行けるかは分からんぞ」


 何とか関所を通り、さらに北上していく。北の領地も酷く荒れていて、西の領地と似たような状況だ。多少は木があるのでまだマシな方かもしれない。

 東の国の玄関口の村まで何とか辿り着いたが……


「ナック兄……刀を装備している人が沢山いるね……」


 ビッケが小声で話かけてきた。兵士の装備が明らかに騎士の装備と違っていた。東の国の兵が入ってきているのか? ビッケが探りに行ってくれる。ビッケの装備は刀だし多少は怪しまれないかもしれない。


「東の国から逃げてきたんだってさー 人同士の争いに魔物まで加わって滅茶苦茶らしいよ」


「ビッケ、まずここで情報を集めよう。かなり危険みたいだな」


 国境は封鎖されているが、こちらで兵士になるなら通してくれるらしい。こちらから向こうに行く者など居ないので、通れるかは行ってみないと分からないようだ。行ってみよう。元々そのつもりなんだ

 

 村を出て東に進んで行くと南北に城壁が続いているのが見える。


「あれが東の国との国境にある長城だな」


「凄い長さだね! あれがずっと向こうの山まで続いているのかー」


 北の方を見るが山は見えない。ただ長城が続いているだけだ。驚く程の長さだな。長城への道はしっかりしているので迷う事は無い。

 長城の門に着いたがあまり兵士はいない。途中の関所の方が大勢いたくらいだ。


「東の国へ商談に行きたいのですが通れますか?」


「向こうに行くのか? 珍しいな……通行証が必要だぞ。無ければ通れない」


 リュックサックの中からルドネさんに準備してもらった通行証を取り出して門番の兵士に渡した。


「……これは古い通行証だな。これでは通せん」


「古い? そんなはずはありません。最近、発行してもらった物です」


「……王の名前が違う。ここは新しい国になった。これは紙切れだ」


 どういう事だ? 王の名前が違う? 新しい国?


 ……独立したのか!


 そんなもの通るはずが無いぞ!


「独立したと言う事ですか?」


「それは違う。こちらが正当な王。真の国王なのだ! 偽の王の印など意味は無い」


 これは駄目だ……最悪な事態だな。


「そうですか……仕方ありませね……戻ります……」


 ビッケを促してゆっくりと道を戻っていく。ここで怪しまれれる訳にはいかない。門が見えなくなるまでとにかくゆっくり帰る。


 すぐに帰らないといけない


「ビッケ! 急いで戻るぞ!」


「え? ファリスから預かっている物もあるけど?」


 それは分かっている。賄賂の魔石だ。

 

 だが西に向かって馬を走らせる。


「ここの国とアルカディアの間には同盟が無いんだ。完全な敵国になってしまう可能性がある」


「え? 同盟が無いと攻めてもいいの?」


「普通の国はそんな事はしないさ。でもここは……異常だ」


 まだ独立して間も無いはずだが、周到に準備していたのなら一気に戦争に突入するぞ。道中では独立の話は出なかったから、ごく最近の事だろう。まだ公になってないのかもしれないな。


 一気に隣り村まで駆け抜けて戻った。村長に確認したがまだ独立の情報は来ていなかった。


「愚かな事ですが……小さな辺境村には逆らう事など出来ません」


「食料の支援は変わらず継続しますのでご安心を」


「何とか村を立て直そうと頑張っていますが……もう打つ手がございません。何の恩返しも出来ません……ただ感謝するだけです。申し訳ございません……」


 土地は痩せ、若者まで取られたのだ。仕方がないだろうな。


「ちゃんと布を頂いてますからいいんですよ」


 空の荷台を馬に引かせてアルカディアに帰る。得たのはリュックサックに入っている布だ。

 村長達が関所まで見送りに着いて来てくれた。門番は村の若者なのでこれからは顔パス出来る様にしてくれた。


「まさか国王様が物資を運んで来るなんて。知らずに失礼しました」


「ははは。国王なんて形だけですから。中身はただの農民ですよ」


 関所に居る人達がみんな頭を下げている。そんな事しなくてもいいんだけどな……


 

 館に戻り、ファリスと緊急会議を開いた。各村に北の情勢を伝達し警戒を怠らないようにしてもらう。


「防衛計画は既に出来上がっていますので、すぐに取り掛かります。早く情報を得られただけでも大きいですね」


「東の国には行けなかったけど、全くの無駄ではなかったな」


 防衛計画が書かれた書類を見せてもらう。


 そうきたか……単純だが面白いな


 本当にすぐ出来てしまいそうだ


 

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