第60話 ボトムアップ

ビッケとフグスライムがマスタールームに遊びにきた。

 フグスライムを見るのは久しぶりだけど、かなり大きくなっている。

 両手で抱えてようやく持てる大きさだ。


「ナック兄、フグスライムがこのままだとレベルを上げるのは無理だって言ってるんだ」


「ずっと戦っていたんだろ? それでも無理なのか……もういいんじゃないか? 適当に遊んで暮らせば。かなり頑張ってもらったからな」


 フグスライムの頑張りによりレベル9の敵と戦える様になったが、どうもレベル10になる事は無理みたいだ。


「自分を見つめ直すってさー しばらくここにいる事にするって」


「おかしな羊娘がいるけどいいのかな?」


「ムキーーー! 私はおかしくないわ! これは流行の設定なのよ!」


 面倒だから放っておくのが1番いい。


「面倒になったら消化してもいいのかって? いいと思うよー」


「危険よ! この珍妙なスライム! 私は美味しくないのよ!」


「味なんて分からないってさー 溶かせればいいらしいよ」


「マスター……シクシク……スライム怖いです」


 羊娘が急に泣き始めた。とても面倒な事になってきたぞ。


「まぁコイツも役に立っているから、溶かすのはやめてくれ」


「当然よ! 私は超優秀な執事ですからね! オーホホホー!」


 羊娘が急に威張り出した。


 本当にひどく面倒だ……


「ところでビッケ。設計図が出来たんだって?」


 ヒナが無事に出産を終えて、在宅で仕事を再開してくれたので、早速設計図を頼んだらしい。ビッケがリュックサックから設計図を取り出して見せてくれた。


 攻城戦とゴブリン用装備の設計図だ


 城はダメだと思っていたが……全く無い発想だった。石ではなくて土の城なのだ。土なら維持するのに魔力は必要ない。城門の上にゴブリンの狩人4体と魔法使い2体が設置されている。門も土の壁だが少し薄いので、強い攻撃をすれば崩れるだろう。城門の中に熊、狼、ゴブリンのモンク、レッドキャップ、ミミズ、羊、スライムが各1体設置されている。城といっても城壁、城門、投石置場、内側から登れる階段しかない。

 ゴブリン用装備も工夫されていた。矢尻が土で先端が丸いのだ。当たれば痛いだろうが深く刺さる事は無いだろう。投石まで土製だ。


 これいいのか?


 どうも都合が良すぎる気がする。


「羊娘、この設計図は可能か?」


 羊娘に設計図を渡して見てもらう。


「当然可能よ! 恐ろしい程のドケチね! ゴブリンの大部屋より消費が少ないわよ。大きく壊れた時には修復するわ。また魔力が余るわね」


 門は毎回、修復だな……しかし、コイツ『また』と言ったな。


「羊娘、お前、アルカディア国に何かやってないか? 失敗しそうだった作物までよく育って大豊作になった事を疑問に思っている人がいるんだが?」


 デミールさんがかなり疑問に思っている。研究にならない程、異常な大豊作だったのだ。


「当然やっているわ! 溢れた魔力を最適に運用しているのよ」


 やはりコイツか……プラスに働いているのだから文句も言えないな。


「そんなに魔力が余っているのか?」


「余っているなんてもんじゃないわ。最近、急激に溢れた事もあったわね。仕方ないからそこらの若い木にぶち込んでおいたけど!」


 収穫祭の時か……若い木なら問題ないな。成長が早まる感じか。


「ふーん。真面目に働いていたんだねー 溶かすのやめとくよ」


「ピキーーー! まだ溶かそうとしてたのね! こんな可愛い美少女を……シクシク……」

 

 構わないのが1番いい。


「ビッケ、魔法使いの魔法はどうするんだい?」


「ファイアボールのスクロールを貰ってきたよ。見た事ないしさ。慣れてきたら状態異常魔法もいいかなー」


「あれは恐ろしい魔法だよ。対策を練っておくのは悪くない。しかし、これでは難易度が高すぎじゃないかな?」


「ナイトのお姉さん達もいないしね。普段はレベル4でいいよ。僕の時だけレベル9にしてねー」


「おいおい。まさか1人でやる気かい?」


「最初はフグスライムと行くけど、多分1人で勝てちゃうねー」


「心配だから一緒に行くよ。今から試してみよう」


 設計図に敵のレベルと魔法を書き込んで完成させ、魔石に読み込ませた。人気が無くなってきたゴブリンの大部屋と差し替えにした。


 ビッケ、フグスライムと一緒に館のファリスの所で正式に受付してから、入浴施設にある正規の入口を利用してダンジョンに入った。


「フグスライムと一緒に考えた技があるからナック兄は見ててね」


 前方には土で出来た城壁と城門が見える。城壁の高さは10メートルだ。城門は魔法を1発叩き込めば壊れるくらいの厚みだな。ビッケの強さは敏捷性の高さにある。あの城門をどう壊すんだろうか……


 城壁の上には弓ゴブリンと魔法使いのゴブリンが配置されている


 ビッケがフグスライムを抱え、城壁に向かって走り出した


 弓ゴブリンが矢を次々に放った


 ビッケは左右に蛇行しながら矢を避けていく


 魔法使いのゴブリンがファイアボールを発動した!


 ビッケは更に加速して魔法を避けた!


 城壁の近くまで行くとフグスライムを前に放り投げた


「いくよー」


 地面にいるフグスライムの上にビッケがジャンプした


「フグスライム! 大膨張だ!」


 ビッケがフグスライムの上に乗りそうになった瞬間! フグスライムが一気に膨らんだ!


 ポヨーーーーン!


 ビッケはフグスライムを利用して高く飛び上がった


 そして城壁の上にジャンプして飛び乗ってしまった


 ゴブリン達が慌てて攻撃しようとしたが、一瞬で蹴り倒される


「ナック兄、入ってきていいよー」


 ビッケの姿がすぐに見えなくなった


 こちらも慌てて城門をマジックボールで壊す


「マジックボール!」


 そんなに厚みはないのでボロボロっと門は崩れ落ちた


 走って城門を通り抜けたけど魔物達は既に全滅していた……


 駄目だ もう全く相手にならない……


「ビッケ……これでは君の役には立たないな」


「ううん。いろんな方法を試してみるから、全然いいよー」


「しかし……もう抜刀すらしていないじゃないか?」


「みんな素手で戦ってるよ? 熊を殴り倒すのが流行りだよー」

 

 はぁ? みんなだって? 熊を素手で?


 どうなっているんだ! アルカディア国民は!


「スッキリするんだってさー」


 そうなのか? 


 いや……待て……そうじゃないだろう……


 知らないうちにとんでもない事になっているみたいだ


 アルカディア国民は素手で熊を倒してストレスを発散していた


 恐ろしい農民達だ!

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